オーストラリアが9月、アメリカとイギリスとの新たな安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を通じて、原子力潜水艦を導入することを決めた。また、今や韓国と北朝鮮の南北朝鮮も原潜の保有を目指している。

日本を取り巻く近隣諸国での原潜保有計画が進む中、9月の自民党総裁選では、4候補のうち、河野太郎、高市早苗両氏が「原潜保有を検討すべき」との考えを示した。

さらに最近では、海上自衛隊の潜水艦が11月16日、アメリカ海軍と南シナ海で初めて対潜水艦戦(ASW)の訓練を実施した。戦後の日本防衛の基本理念は「専守防衛」であり、これまでなら自国から遠く離れた南シナ海で潜水艦を運用し、アメリカ海軍と対潜戦の共同訓練を実施することなど考えられなかったはずだ。

今後も、中国の海洋進出をにらみ、「自由で開かれたインド太平洋」の実現を目指し、日米の共同訓練や共同監視活動のために南シナ海に海自潜水艦を派遣することが日常的になる可能性がある。そうなれば、日本でも、航続能力に優れた原潜の保有論議が高まる可能性を否定できない。

岸信夫防衛相は19日の記者会見で、日本の原潜の保有可否についての筆者の質問に対し、「原潜の保有についてはこれまでもさまざまな議論がなされてきたところであるが、我が国の安全保障環境を踏まえながら、しっかりと考えていかなくてはならない」と述べた。しかし、その直後に防衛省秘書官からメモが渡され、「今すぐに原子力潜水艦の保有の議論を行っているという状況では特にない」と話した。

日本は原潜を保有すべきかどうか。ジェーン年鑑を発行し、軍事情報分析で知られる英ジェーンズ・グループの新旧2人の海軍担当専門記者に聞いた。

1回目のこの拙稿では、シンガポール在住の国際軍事専門誌『ジェーンズ・ネイビー・インターナショナル』のリズワン・ラフマット記者の見方を紹介する。

シンガポール在住の国際軍事専門誌『ジェーンズ・ネイビー・インターナショナル』のリズワン・ラフマット記者(本人写真提供)
シンガポール在住の国際軍事専門誌『ジェーンズ・ネイビー・インターナショナル』のリズワン・ラフマット記者(本人写真提供)

――オーストラリアが原子力潜水艦の導入を決め、南北朝鮮も原潜の保有を目指している。日本も原潜を保有する必要があるか。

「原潜は、通常動力型潜水艦に比べていくつかの利点がある。最も重要な利点は、水中での航続時間の長さだ。原潜は一度につき3~4カ月間は潜航したままでいられる。これに対し、通常動力型潜水艦は3~4日に一度は浮上しなくてはならない。これによって、原潜のステルス性と予測不可能性が極めて高くなっている」

「このため、日本が原潜を運用するのであれば、中国や北朝鮮といった敵対国が戦略的な計算をする際、かなりの不確実性をもたらすだろう。中朝は戦略を変えざるを得なくなり、紛争海域で挑発的な行動に出る前に行動を再考せざるを得なくなるだろう。中朝はステルス性が高い原潜を発見し、追跡する能力がないとも考えられるからだ。つまり、日本の防衛にとって有益な兵器になると言える」

――アメリカが将来、中国に対峙するため、日本に南シナ海での海自潜水艦による共同監視活動を求めてこないか。そして、そのために日本に原潜の保有を求めてくる可能性はないか。

「その可能性は低いだろう。南シナ海は潜水艦が入り交じり、非常に混雑している。ベトナムやタイなど東南アジア諸国はますます潜水艦を購入している。これに加え、アメリカやオーストラリア、中国もこの地域に潜水艦を派遣している。このような状況の下、潜水艦の衝突事故が現実の脅威となり、周辺諸国はそれを防ぐためのプロトコル(規約)を結ぼうとしている。この新たなプロトコルは『水中CUES(海上衝突回避規範)』となるだろう。このような混雑した状況で、アメリカが日本に原潜を配備させて南シナ海に派遣し、貢献を求めるという可能性は低いと考えている」

――日本には原潜を建造する技術が十分にあると思うか。

「日本の原潜建造は挑戦的(チャレンジング)だろう。よく知られているように、日本は非核三原則を堅持し、核武装と原潜保有に反対してきた。日本は原子力発電所での経験はあるが、これまでの過去の立場を考えると、兵器や艦船、潜水艦向けに核技術を小型化する専門性は有していないかもしれない。このため、日本が原潜の保有を決めた場合には、海外のパートナー国との協力が必要になるだろう」

左からリズワン・ラフマット記者、撮影当時の海上自衛隊トップの村川豊海上幕僚長、そして筆者。後ろに見えるのは、日露戦争で連合艦隊司令長官として指揮を執った東郷平八郎の写真。2018年2月14日、防衛省で撮影
左からリズワン・ラフマット記者、撮影当時の海上自衛隊トップの村川豊海上幕僚長、そして筆者。後ろに見えるのは、日露戦争で連合艦隊司令長官として指揮を執った東郷平八郎の写真。2018年2月14日、防衛省で撮影

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