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海上自衛隊の新型3900トン型護衛艦(FFM)1番艦「もがみ」が進水――艦名は最上川に由来

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
3月3日に命名・進水式を行った護衛艦「もがみ」(海上自衛隊公式ツイッターから)

海上自衛隊の新型護衛艦である3900トン型護衛艦(FFM)の1番艦の命名・進水式が3月3日、三菱重工業長崎造船所(長崎市)で行われた。「もがみ」と名付けられた。同造船所での海上自衛隊艦艇の進水式は2017年10月の護衛艦「しらぬい」以来。

海上幕僚監部広報室によると、艦名は山形県を流れる「最上川」に由来する。最上川では、古くから舟運(しゅううん)が盛んであり、地域の人々の暮らしを支えてきた。また、1県だけを流れる川としては日本一の大河である。艦名は海上自衛隊内での募集検討を経て、岸信夫防衛相が決定した。昨年11月に2番艦が「くまの」と命名された時点で、1番艦の艦名にも同じ河川名が予期されていた。新型1番艦はネームシップと呼ばれ、今後は「もがみ型護衛艦」という新たな艦種の呼称になる。

この名を受け継いだ日本の艦艇としては、旧海軍の通報艦「最上」、最上型重巡洋艦「最上」、海自のいすず型護衛艦の2番艦「もがみ」に続き4代目にあたる。日本海軍の通報艦「最上」は長崎で建造された最初の軍艦として知られる。いすず型護衛艦「もがみ」も三菱造船長崎造船所(現・三菱重工業長崎造船所)で建造された。

防衛省・海上自衛隊では、FFMを年2隻建造するペースで調達を進めている。主事業会社である三菱重工業長崎造船所と下請負者の三井E&S造船玉野艦船工場でそれぞれ1番艦と2番艦(「くまの」)を建造してきた。また、2021(令和3)年度予算では7番艦と8番艦の建造費として944億円が確保された。

FFM1番艦の命名・進水式は当初、2番艦「くまの」と同時期の昨年11月に行う予定だった。しかし、1番艦は主機関であるガスタービン機関の作動試験中の故障でガスタービンエンジンの納期に遅れが生じ、命名・進水式は後ろ倒しになっていた。

●ステルス護衛艦

「もがみ」は「くまの」同様、多様な任務への対応能力を向上させた新型護衛艦(FFM=多機能護衛艦)となる。海上幕僚監部広報室によると、FFMは日本周辺で増大する平時の警戒監視活動のほか、有事には対潜戦、対空戦、対水上戦などにも活用できる。さらには、従来は掃海艦艇が担っていた対機雷戦機能も備える。東シナ海や日本海などで警戒監視活動に当たる予定で、海賊対処活動など海外派遣任務も期待されている。

FFMは対艦ミサイルなどに探知されにくいステルス性の形状を備え、魚雷発射管やミサイルなどの電波を受けやすい機器を艦内に格納する。船体もロービジビリティ(低視認性)を重視した灰色と化しており、「ステルス護衛艦」とも称されている。

2020年11月に命名・進水式を行ったもがみ型護衛艦(FFM)2番艦「くまの」(海上幕僚監部提供)
2020年11月に命名・進水式を行ったもがみ型護衛艦(FFM)2番艦「くまの」(海上幕僚監部提供)

●海自の人員不足を踏まえて省人化

FFMは基準排水量3900トン、全長133メートル、全幅16.3メートルで、船体がコンパクト化されている。海自の人員不足を踏まえた省人化と船価を抑えて実現した初の護衛艦となった。なお、参考情報だが、同じ三菱重工業長崎造船所で建造された海上保安庁保有の最大級の新型ヘリコプター搭載型巡視船「れいめい」は総トン数6500トン、全長150メートル、最大幅17メートルに及んでいる。一方、同造船所で建造された海自のあさひ型護衛艦「しらぬい」は基準排水量5100トン、全長151メートル、最大幅18.3メートルとなっており、FFMの船体がいかにコンパクト化されているかがよくわかる。

海上幕僚監部広報室によると、FFMの速力は約30ノット。ガスタービンエンジンはイギリスのロールス・ロイス社から川崎重工業がライセンスを得て製造したMT30を1基搭載する。ディーゼルエンジンは2基を搭載し、ドイツのMAN社製の12V28/33D STCとなっている。軸出力は7万馬力。

主要装備品としては、62口径5インチ砲を1基、近接防空用艦対空ミサイルであるRAMブロックIIA(RIM-116C)ミサイルのSeaRAMを1基、垂直発射装置(VLS)を1基、艦対艦ミサイル(SSM)装置を左右両舷に1式、対潜システムを1式、対機雷戦システムを1式、無人水中航走体(UUV)を1機、無人水上航走体(USV)を1艇それぞれ搭載する。VLSとUSVは後日装備となる。

海上幕僚監部広報室によると、乗組員はあさひ型といった通常型の汎用護衛艦の半分程度の約90人で、建造費も1番艦と2番艦合わせて約1055億円(初年度費141億円含む)と、1隻当たりでは通常型の3分の2程度にとどまっている。

岸防衛相は昨年11月の記者会見で、FFMについて複数クルーでの交代勤務の導入などによって稼働日数を増やす方針を明らかにした。

「もがみ」は今後、内装工事や性能試験を実施し、海自に引き渡される時期は未定。海上幕僚監部は「配備先も未定」と説明する。

海幕広報室によると、2018年12月に閣議決定された2019年度から23年度の「中期防衛力整備計画」(中期防)に基づき、10隻の3900トン型FFMを建造する。将来的にはFFMを合計で22隻建造する計画となっている。

防衛省は護衛艦54隻、潜水艦22隻体制を目指している。現有の隻数は2020年3月末時点で、護衛艦48隻、潜水艦20隻となっている。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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