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海自の新型3900トン「もがみ型」護衛艦4番艦「みくま」が命名・進水――中国の海洋進出にらむ

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
海上自衛隊の3900トン型護衛艦「もがみ型」4番艦の「みくま」(三菱重工業提供)

海上自衛隊の新型3900トン型護衛艦(FFM)である「もがみ型」4番艦の命名・進水式が12月10日、三菱重工業長崎造船所(長崎市)で行われた。「みくま」と名付けられた。同造船所での海上自衛隊艦艇の進水式は今年6月の「のしろ」以来。

「もがみ型」は、軍事力増強を続ける中国の海洋進出をにらみ、全長1200キロに及ぶ南西諸島を中心に日本の海上防衛の一翼を担う次世代の多目的フリゲートとなる。2022年には既に進水済みの1番艦から3番艦の3隻が次々と就役する予定だ。将来的には22隻を建造する計画となっている。

●艦名は三隈川に由来

海上幕僚監部広報室によると、艦名は筑後川本流上流部分の一部(大分県日田市付近)を流れる「三隈川」に由来する。三隈川は、日田市から下流の都市部への木材輸送などに使用されたほか、神事や観光祭の会場として親しまれている。艦名は海自の部隊などから募集し、各種検討を踏まえた結果、岸信夫防衛相が決定した。

この名を受け継いだ日本の艦艇としては、旧海軍の最上型重巡洋艦「三隈」、ちくご型護衛艦の3番艦(1997年除籍)に続き、3代目となる。

もがみ型護衛艦は年2隻のペースで建造が進められている。三菱重工がもがみ型全艦の主事業者となり、同社長崎造船所と下請負者の三井E&S造船玉野艦船工場(現・三菱重工マリタイムシステムズ)で分担建造されている。海自向けの艦艇建造において、主事業者の設計図面に基づき、主事業者の造船所と下請負者の造船所で同時期に建造するのは初めての取り組みとなった。

1番艦「もがみ」と3番艦「のしろ」は三菱重工長崎造船所で、2番艦「くまの」は三菱重工マリタイムシステムズでそれぞれ建造中だ。海幕広報室によれば、進水済みの「もがみ」と「くまの」はともに2022年3月に海上自衛隊に引き渡され、就役する予定だったが、ガスタービンエンジンの納期が遅れた「もがみ」が遅れる見込み。「のしろ」は2022年12月、4番艦「みくま」は2023年3月の就役をそれぞれ予定している。

●半世紀ぶりの「フリゲート」

「みくま」は「もがみ」「くまの」「のしろ」同様、多様な任務への対応能力を向上させた新型の多機能護衛艦(FFM=Frigate Multi-purpose/Mine)となる。FFはフリゲートの艦種記号を意味する。海自にフリゲートに分類される艦が正式に配備されるのは、アメリカから貸与されたくす型護衛艦(元米海軍タコマ級哨戒フリゲート)の最終艦「かや」(元サンペドロ)が護衛艦籍を除籍された1972年3月以来、半世紀ぶりとなる。

とはいえ、筆者が東京特派員を務める英軍事週刊誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリーではかねて、就役中のあぶくま型護衛艦6隻をフリゲートに分類している。

●FFM「高烈度の海上作戦を補完」

「増大する平時の警戒監視への対応と、有事では他の護衛艦が実施する高烈度の海上作戦を補完することを想定している」

岸信夫防衛相は2020年11月17日の記者会見で、FFM導入の目的について、こう述べた。

「高烈度の海上作戦」とは、有事の際、中国軍が日本列島から台湾、フィリピンに至る、いわゆる「第一列島線」を抜けて西太平洋に出ていかせないようにする日本版の接近阻止・領域拒否(A2/AD)作戦などを指していると思われる。

FFMは平時の警戒監視活動を手厚くして軍事的な空白を埋める。そして、いざ有事となれば短時間で戦力を集中し、南西諸島に配備された陸上自衛隊のミサイル部隊と連携しながら、中国軍を東シナ海にとどめて西太平洋への進出を阻止するのが狙いだ。米軍が来援するための時間稼ぎにもなる。

海上幕僚監部は、「FFMが有事には対潜戦、対空戦、対水上戦などの各種活動に活用できる」と説明。さらに「従来は掃海艦艇が担っていた対機雷戦機能も備える」と強調する。機雷掃海能力や対潜能力は、米海軍が海自にとりわけ期待する分野でもある。

FFMは対艦ミサイルなどに探知されにくいステルス性の形状を備え、魚雷発射管やミサイルなどの電波を受けやすい機器を艦内に格納する。船体もロービジビリティ(低視認性)を重視した灰色と化しており、レーダーに映りにくい「ステルス護衛艦」とも称されている。

海上自衛隊の3900トン型護衛艦「もがみ型」4番艦の「みくま」(海上自衛隊撮影)
海上自衛隊の3900トン型護衛艦「もがみ型」4番艦の「みくま」(海上自衛隊撮影)

●全長133メートルでコンパクト化

FFMは基準排水量3900トン、全長133メートル、全幅16.3メートルで、船体がコンパクト化され、小回りがきく。少子高齢化による海自の人員不足を踏まえた省人化と船価を抑えて実現した初の護衛艦となった。なお、参考情報だが、同じ三菱重工業長崎造船所で建造された海上保安庁保有の最大級の新型ヘリコプター搭載型巡視船「れいめい」は総トン数6500トン、全長150メートル、最大幅17メートルに及んでいる。一方、同造船所で建造された海自のあさひ型護衛艦「しらぬい」は基準排水量5100トン、全長151メートル、最大幅18.3メートルとなっており、FFMの船体がいかにコンパクト化されているかがよくわかる。そのぶん、価格も抑えられている。

海幕広報室によると、「もがみ型」の乗組員は「あさひ型」といった通常型の汎用護衛艦の半分程度の約90人。建造費も令和元年度予算で3番艦と4番艦合わせて951億円と、1隻当たりでは700億円を超える「あさひ型」の3分の2程度にとどまっている。なお、乗組員約90人のうち、約10人は女性自衛官になる予定。

FFMの速力は30ノット以上。ガスタービンエンジンはイギリスのロールス・ロイス社から川崎重工業がライセンスを得て製造したMT30を1基搭載する。ディーゼルエンジンは2基を搭載し、ドイツのMAN社製の12V28/33D STCとなっている。軸出力は7万馬力。

主要装備品としては、米海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦(DDG-81以降)やタイコンデロガ級ミサイル巡洋艦と同じ62口径5インチ(127mm)の砲を1基、近接防空用艦対空ミサイルであるRAMブロックIIA(RIM-116C)ミサイルのSeaRAMを1基、垂直発射装置(VLS)を1基、艦対艦ミサイル(SSM)装置を左右両舷に1式、対潜システムを1式、対機雷戦システムを1式、無人水中航走体(UUV)を1機、無人水上航走体(USV)を1艇それぞれ搭載する。VLSとUSVは後日装備となる。

海上自衛隊の最新鋭護衛艦もがみ型4番艦「みくま」の進水記念絵ハガキ(高橋浩祐接写)
海上自衛隊の最新鋭護衛艦もがみ型4番艦「みくま」の進水記念絵ハガキ(高橋浩祐接写)

●海自フリゲートとして初めてVLSとUSVを搭載へ

中国海軍に詳しい米戦略予算評価センターのトシ・ヨシハラ上級研究員は著書『中国海軍VS.海上自衛隊』で、中国海軍のVLSセルの約半分は駆逐艦に搭載され、残りの半分はフリゲートに搭載されていると指摘する。その一方、海自のVLSセルはすべて駆逐艦と巡洋艦に集中していると指摘する。しかし、もがみ型にVLSセルが搭載されることで、日本でもようやくあぶくま型護衛艦6隻を含めた国際標準の「フリゲート」の中で初めてVLSが導入されることになる。

11月26日に閣議決定された令和3年度補正予算では、FFM用のVLS2隻分として84億円が計上されている。

また、USVも海自の「フリゲート」として初めての搭載となる。

「もがみ型」は護衛艦としては初めて「クルー制」を導入する。複数クルーでの交代勤務の導入などによって稼働日数を増やすことにしている。

海幕広報室によると、2018年12月に閣議決定された2019年度から23年度の「中期防衛力整備計画」(中期防)に基づき、10隻の3900トン型FFMを建造する。将来的にはFFMを合計で22隻建造する計画となっている。

防衛省は、2018年策定の防衛大綱で定めた護衛艦54隻、潜水艦22隻体制を目指している。現有の隻数は2021年3月末時点で、護衛艦47隻、潜水艦21隻となっている。

海上自衛隊の最新鋭護衛艦もがみ型4番艦「みくま」の進水記念絵ハガキ(高橋浩祐接写)
海上自衛隊の最新鋭護衛艦もがみ型4番艦「みくま」の進水記念絵ハガキ(高橋浩祐接写)

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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