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ジャニーズ事務所の最大の共犯者・テレビ局は、自己検証を避けてはならない──ジャニーズ性加害問題

松谷創一郎ジャーナリスト
筆者作成。

問われるテレビ局の責任

 8月29日、ジャニーズ事務所・性加害問題における「外部専門家による再発防止特別チーム(以下、特別チーム)」の調査報告書が発表された。それはジャニーズ事務所のオフィシャルサイトでも公開されている(「外部専門家による再発防止特別チームに関する調査結果について」2023年8月31日)。

 その内容はすでに多く報じられているので詳述しないが、事前の予想を覆すかなり踏み込んだ内容となっており、多くの当事者や報道関係者は高く評価している。

 そして今回の報告では、この問題を引き起こした背景として、しっかりとした報道を怠ってきた「マスメディアの沈黙」があげられている。これを受けて、昨日までに在京の民放テレビキー局とNHKが本件についての見解を発表した。

 その一覧は朝日新聞の記事などに譲るが、各局のコメントはそれほど詳細なものではない。もっとも文字数が多いテレビ東京でも357字、もっとも少ないフジテレビでは165字、6局平均では250字と、非常に簡素な文面にとどまっている。

 果たしてテレビ各局の責任はこれで幕引きとしていいのか?──この点について、以下指摘していく。

2023年8月29日、都内で記者会見をするジャニーズ事務所性加害問題・外部専門家による再発防止特別チームの記者会見(筆者撮影)。
2023年8月29日、都内で記者会見をするジャニーズ事務所性加害問題・外部専門家による再発防止特別チームの記者会見(筆者撮影)。

ジャニーズとのズブズブの関係

 特別チームの調査報告書では、故・メリー喜多川副社長がテレビ局などに強圧的な姿勢を示した事例をあげながら、「マスメディアが沈黙」した背景を以下のように説明している。

(略)テレビ局をはじめとするマスメディア側としても、ジャニーズ事務所が日本でトップのエンターテインメント企業であり、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道すると、ジャニーズ事務所のアイドルタレントを自社のテレビ番組等に出演させたり、雑誌に掲載したりできなくなるのではないかといった危惧から、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道するのを控えていた状況があったのではないかと考えられ、被害者ヒアリングの中でも、ジャニーズ事務所が日本でトップのエンターテインメント企業であり、ジャニー氏の性加害を取り上げて報道するのを控えざるを得なかっただろうという意見が多く聞かれたところである。

 このように、ジャニーズ事務所は、ジャニー氏の性加害についてマスメディアからの批判を受けることがないことから、当該性加害の実態を調査することをはじめとして自浄能力を発揮することもなく、その隠蔽体質を強化していったと断ぜざるを得ない。その結果、ジャニー氏による性加害も継続されることになり、その被害が拡大し、さらに多くの被害者を出すこととなったと考えられる。

外部専門家による再発防止特別チーム「調査報告書(公表版)」p.52-53/太字は引用者によるもの

 この指摘をさらに敷衍してマスメディア(テレビ局)の責任をまとめるならば、それは以下の2点となるだろう。

 ひとつは、報道局が性加害問題を報じてこなかったこと。

 もうひとつは、制作局や編成局などがジャニーズを退所した芸能人を干すなどして、間接的に加担してきたこと。

 この両者が続いたのは、テレビ局がジャニーズ事務所のタレントが出演するコンテンツ(番組)に強く依存してきたからだ。より噛み砕いて言えば、テレビ局は取引先であるジャニーズ事務所とズブズブの関係を築いてきた

 その傾向をより強めたのは、2000年代中期以降だ。経済停滞やインターネットメディアの伸長などにより、テレビ局の視聴率は現在にいたるまで下がり続け、広告収入も上向く傾向を見せない。そうしたなかで、各局は確実に数字が見込めるジャニーズのコンテンツへの依存を深めていった。そしてジャニーズもそれに乗じて勢力をさらに増した。

 つまり、テレビ局との関係において、ジャニーズ事務所の力がどんどん強くなっていったのである。テレビ局は視聴率やスポンサーを保持するために、ジャニーズ事務所に忖度の度合いをさらに強めていった。ジャニーズの機嫌を損ねてタレントが引き上げられることを警戒するなど、ビビりあげてきたのである

 こうしてテレビ局はジャニーズ事務所の「自動忖度機」と成り下がっていったのである。

テレ朝「ジャニーズ忖度」は継続中

 こうしたテレビ局の「ジャニーズ忖度」は、現在もまだ続いていると見ていい。

 その代表例は、やはりテレビ朝日の『ミュージックステーション』だ。1986年から40年近く続くこの番組には、放送2年目(1988年1月8日放送分)からジャニーズ枠が存在する。ジャニーズタレントが出演しなかったことは、総集編を除く1375回中13回(0.9%)しかない(8月25日まで)。明示はされていないが、実質的にレギュラーだ。

 ただ、それよりも大きな問題は、こうしてジャニーズをレギュラー化して忖度することによって、ジャニーズの競合グループの出演をさせてこなかったことにある。

 過去であれば、DA PUMPは人気があったにもかかわらず1997年を最後に2018年まで出演することができず、2001年にデビューしアジア圏で人気のw-inds.はいちども出演できていない。

 そして現在でも、昨年の『NHK 紅白歌合戦』に出場したJO1やBE:FIRST、一昨年に日本レコード大賞を受賞したDa-iCE、そしてそれらのグループと比肩する人気のINIなどはいまも『Mステ』に出演できていない(「ジャニーズ忖度がなくなる日──JO1、INI、BE:FIRST、Da-iCEが『Mステ』出演する未来」2023年2月28日)。w-inds.の橘慶太は、「日本のメディアに出られなくなって」と苦しい立場だったと振り返っている。(『新R25』 2021年3月24日)。

 この点においては、もちろん反論もあるだろう。橘慶太は2006年にいちどだけソロで出演しており、つい先日にはBE:FIRSTのSHUNTOもUVERworldとのコラボレーションでひとり出演している。しかし、やはりw-inds.もBE:FIRSTもグループで出演は実現していない。状況に大きな変化は見られていないのが実状だ。

 もちろんどのアーティストを出演させるかは、番組側が決めることだ。しかし公共性のある放送電波を独占的に使用でき、そのために長らく社会やポピュラー文化に強い影響力を持ってきた免許事業者であるテレビ局の音楽番組がこうした姿勢を続けてきたことは、ジャニーズ事務所の権力に大きく与してきたと断じることができる。

 しかもテレビ朝日は、当初からこの性加害問題についての報道は抑制的だった。その背景にはやはりジャニーズとの取引上の深い関係があったと考えられる。

筆者作成。テレビ朝日の報道姿勢は、特別チームの会見報道以降は若干の変化が見られる。
筆者作成。テレビ朝日の報道姿勢は、特別チームの会見報道以降は若干の変化が見られる。

性加害最大の共犯者はテレビ局

 こうしたテレビ朝日の姿勢は、間接的にジャニーズ事務所の性加害を後押ししてきたと断じることができる。

 今回の報告書には、被害を受けたジャニーズJr.の証言が多く記されている。そこでは、「ジャニー氏から性加害を受ければ優遇され、これを拒めば冷遇されるという認識が広がっていた」と記されている。具体的には以下のようなものだ。

・性加害を受けるようになって、ステージに立つ回数や雑誌の仕事も増え、性加害を受けることで自分の仕事が増えたと思った。ジャニーズJr.の中には「合宿組」と呼ばれる者がおり、性加害を受け入れることで、もらえる仕事が増えると認識されていた。

・ジャニー氏の性加害を受けた後、マイクを持てるようになったり、コンサートで選抜メンバーとして歌うようになったりと序列が良くなったので、ジャニー氏の性加害を断れなくなった。ジャニー氏の「お気に入り」になれば実力以上に待遇が上がり、そのポジションを守るにはジャニー氏の性加害を断れず、断ったらチャンスがなくなると思っていた。実際にジャニー氏の「お気に入り」になって待遇が上がった人や、断って辞めていく人はたくさんいた。

外部専門家による再発防止特別チーム「調査報告書(公表版)」p.22-23

 報告書ではこうした元ジャニーズJr.の認識が11事例記載されており、上に引用したのはそのうちの一部だ。

 ただ、この報告書で詳細に書かれていないのは、退所していった元Jr.たちのその後だ。それにはさまざまなケースがあるが、たとえば前述したJO1とINIには元ジャニーズJr.のメンバーがそれぞれひとりずつ含まれており、またBE:FIRSTをプロデュースしたAAAの日高光啓(SKY-HI)も元ジャニーズJr.である。この3グループには、単にジャニーズと競合しているだけでなく、べつのハードルも存在する。

 さらに筆者の取材では、他の芸能プロダクションのグループでデビューした元Jr.の存在について、それを知らなかったメリー喜多川氏に現役のジャニーズタレントが伝えて(密告して)圧力がかけられた──という情報も得た。その元Jr.はその後なんとかブレイクしたが、長らくジャニーズから圧力を受けていたとも耳にする。

 つまり、いちどジャニーズ事務所に入ればジャニー氏から性加害を受けるリスクがあり、それを拒んで退所すれば今度は業界で干されるリスクがあった。留まるも地獄、離れるも地獄だ。

 逆に、たとえジャニーズに入らなくても、男性アイドルグループで大きな権力を持っていたジャニーズが存在する以上、いくらヒットしても『Mステ』に出演できないなど、大きなハードルはいまも存在する。

 こうした日本の芸能界で男性アイドルとして活躍するためには、ジャニー氏からの性加害を我慢することがもっとも近道だった。そして『Mステ』がいまもジャニーズの競合グループを出演させないのであれば、その構造そのものに加担していることを意味する。

 ゆえに、テレビ朝日をはじめとするテレビ局は、ジャニーズ事務所の性加害において最大の共犯者だと断じることができる。

テレビ局は逃げずに向き合って

 もちろん、こうした「ジャニーズ忖度」は今回の特別チームの報告と、それを受けて来週にも行われる見込みのジャニーズ事務所の会見を経て、おそらくかなり軽減されると見られる。テレビ局側にとっては、共犯関係を解消できる言い訳が整った状況だ。

 しかし、本当にそれでテレビ局はそれで免責されて良いのか。

 ジャニーズJr.の番組を長らく放送してきたテレビ朝日(『#裸の少年』)やNHK(『ザ少年倶楽部』)には、ジャニーズ事務所が独占的に使えるレッスン場(リハーサル室)が存在した。これは多くのジャニーズタレントが、思い出話としてよくする公然の事実である。そこでは、ジャニー喜多川氏が小・中学生のJr.たちに頻繁にボディタッチをしていたことなどを被害者が証言している(『報道1930』2023年5月25日)。

 だが、そうしたことをしっかりと自己検証することなく、一般論に終始し、まるで他人事のようにすら感じられる250字程度のコメントしかテレビ局は発表していない。むしろそうした不遜な態度こそが、長らくこの問題を放置してきた「背景」であることを皮肉にも伝えている。

 筆者は5月に出演したNHKの『クローズアップ現代』でテレビ局が「ある種の共犯関係」と述べたのは、上記のような理由を踏まえてのことだ(「“誰も助けてくれなかった” 告白・ジャニーズと性加害問題」2023年5月17日)。

 最後に、もういちどお願いしたい。テレビ各局は、逃げずに向き合っていただきたい。報道機関としての矜持──というよりも、人間としての矜持を持っているならば、それはできるはずだ。

ジャーナリスト

まつたにそういちろう/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。著書に『ギャルと不思議ちゃん論:女の子たちの三十年戦争』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』(2017年)、『文化社会学の視座』(2008年)、『どこか〈問題化〉される若者たち』(2008年)など。現在、NHKラジオ第1『Nらじ』にレギュラー出演中。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 trickflesh@gmail.com

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