「新しい地図」が地上波テレビから消えていく──忖度と圧力、その罪と保身

テレビ朝日『「ぷっ」すま』ホームページより

香取慎吾の地上波レギュラーがゼロに

 「新しい地図」の草なぎ剛のレギュラー番組『「ぷっ」すま』の終了が、テレビ朝日から正式に発表された。

 ジャニーズ事務所から離れた3人のレギュラー番組は、これで民放の地上波テレビでは『ゴロウ・デラックス』(TBS)だけとなった。草なぎは、NHK『ブラタモリ』のナレーションの仕事もあるが、香取慎吾にいたっては地上波からレギュラー番組がなくなった。9月以降の新規の仕事は、NHKやインターネットのAbemaTV、映画などに限られており、徐々に地上波テレビから存在感を失っている。

 また、情報番組では取材されているはずのイベントで、3人の存在が不自然なかたちで触れられていない事態も生じている。昨年11月の「GQ Men of the Year 2017」は、とくにそうだった。フジテレビと日本テレビは、引きの画では映したものの『GQ』誌の表紙も飾った3人を完全にスルーした(詳しくは、てれびのスキマ「テレビ各局(在京キー局)は『新しい地図』をどう報じたか」)。

 こうした事態は、かねてからファンや業界人が憂慮していた。現在進行系ではのん(能年玲奈)やローラなど、旧事務所と衝突して独立した芸能人が民放テレビ局から閉め出されることは珍しくないからだ。

 なぜこうしたことが生じてしまうのか。

半年で3番組が終了する不自然さ

 まず、昨年9月から現在にいたるまでの半年をあらためて確認しておこう。

 元SMAPの3人である稲垣吾郎・草なぎ剛・香取慎吾の3人が、ジャニーズ事務所との契約を終えると発表されたのは、2017年6月19日のこと。ジャニーズ事務所のジャニー喜多川社長が、「どのような立場になろうとも、彼らを想う気持ちに変わりはありません」(毎日新聞2017年6月19日)とコメントを出すなど、円満な契約終了がアピールされた。

 9月8日の契約満了後、3人は、SMAP時代のチーフマネージャーである飯島三智氏の新会社・CULENと契約して活動を続けることを発表。テレビ番組は、17年続いていた香取慎吾の『SmaSTATION!!』(テレビ朝日)が、秋の改編期に打ち切りとなった。

フジテレビ『おじゃMAP!!』ホームページより
フジテレビ『おじゃMAP!!』ホームページより

 他の番組には変化が見られなかったが、4月改編を前に6年続いていた『おじゃMAP!!』(フジテレビ)と、20年続いた『「ぷっ」すま』が終了することになる。継続するのは、前述したように『ゴロウ・デラックス』と『ブラタモリ』だけとなり、香取慎吾は(CMを除けば)地上波テレビから姿を消すこととなった(※)。

 つまり、6~20年も続いてきた3番組が、半年間ですべて終了する──状況としては、かなり不自然だ。

 もちろん各テレビ局は、記者会見で終了の理由を説明している。テレビ朝日は「深夜帯の改革の一環」(スポーツ報知2018年3月8日付)と説明し、フジテレビは個別に具体的な理由は説明していないが、とんねるずやナインティナインの長寿バラエティ番組も終了するなど、大きな編成改革のひとつだと位置づけられる。

※……2002年以降、年に1、2回のペースで続いている日本テレビ『欽ちゃん&香取慎吾の全日本仮装大賞』に今年も香取慎吾は出演したが(2月3日)、来年も継続するかどうかはまだ未定だ。また、『NHKスペシャル 未解決事件「File.06 赤報隊事件」』(1月27、28日)や『人名探究バラエティー 日本人のおなまえっ!』(3月15日放送予定)、『草なぎ剛の「ニュースな街で暮らしてみた!」韓国編』(3月29日放送予定)と、NHKは今年に入って草なぎ剛の番組を積極的に手がけている。

「SMAP」はジャニーズ事務所の商標

 こうした不自然な背景には、やはり彼らが所属していたジャニーズ事務所の存在が見え隠れする。実際、3月いっぱいで終了する『「ぷっ」すま』と『おじゃMAP!!』のエンドロールは、昨年9月以降に明らかな変化を見せた。「協力:ジャニーズ事務所」のクレジットが消えたのである。ただ、草なぎと香取がジャニーズから離れたので、それ自体は不自然ではない。

 それよりも、終了した3番組に明確な共通点があることのほうが重要だ。それらの番組名が、すべて「SMAP(スマップ)」に由来する点だ。

 これは、法的な問題と関係してくる。なぜなら「SMAP」はジャニーズ事務所の登録商標だからだ。

 商標とは、商品やサービスのマークのことだ。これを独占的に使用する権利を商標権という。それは、だれでも簡単にネットで調べることができる。特許庁のサイト・特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)で「SMAP」と検索すると、ジャニーズ事務所が6つの商標を登録していることがわかる。もっとも古いものは、1991年のSMAPデビュー直後から継続している。

 そのうちのひとつ(第3047285号)には、「指定役務」として「演芸の上演、演劇の演出又は上演、音楽の演奏」とある。この商標は2025年5月31日まで有効であり、おそらくその後も更新される。この商標が存続する以上、彼らが「SMAP」の名前を使ってテレビ番組の仕事(「演芸の上演」)をするためには、ジャニーズ事務所の許諾が必要となる。彼らがAbemaTVなどの番組でいっさい「SMAP」という単語を発しないのも、おそらくこのためだ。

リニューアルしなかった3番組

 もちろん、3つの番組の商標をジャニーズ事務所が取得している事実はなく、そもそも番組の著作権は各テレビ局に帰属する(とクレジットされている)。だが、商標権を保有する以上は、「SMAP」を連想させる番組の継続をジャニーズ事務所が拒否しても、それに正当性がまったくないとは言えない。

 そもそもジャニーズ事務所は、商標など権利関係には非常に厳しい芸能プロダクションとして知られる。たとえば昨年12月、かねてから問題視されていたチケット売買サービス「チケットキャンプ」を運営していたフンザが摘発された。発端は、同社が運営していたニュースサイト「ジャニーズ通信」に対するジャニーズ事務所の刑事告発だった。

TBS『ゴロウ・デラックス』ホームページより
TBS『ゴロウ・デラックス』ホームページより

 以上を踏まえれば、商標の存在はテレビ局にとっては番組を終了させるには十分な大義名分となる。逆に、「SMAP」を連想させない番組名の『ゴロウ・デラックス』が継続するのは、商標の問題が絡んでこないからだと推測される。

 だが、もし商標が問題ならば、番組名を変えればいいだけの話だ。実際、1991年から続いていた文化放送のラジオ番組『稲垣吾郎のSTOP THE SMAP』は、SMAP解散後の2017年1月から『編集長 稲垣吾郎』にリニューアルされた。他の番組でも、テレビ朝日の『マツコ&有吉の怒り新党』が『マツコ&有吉 かりそめ天国』にリニューアルして続いているように、例外というほど珍しいわけでもない。

 しかし、「新しい地図」の民放地上波3番組では、そうした策も採られなかった。

フジ芸能デスク・加治佐氏の証言

「ジャニーズから離れても半年間だけ番組を続けることは、最初から決まっていました。もちろんファンの反発を抑えるための策です。ほとぼりが冷めてから終了するのも既定路線。すべてが予定どおりなんですよ」

 そう教えてくれたのは、あるテレビ局の関係者だ。同様の意見は、取材をするなかで複数寄せられた。

 また、テレビ番組で同様の内容を発言した人物もいる。フジテレビの芸能デスク・加治佐謙一氏だ。確認できるだけでも、加治佐氏はこの半年の間に同じ指摘を複数回している。たとえば、3人が独立した直後の昨年9月には以下のように話した。

加治佐:(オファーする側は)ジャニーズ事務所のほうに気を遣ってるので、たぶん仕事は増えないと思います。来年になるとわかりませんけれども。

安藤優子氏:とりあえず、じゃあ来年の3月いっぱいぐらいまでは現状維持?

加治佐:というかたちになると思います。ただオファーに関しても、あるかどうかっていうのはちょっとわからないですね。ジャニーズ事務所の方に気を遣って、ないかもしれないですね。

(中略)

安藤:声をかける側、仕事をオファーする側も、とりあえずちょっと様子見というのもあるんじゃないですか? どういうふうになっていくのかなぁ。

加治佐:その様子見の方が多くなっちゃうと、仕事は増えないんですよね。

出典:フジテレビ『直撃LIVE グッディ!』2017年9月11日
フジテレビ『直撃LIVE グッディ!』2017年9月11日より。このようなパネルを使いながら加治佐氏は解説をした。
フジテレビ『直撃LIVE グッディ!』2017年9月11日より。このようなパネルを使いながら加治佐氏は解説をした。

 加治佐氏は、ふだんと同じ様子で淡々とそう説明した。また、12月9日の『新・週刊フジテレビ批評』でも、「たぶんね、まだ(新しい)レギュラー番組は難しいと思うんです。単発の番組だったら、地上波でもオファーはあると思うんですが」と述べている(この内容は、『新・週刊フジテレビ批評』の公式ホームページにも残されている)。

 もちろんこの発言には留意が必要だ。芸能デスクは、情報番組(ワイドショー)のための芸能ニュースを構成し、番組にも頻繁に出演して解説するのがおもな仕事だ。芸能専門のテレビ報道マンという立場で、フジテレビで言えば前田忠明氏の後輩と言える。

 そんな加治佐氏が、昨年9月の段階で、公然と「新しい地図」の地上波テレビにおける新規の仕事が難しいと発言した。そして、実際にそのとおりになりつつある。状況的には、加治佐氏はフジテレビの意見を代弁したわけでもなく、逆にテレビ界を告発したわけでもなく、独自の取材を踏まえて芸能デスクとして話しただけだと捉えるほかない。

 ただ、この発言が伝播して、あたかも公然の事実のように理解された結果、ひとびとの行動によってそれが現実化してしまう可能性もある。社会学ではそうした現象を「予言の自己成就」と呼ぶ。たとえば「あの銀行はヤバいらしいよ」という噂が広まり、銀行に預金の引き出しが殺到し、本当に銀行が潰れそうになるケースもそうだ。実際、日本でも1973年に生じたことはよく知られている(豊川信用金庫事件)。

 加治佐氏のその発言にどのような意図があったかはわからないが、なんにせよ「新しい地図」にテレビの新しい仕事が来ないと指摘したことは、注視すべきだ。なぜなら「新しい地図」の3人をめぐって、テレビ界で魑魅魍魎の政治的力学が生じていることを当のテレビ業界人が認めたからだ。

“圧力”か“忖度”か

 「新しい地図」をめぐっては、昨年11月のAbemaTV『72時間ホンネテレビ』に吉本興業所属のタレントがひとりも出演しないなど、不自然な状況証拠も確認されつつある。

 そうした芸能プロダクションの非協力や相次ぐ番組終了が生じる要因としては、ふたつのことが考えられる。

 ひとつは、“圧力”だ。

 タブロイド紙や実話誌などでしばしば事実かのように書き立てられるのは、ジャニーズ事務所がテレビ局や他の芸能プロダクションに対し、「3人を使うな」とか「うちのタレントとは共演NG」といった圧力をかけている──というものだ。

 だが、そうした事実を証明する証拠(文書や会話録音)はこれまでひとつも見られない。逆に、もしそんな証拠が表沙汰になれば独占禁止法などに抵触する可能性が生じる。ジャニーズに限らず、他の芸能プロダクションも「共演NG」などと公然に表明しないのもそのためだ。現実的に、そんな証拠が残るようなコミュニケーションはとてもリスクが大きい。

 それよりも可能性が高いのは、“忖度”だ。

 フジテレビの加治佐氏が指摘したように、テレビ局側がジャニーズ事務所との今後を考え、自主的に「新しい地図」との取引をやめた可能性だ。実際、嵐を代表とするジャニーズ事務所のタレントが視聴率を稼げるのは間違いない。業界で言うところの「数字を持っている」タレントばかりだ。「新しい地図」の3人にいくら人気があっても、ジャニーズタレント全員にはかなわない。

集団の“空気”のなかで醸成される“忖度”は、まるで中学生のイジメレベルのようですらある。だが、テレビ局はそれを公衆の面前でやっている状況だ(写真はイメージ/Created by いらすとや+PhotoFunia)。
集団の“空気”のなかで醸成される“忖度”は、まるで中学生のイジメレベルのようですらある。だが、テレビ局はそれを公衆の面前でやっている状況だ(写真はイメージ/Created by いらすとや+PhotoFunia)。

 この“忖度”は、非常に厄介なものだ。なぜなら、それらは各社の自主的な判断(とされるもの)であり、この点だけ見ればそこに法的な問題は生じないからだ。

 しかし当然のことながら、それは積極的な判断によるものではない。「新しい地図」の起用によって、ジャニーズ事務所の機嫌を損ねることを畏れただけでしかない。将来的にジャニーズが他社との仕事を優先したり、あるいは仕事を失う事態になったりすれば、担当者は会社におけるみずからの立場が危うくなるかもしれない。下手をすれば左遷される。

「正直、外の人間(芸能界)が怖いわけじゃないんです。それよりも社内です。人事権も編成権もあるから、邪魔な存在になったらすぐに外される。定期異動や改編期にやれば、理由もいらないですから」

 ある局員は、そんな本音を伝えてくれた。どこにでもあるサラリーマンの悲哀だ。ただ、筆者がそこで思い浮かべたのは、受験を控えて内申書になにを書かれるか怯えていた公立中学校時代の自分だ。

 このテレビ業界人に問題があるのではない。30年前の公立中学校と大差ないテレビ局の構造にこそ大きな問題がある。

祓えない「忖度の呪い」

 すでに気づいているひともいるかもしれないが、これは芸能界やテレビ局に限ったことではない。たとえば、昨年からずっと問題視され現在佳境を迎えている森友学園問題も、似たような構造によって生じている。

 近畿財務局の不自然な値引きが、果たして“圧力”か“忖度”かは、まだわからない。ただ、虚偽の疑いが濃厚な答弁を国会で繰り返した挙げ句にみずから辞任したあの官僚に、「新しい地図」の番組を継続しなかったフジテレビやテレビ朝日の幹部の姿が重なる。テレビ局は、森友学園問題を追及しながらも、官邸や官僚よりもずっと芸能界(取引先)を畏れている。

 そんな彼らは、根っからの極悪人などではない。ハンナ・アレントが指摘したように、権威と権力に激しく怯え、思考停止してひたすら職務をまっとうする忠犬でしかない。“忖度”という名の「凡庸な悪」もそこから生み出される。

 こうした“忖度”は、日本にとっては長年続いてきた“呪い”以外のなにものでもない。

ルース・ベネディクト『菊と刀』(1946年)、丸山真男『日本の思想』(1961年)、中根千枝『タテ社会の人間関係』(1967年)、土居健郎『「甘え」の構造』(1971年)、山本七平『「空気」の研究』(1977年)、戸部良一・他『失敗の本質』(1984年)
ルース・ベネディクト『菊と刀』(1946年)、丸山真男『日本の思想』(1961年)、中根千枝『タテ社会の人間関係』(1967年)、土居健郎『「甘え」の構造』(1971年)、山本七平『「空気」の研究』(1977年)、戸部良一・他『失敗の本質』(1984年)

 『菊と刀』、『日本の思想』、『タテ社会の人間関係』、『「甘え」の構造』、『「空気」の研究』、『失敗の本質』等々──戦後、多くの日本社会論や日本人論が見られた。おしなべてそこで指摘されてきたのは、みずからの意思で主体的に判断できない日本人の性質であり、そうした存在を生み出してしまう社会構造の問題だった。

 芸能界にしろ政治にしろ、概して“忖度”は、チェック機関が不全状態の構造(組織)で生じるいびつな政治力学に起因する。所属する組織以外の後ろ盾(判断基準)のない個人は、ひたすら組織のなかで保身に走り、結果“忖度”と呼ばれる斟酌に奔走する。「凡庸な悪」はこのようにして大量に生まれ、そして再生産されていく。

 いったい、いつまでこんなことを続けるのか。

 個々のケースで個人を吊し上げても、同じ構造のままであればいつかまた事態は繰り返される。「忖度の呪い」を祓うには、全体の構造を変えてチェック機関を組み込むほかない。

求められる社会横断的な視座

 芸能界の問題については、先日、公正取引委員会が芸能人などフリーランスにも独占禁止法を適用すると発表した(公取委HP「人材と競争政策に関する検討会」)。具体的には、芸能プロダクションからの移籍の自由を認め、旧所属先からの妨害を独禁法違反だとする内容である。このチェックが今後どれほど機能するかはまだわからないが、小さな一歩が生じたことは確かだ。

 残念なのは、こうした芸能界の問題を「SMAP報道は、『ニュース』なのか?」などと軽視する向きがいまだに少なくないことだ。そこでは芸能界と政治の問題が完全に切り離されており、日本社会の構造的問題によって生じる類似ケースだととらえる想像力は著しく欠けている。のん(能年玲奈)やローラと「新しい地図」に生じている事態が、別問題だととらえるひとすらいる。

 求められるのは、社会横断的な視座だ。

 芸能界の問題に関心を持つ人は政治の問題に、政治の問題に関心を持つ人は芸能界の問題に──そうした想像力こそが、日本社会のさまざまな問題を打開していくことに繋がるはずだ。