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裁量労働制とはこういう制度

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 かつて、これほど裁量労働制が話題になったことがあっただろうか(いや、ない)。

 それほど、毎日、裁量労働制の話題で持ちきりです。

 というのも、上西充子教授が追及している偽データ問題が発端です。

 その件に関しては私が何か付け足すことはありませんので、ぜひ、以下の渾身の記事を読んでもらいたいです。

なぜ首相は裁量労働制の労働者の方が一般の労働者より労働時間が短い「かのような」データに言及したのかその3まであります)

裁量労働制の方が労働時間は短いかのような安倍首相の答弁は何が問題なのか(予算委員会に向けた論点整理)

データ比較問題からみた政策決定プロセスのゆがみ:裁量労働制の拡大は撤回を(公述人意見陳述)

そもそも裁量労働制って?

 とはいえ、裁量労働制ってどんななの?という人もいると思いますので、簡単に説明します。

 裁量労働制は、現行法にもあります

 現行法では、労働基準法38条の3以下に定めがあります。

 本当は、ここで条文を引用したいところですが、たぶん、条文をそのまま読んで理解できるような内容ではないので、かいつまんで説明します。

 裁量労働制には、専門業務型企画業務型の2つあります。

 専門業務型の業務とは、厚労省が定めています。ここに書いてあります。

 企画業務型の業務はちょっとわかりにくいのですが、企業の中枢で、企画立案などの業務を自律的に行っている労働者が該当するとされています。

 どちらも、「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する労働者の裁量にゆだねる必要がある」(労基法38条の3)、「業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある」(労基法38条の4)など、業務を遂行するのに裁量が必要な業務だ、という点がポイントとなります。

 それゆえに、裁量労働制と呼ばれるのです。

 さて、ここでハタと気づきますね。

 裁量労働制って、全部、裁量があるんじゃないのか・・・と。

 そうです。

 裁量労働制は、あくまでも、業務の進め方に労働者に裁量がある制度、ということになります。

 ここがミソです。

業務量に裁量はない

 労働者は、使用者から下る業務命令を遂行することで労務を提供します。

 すなわち、

  1. 使用者から「これをやれ」と命令がなされる
  2. 労働者はそれを遂行する
  3. 労働者は仕事の結果を使用者へ渡す

 これが労働者のお仕事サイクルです。

 このうち、2.だけに裁量がある制度ということです。

 そうです。1.には労働者に裁量はないのです。

 これは、要するに、業務量については労働者には裁量がないということを意味します。

 

 したがって、次のような現象が起きます。

('◇')ゞ「仕事終わったんで、定時前だけど帰ります!」

( ゚Д゚)「もう終わったの?じゃあ、次はこれやって」

( ;∀;)「え?でも・・・裁量労働なんで・・・」

( ゚Д゚)「あ、そう。業務命令を断るんだ。へー。」

(*_*)「やりますよ・・・」

 ほかにも、

( ゚Д゚)「おまえたちは、裁量労働制だ。好きなときに帰れるぞ」

(*´▽`*)「わーい」

( ゚Д゚)「ただし、俺が与えた仕事を全部終わらせてからだがな」

( ;∀;)「えーん」

 とか、

(-"-)「仕事が多くて終わらないッス」

( ゚Д゚)「仕事の進め方は自由でいいぞ」

(-"-)「いや、仕事が多すぎるんです。終わらないんです」

( ゚Д゚)「でも、仕事の進め方は自由だぞ」

(-"-)「・・・・(怒)」

 ということになります。

定額働かせ放題

 で、どれだけ長く働いても、あらかじめ、みなすとした時間だけ働いたとしかされません。

 たとえば、1か月10時間の残業があるとみなすとした場合は、100時間残業しても10時間しか残業していないとみなされます。

 そのため、給料もみなされた労働時間分しか払われません。

 使用者にとっては、ラッキーです。

 仕事を目いっぱい与えて、あとはどうぞご自由にとすれば、いいのです。

 どんなに長く働いても払う給料は一定です。

 これが裁量労働制の実際です。

 それゆえに、定額働かせ放題とネーミングしたわけです。

裁量労働制についての幻想

 ところで、よく、裁量労働制だと早く帰れるとか、病院に行けるとか、子育て時間ができるとか、そう言う人がいます。

 裁量労働制があったから早く帰れた・・・・と。

 果たして、そうでしょうか?

 実は、意外と思うかもしれませんが、裁量労働制と早く帰れることは無関係です。

 たとえば、9時始業で、18時が終業時刻(休憩1時間)の会社で働くある労働者がいたとします。

 その人が、15時に帰っても、使用者が18時まで働いたとみなすことは、裁量労働制に関係なくできます

 これはなんにも制限されていません。

 しかし、21時まで働いた労働者の終業時刻を18時とみなすことは、裁量労働制でないとできません

 裁量労働制でない場合は、21時までの残業代を払う義務が使用者にあるのですが、裁量労働制だとこの義務を免れます。

 これぞ、裁量労働制の真の意味なのです

 なので、残業代を払わないで働かせられる裁量労働制の方が、一般的な時間管理のある労働者よりも長く働く傾向にあることは、ある意味、当然なのです。

撤回しかない

 この裁量労働制の拡大をしようとしているのが、「働き方改革」です。

 これが、本当に「働き方改革」なのでしょうか?

 喜ぶのは労働者ではなく、ブラック企業ではないでしょうか?

 裁量労働制は速やかに撤回すべきだと思います。

 あと高プロも一緒に撤回すべきだと思います。

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弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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