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放置すれば企業にも責任が!?~なくそう!カスタマーハラスメント!~

佐々木亮弁護士・日本労働弁護団幹事長
(提供:イメージマート)

みなさん、カスタマーハラスメント(カスハラ)という言葉をご存知でしょうか? ハラスメントとつくから、なんかの嫌がらせだろう、というのは想像がつきますよね。

 最近でも、複数のニュースがありますね。

“お客様は神様”文化から、従業員を守る姿勢を示す時代に…厚労省も対策に乗り出す「カスハラ」問題

ドラッグストア「無料PCR検査」で深刻なカスハラ被害 対象外の客から罵声

 この言葉、少しずつ耳にするようになっている言葉ですが、まだまだあまり知られていないのも事実です。

 しかし、実は、このカスタマーハラスメントは、企業調査で、相談件数としては、パワハラ、セクハラに次ぐ第3位という「ハラスメント」なのです。

カスタマーハラスメントとは?

 カスタマーハラスメントとは、略称「カスハラ」とも呼ばれるもので、一言でいえば、顧客等からの著しい迷惑行為を指す言葉です。

 ここには単なるクレームは入りません。単なるクレームを超えて、過剰な要求をしたり、不当ないちゃもんをつけるなど、悪質なものがカスハラとなります。

 たとえば、サービス業の店員に土下座を強要するなどはその典型です(場合によっては強要罪という犯罪にもなります)。

 また、サービス提供側の些細な落ち度につけこんで代金の支払いを拒否したり、金銭要求をするなども該当します。

 さらに、顧客による特定の店員などに対するセクハラ該当行為も、当然ながらカスタマーハラスメントに当たります。

どのくらい起きている?

 先ほど、企業調査での相談件数は第3位と述べましたが、これは厚労省が2021年3月に公表した「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査」での結果です。

 この調査によると、パワハラは過去3年で相談があったと答えた企業が48.2%、セクハラは同じく29.8%、そしてカスハラが19.5%と続くのです。

 また、労働組合のUA ゼンセン調査(2017年)では、業務中に客から迷惑行為を受けたことがあると答えた労働者は70.1%にものぼっています。

 どのような迷惑行為かについては、暴言が66.5%と圧倒的に高く、何回も同じ内容を繰り返すクレームが39.1%、権威的(説教)態度が36.4%と続きます。

 また、セクハラ行為が13.4%にものぼり、金品の要求(8.1%)、暴力行為(4.8%)、土下座の強要(4.2%)など、率として著しく高いわけではありませんが、放置できないレベルで存在することがわかります。

 このようにカスタマーハラスメントは、無視できないほど社会の中に存在してしまっていることがわかります。

労働者や使用者にとってどういう影響があるのか

 カスタマーハラスメントは、労働者の目線からすると、就業環境を害されている状況です。

 これにより、その労働者は健康(特に心の健康)を害する危険にさらされます。

 そして、就労意欲が低下し、業務遂行の能率が下がります。場合によっては、退職を選択することもあり得ます。

 他方、使用者にとっては、労働者の就労意欲が低下することで、業績が下がりますし、カスタマーハラスメントへの対応で時間を使わされ、本来業務に悪影響が生じます。

 また、労働者が辞めてしまえば人員確保が必要になり、そのためのコストが生じます。

 さらに、業務が遅滞してしまい他の顧客への悪影響が生じ、顧客離れを生むこともあります。

 このように、カスタマーハラスメントは、労使にとって、マイナスでしかないものなのです。

職場での対応はどういうものが求められるか

 パワハラについては、近年、法律がつくられましたが、その法律の指針の中に、カスタマーハラスメントについても言及されている箇所があります。

 そこでは、事業主に、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備をするよう求めています。具体的には、相談窓口を設置して、それを労働者に周知し、適切に対応することが求められます。

 また、実際に被害に遭った労働者に対する配慮のための取り組みも必要です。被害者のメンタルヘルス不調への相談対応や、一人で対応させない等の取組をするよう求めています。

 さらに、対応マニュアルの作成や研修の実施など被害の防止を図る措置も必要です。

 したがって、企業としては、最低限、上記のことはしておく必要があります。

 なお、2022年4月から、この法律は中小企業も含めて全面施行されました。

 こうした指針ができたこともあり、厚労省は、2022年2月には、カスタマーハラスメント対策企業マニュアルを作成し、対策の呼びかけをしています。

法的責任は誰に?

 カスタマーハラスメントが起きた際、当然ながら加害者はハラスメント行為者です。店員に被害が生じた場合、行為者が法的責任(損害賠償責任や場合によっては刑事罰)を負うのは当然です。

 では、会社はどうでしょうか?

 先にみたとおり、指針や厚労省の呼びかけがあり、また、既に社会的に顧客からの嫌がらせが認知されている状況ですから、もし企業がカスタマーハラスメントに対して無策で、カスタマーハラスメントに遭っている従業員を放置したり、何の配慮もしなかった場合は、その結果その従業員が受けた損害を賠償する責任を負う可能性もあります。

 企業には、労働者を指揮命令して働かせることの責任として、労働者が働く環境を安全なものとすべき義務があるからです(安全配慮義務といいます)。

最後に

 カスタマーハラスメントは、自分たちが加害者になるかもしれないものです。

 よく「お客様は神様です」という言葉が誤解され、誤用されていますが、お客であっても一人の人間ですし、当然ながらサービスを提供する労働者も一人の人間です。

 お互いに尊重し合えば、カスタマーハラスメントは大幅に減らせる類のハラスメントであると思います。

 すべてのハラスメントをなくす一歩として、ぜひ意識してみてください。

日本労働弁護団の動画でも解説!

 次の動画でも短くカスハラについて解説しているので、興味のある方はご覧ください。

弁護士・日本労働弁護団幹事長

弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団幹事長(2022年11月に就任しました)。ブラック企業被害対策弁護団顧問(2021年11月に代表退任しました)。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!2021年3月、KADOKAWAから「武器としての労働法」を出版しました。

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