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ハーベイ・ワインスタインは、またもや自分の会社から追い出されるのか?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
長年にわたるセクハラを暴露されたハーベイ・ワインスタイン(写真:Shutterstock/アフロ)

 ハリウッドの大物ハーベイ・ワインスタイン(65)が、キャリア最大の危機に直面している。明日の役員会の決定次第では、彼が弟ボブと共に創設したワインスタイン・カンパニーから追い出されるかもしれないのだ。彼とボブは、過去に、両親の名前を冠したミラマックスを離れるという決意をしている(かつてのオスカー荒らしミラマックスは、今どうしているのか)。その後に作ったのがこの会社なのだが、今度は、弟を置いて、自分だけ、自分たちの苗字を冠した会社から不本意にもクビにされそうなのである。

 問題を引き起こしたのは、アメリカ時間5日(木)に出た「New York Times」の記事(https://www.nytimes.com/2017/10/05/us/harvey-weinstein-harassment-allegations.html?smid=tw-nytimes&smtyp=cur&_r=0)。30年にわたってワインスタインが女性たちに対して行ってきたセクハラの実情を暴くもので、実名、匿名の女性の被害例が多数挙げられている。

 被害者に共通するのは、20代の女性ということ。その中には、ニューヨーク本社やロンドン支社の社員もいれば、女優もいる。アシュレイ・ジャッドも、20年前にホテルでの朝食に呼び出されたところ、部屋に来るように指示され、そこでワインスタインに「自分がシャワーを浴びるのを見ていてくれ」と言われたと告白しているのだが、彼女はこの出来事自体のことを、2年前に「Variety」へのインタビューで加害者の名前を伏せつつ述べている(トランプだけじゃない。「仕事が欲しいなら俺と寝ろ」が起こり続けてきたハリウッドの病んだ実情)。今回、それがワインスタインだったと明かしたことについては、「女性たちの間では、長い間、ハーベイについて語られていた。もはや、このことについて、公に語るべき時」と、記事中で説明した。

 これと同じ手口を、ワインスタインは違う女性を相手に何度も使ったようだ。別のパターンとして、裸で女性の前に現れたり、裸の自分にマッサージしてくれと言ったりもしたようである。

重役たちも、ことの大きさを認識していなかった

「New York Times」によると、ワインスタインの行為に対して声を上げ、示談に合意した女性が、少なくとも8人いるという(別のメディアは、事情をよく知る社内の人の話として、少なくとも12人としている)。ワインスタイン・カンパニーは、仕事をする上での契約書に、「会社のイメージダウンになるコメントはしない」「争いごとになっても、示談でまとまった場合、そのことについて話さない」などの条項を含めているとのことで、それらの女性たちは、和解金をもらうのと引き換えに、口を閉ざしてきた。それぞれのケースにより、8万ドル(約900万円)から15万ドル(約1,700万円)に及ぶ和解金を、ワインスタインは、会社からではなく自腹で出してきたため、彼の女好きを十分わかっている役員たちも、ここまでの大ごととは、気づいていなかったようだ。

 とは言え、近年、弟ボブや重役は、警戒心を強めていたようである。2015年、イタリア人モデルがワインスタインにキャリアについて話し合おうと言われ、彼のニューヨークのオフィスを訪ねたところ、彼は「この胸は本物か」と胸を触ってきた。それにショックを受けた彼女は、警察に電話をしている。検挙には至らなかったが、警察を巻き込んだ事件になったことで、役員はワインスタインを追及することになった(ワインスタインは『彼女に仕組まれた』と弁明した)。

 数々の事件が起こったとされる30年間、ワインスタインは、ほとんどの時期、結婚をしている。最初の妻とは1987年に結婚、2004年に離婚が成立。夫妻の間には3人の子供がいる。次の妻で現在も続いているジョージナ・チャップマンとは、2007年に結婚。現在41歳のチャップマンは、女性セレブがレッドカーペットでよく着ている(もちろんそこにはワインスタインの影響もある)マルケッサのデザイナーで、夫妻の間にはふたりの子供がいる。

セクハラについての認識が高まっている時代

「New York Times」がこの記事に向けて動いていることは、ワインスタインもわかっていた。並行して「New Yorker」誌も、独自の記事に挑んでいる。彼の弁護士のひとりであるリサ・ブルームは、「私が、彼に、今は2017年なんです、前とは違うんです、行動を変えないと、と言うと、彼は素直に聞きました」と言っている。実際、ワインスタインは、この記事が出る直前に、臨時休職すると発表した。だが、2017年においては、おそらく臨時の休職ではすまないのが現実なのである。

 昨年、フォックス・ニュースのキャスター、グレッチェン・カールソンは、同チャンネルのCEOであるロジャー・エイルズにセクハラを受けたとして訴訟し、フォックスから2,000万ドル(約22億円)を獲得した。エイルズは、アメリカのニュースメディアに大きな影響を与えた人物なのだが、このことで局を追放されることになる(彼は今年5月、77歳で亡くなった)。昨年の大統領選挙前には、芸能番組ホストのビリー・ブッシュが、過去にカメラの裏側でトランプと一緒に卑猥な発言をした時の音声が公開されたことから、職を失っている。それでもトランプが選挙で勝ったのは納得がいかないところなのだが、とにかく、アメリカは今、セクハラに対して、そんなふうに、これまでになく意識が高まってきているのである。

 エイルズのケースでは、カールソンの後に複数の女性が被害者として名乗りを上げているだけに、ワインスタインに関しても、これから被害者の数が増えていくことは、十分考えられる。それらの女性たちが訴訟を起こしたら、会社としてはどうなるのか?そうでなくても、ワインスタイン・カンパニーは、お金に苦労しているところだ。イメージダウンを心配して資金提供をやめようという人たちが続出したならば、まさに死活問題である。

 ワインスタインは、とくにミラマックス時代、オスカーで大健闘するすばらしい作品を送り続け、ハリウッドを大きく変えた人。だからこそ、これがキャリアへの糸口なのかと、嫌々ながらノーと言わなかった若い女性たちが、多数いたのだ。だが、今、そういった搾取はもう終わらせる時期だと、みんなが認識し始めている。かつてのオスカー荒らしである彼ですら、例外ではいられない。この時代はずれの王は、今さら言われた過去の罪を、どうつぐなうのだろうか。どんな映画よりも予測がつかない状況に、業界は、目を離せないでいる。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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