Yahoo!ニュース

トランプだけじゃない。「仕事が欲しいなら俺と寝ろ」が起こり続けてきたハリウッドの病んだ実情

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
シャーリーズ・セロンも、駆け出しの19歳の頃、被害に遭いそうになった(写真:REX FEATURES/アフロ)

ドナルド・トランプが、窮地に追いやられている。大統領選まで3週間ちょっとと迫った今、本人の意思に反して彼に体を触られたという女性が、次々に名乗り出ているのだ。

そのうちのひとりは、トランプのリアリティ番組「The Apprentice」第5シーズンに出演した女性。トランプの会社で仕事をもらえないかと思った彼女がトランプ本人に連絡したところ、彼は彼女にビバリーヒルズのホテルの部屋に来るように指示した。彼女は、そこで仕事のための面接が行われるものと思っていたが、部屋に入ると、彼は、キスをしたり、胸を触り出したりしたのだという。彼女はそれを無視し、あくまで仕事の面接に来たような態度を通したが、その結果、トランプが所有するゴルフコースでの低賃金の仕事しかもらえなかった。

2ヶ月半ほど前には、トランプと長年の友人であるロジャー・エイルズが、同じ理由で職を追いやられている。エイルズがトップを務めたフォックス・ニュースチャンネルの元ニュースキャスターだったグレッチェン・カールソンが、今年7月、自分がクビにされたのはエイルズからの性的な要求を拒否したせいだとする訴訟を起こしたせいだ。これを受けて、同じような目に遭った女性が次々に名乗り出ることになる。その中には、有名キャスターのメーガン・ケリーも混じっていた。先月、フォックスはカールソンに2,000万ドル(約20億円)の賠償金払うことに合意し、和解が成立している。

そんな中、米西海岸時間14日(金)には、ローズ・マッゴーワン(『スクリーム』『グラインドハウス』)が、ツイッターで、ハリウッドのエクゼクティブにレイプされた過去の体験を告白した。最初のツイートで、マッゴーワンは、「レイプされた相手に私がへつらっていると、私はバカにされています。それはハリウッドやメディアで、こっそり知られていることです」と書いている。次のメッセージで、彼女は、「なぜかというと、その映画の配給権を、私の元恋人がそのレイプ男に売ったからなのです」と理由を明かした。さらに、「(女性の)法廷弁護士にも、私は映画でセックスシーンをやったことがあるから、スタジオのトップを裁判で打ち負かすことはできないと言われてしまいました」と述べた。それは、なぜ女性たちがすぐに被害を報告しないのかを説明するのでもあり、彼女は自分のツイートに#WhyWomenDontReportというハッシュタグをつけている。

「役を欲しいがために女優が誰かと寝る」というのは、“陳腐な常識”として、ハリウッドで長い間ジョークのネタにされてきたことだ。だが、これは単なるジョークではなく、頻繁に起こってきたことであり、今も起こっていることなのである。辛い体験についてあえて語った女優たちの発言を紹介する。

アシュレイ・ジャッド

昨年の「Variety」へのインタビューで、ジャッドは、“非常に尊敬されたハリウッドのエクゼクティブ”にセクシャルハラスメントを受けたことを告白した。そのエクゼクティブは、「ホテルで会おうよ。そこで食事でもしよう」と、ごく自然に彼女を誘ったのだという。「コレクター」(1997) に出た後で、「ダブル・ジョパティー」(1999)より前だと言っているので、時期はそのあたり、つまり彼女が30歳になるかどうかの頃だろう。

彼女がホテルに着くと、彼は彼女に部屋まで来るように指示した。彼は徐々に大胆なことを要求し、最後に、「僕がシャワーを浴びるのを見ていてくれる?」と言ったのだという。後になって、その体験を別の女性たちに語った時、その男性が同じことをほかの多くの女性に対してやっていたことを彼女は知った。そして、彼女は、その男性が勤務するスタジオから、一度も役をオファーされることはなかったとも明かしている。

クロエ・セヴィニー

今年のカンヌ映画祭で行われたパネルディスカッションで、セヴィニーは、ハリウッドでパワーをもつ男性から、さまざまな形で不適切な誘いを受けた体験を語っている。たとえば、「この後、君は何をする予定?服でも買いに行く?試着室で僕が見てあげて買ってあげようか?」などというものだ。彼女は過去にも「ブラウン・バニー」などで全裸を見せているにも関わらず、それらの権力をもつ男性に、「もっと脱ぐべきだよ。今がその時だ。歳を取ってから脱ぐ女優もいるけれど、それはだめだ。今やれ」と言われたとも明かした。監督から性的関係を迫られ、断ったがために役を逃したことも数回あると語っている。

タンディ・ニュートン

「M:I-2」でトム・クルーズの相手役を獲得してブレイクする前、まだあまり名前が知られていなかったニュートンは、ある映画のために不快なオーディションを受けた。そのオーディションで、監督は、カメラを彼女のスカートのあたりから回しながら、「男が君を誘惑している姿を想像しつつ、自分で胸を触って」と言ったのだという。奇妙だなと思いつつも、新人の彼女は、言われるままにやった。それから何年もたって、ある席で、酔っ払ったあるプロデューサーに、「ああ、君か。最近見させてもらったよ」と言われ、その映像が彼女の思わぬ形で思わぬ人々に公開されていたことを知ることになる。今、ふたりの娘の母である彼女は、「あの頃は駆け出しで、世間知らずだった。自分の娘たちには、今からいろいろ教えたい」と語っている。

ジェニー・マッカーシー

現在ドニー・ウォルバーグと結婚しており、過去にはジム・キャリーとつきあったジェニー・マッカーシーは、過去にスティーブン・セガールからセクハラを受けたことを、最近になって明かしている。彼女がテレビ番組「Access Hollywood」に対して語ったことによると、「沈黙シリーズ第3弾/暴走特急」のオーディションを受けた時、彼女は、大勢の女優の中で最後の番だった。そこにはなぜかキャスティングディレクターがおらず、セガールだけで、彼はオーディションに必要とは思われないさまざまなことを聞いてきた挙句、「その服では君がセクシーな役を演じられるかどうかわからないから、服を全部抜いで」と言ったのだそうだ。脚本にはヌードシーンがなかったこともあり、彼女は不自然さを察知して、その場を離れた。

シャーリーズ・セロン

今でこそオスカー受賞者で世界に名を知られる大スターのセロンは、19歳の時、ダンサーの夢を絶たれて女優になるためにL.A.に移住したばかりの、南アフリカ出身の名もない女性だった。何も知らない彼女は、土曜日の夜にトップエクゼクティブに個人宅で会うというオーディションを「変だな」と思いつつも、「ハリウッドでは普通なのかも」と思いつつ出かける。しかし、相手の男性がパジャマで現れ、酒を渡してきた時、これは違うと思ってその場を退出したと、彼女は後に告白している。

リサ・リナ

90年代にテレビドラマ「メルローズ・プレイス」にセクシーな悪女として登場し、大ブレイクを得たリナは、それより前で無名だった24歳の頃、あるプロデューサーに「パンティを下ろして、かがんでよ。そうしたらこの役は君のものだ」と言われたことを明かしている。「メルローズ・プレイス」で有名になった後、彼女はそのプロデューサーに、「今じゃ、私はこの業界の人をみんな知っているわ。あなたが何かしようものなら、あのことを話すわよ」と言ってやったとのことである。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

猿渡由紀の最近の記事