かつてのオスカー荒らしミラマックスは、今どうしているのか

ハーベイ・ワインスタイン(左)と弟ボブは、ハリウッドにひとつの時代を築いた(写真:ロイター/アフロ)

 十数年前、ミラマックスは、泣く子も黙るハリウッドの王者だった。

 インディーズというジャンルを本格的に確立し、打ち出の小槌かドラえもんのポケットかとでもいうように、次々と洗練された傑作映画を送り出したのが、ハーベイ&ボブ・ワインスタイン兄弟が70年代末に創設したこの会社である。やりすぎと批判されるほど積極的なオスカーキャンペーンを展開し、まんまと結果を手にしてみせるハーベイ・ワインスタインを、ライバルスタジオは、 嫉妬と羨望の混じった目で見つめたものだ。

 80年代末から2000年代初めにかけて、ミラマックスが配給した作品には、「マイ・レフトフット」「クライング・ゲーム」「イングリッシュ・ペイシェント」「恋におちたシェイクスピア」「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」「パルプ・フィクション」「シカゴ」「ギャング・オブ・ニューヨーク」「コールドマウンテン」などがある。クエンティン・タランティーノ、グウィネス・パルトロウ、ベン・アフレックなど、新しい才能にいち早く目をつけたのも、ワインスタインだ。映画通にとって、ミラマックスのロゴは、お宝発掘のおまけも時についてくる、品質保証マークのような意味をもっていたのである。

 それが、最近はすっかり名前を聞かない。いや、名前すらほとんど忘れられている状態だ。だが、今週出たレイオフのニュースが、この会社の存在を、改めて思い出させることになった。このレイオフは、5月に続いて、今年2回目。5月は25人、今回は20人規模だ。ここに至るまでの過程で大幅な人員削減がなされ、現在社員数100人ほどになっている会社にとって、少ない人数ではない。

 ミラマックスの最初の転機は、1993年、ディズニーに6,000万ドルで買収されたこと。買収後も、ワインスタイン兄弟らは良い映画を配給し続けるのだが、当時のCEOマイケル・アイズナーとの間に、摩擦が絶えなかった。ワインスタインらが強い政治的メッセージをもつマイケル・ムーアの「華氏911」(2004)の配給を決めた時も激しく衝突し、2005年の契約更新時に、兄弟はディズニーを離れ、新たにザ・ワインスタイン・カンパニーを創設した。

 その後、ディズニーはミラマックスの製作本数を年3本までに減らし、それに合わせて人員も削減する。一方で、ワインスタイン兄弟は、 両親の名前に由来する社名を掲げる最愛の会社を買い戻そうと、スーパーマーケット業界の王でビリオネアのロン・バークルを味方につけた。この作戦が崩壊したのは、バークルのお金に頼ってしまったせいで、前と同じように他人にコントロールされてしまうのではと、ワインスタインらが不安を感じたのも理由かと言われている。

3度目のオーナーは、新作への投資により消極的

 結局、ミラマックスは、2010年、投資家グループのフィルムヤード・ホールディングスに、6億6,000万ドルで買収された。その後に公開された「The Debt(日本未公開)」「テンペスト」などは、買収の段階ですでに製作が進んでいたもの。フィルムヤードの元で新しく製作されたのは、「Mr. ホームズ 名探偵最後の事件」や、前に成功した映画の続編である「シン・シティ 復讐の女神」「ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期」「Bad Santa 2(日本未公開)」くらいだ。新しい作品に投資する意欲や経験もないトップのもとで、ミラマックスの役割は、 主に、昔のヒット作の使用料で利益を上げるだけになってしまった。

 そして昨年3月には、カタールのメディア会社ビーイン・メディアが新たなオーナーとなる。 今年4月、CEOに抜擢されたビル・ブロックは、プロデューサーやタレントエージェント、映画のセラーやバイヤーなど、業界に幅広い経験を持つ人物。最近の2回のレイオフは、新しいトップになったばかりの彼が、経営見直しのために決行したものである。

 この4番目のオーナーのもとで製作され、これから公開される作品には、「I, Tonya」や「LAbyrinth」がある。いずれも実話もので、前者ではマーゴット・ロビーがトーニャ・ハーディングを、後者ではジョニー・デップが2パックの殺人事件を捜査する刑事を演じる。北米公開はいずれも来年だが、「I, Tonya」は、今月のトロント映画祭でプレミアされる予定だ。

 トロントは、オスカー戦線のスタート地点としても注目される、重要な映画祭。ここで高い評判を得られれば、会社の将来に、少なからず希望を与えてくれることになるだろう。この歴史あるブランドが、また、新鮮な視点と語り口をもつ、大人のための優れた作品を送り出してくれることを、映画ファンは待ち望んでいる。