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福岡・宮若 女児3人死亡の水難事故の原因 水難事故調レポート

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
同時刻の事故現場。水面の反射で底が浅いと錯覚してしまう(筆者撮影)

 7月21日に福岡県宮若市で発生した女児3人死亡の水難事故の現場に、水難学会は事故調査委員(犬飼直之委員長、長岡技術科学大学准教授)を派遣し、現場調査と事故解析を行いました。その結果、川底にある「崩れ砂」が溺水の引き金になったとの結論を得ました。

事故調査の概要

 8月26日に実施された事故調査では、現地に赴いて主に地勢調査、流れ調査、深浅測量、底質調査を行いました。

地勢調査 無人航空機を使った上空からの映像により、本流と支流との位置関係、合流部における川底変化の様子を確認する

流れ調査 現場となった犬鳴川の流れ、支流である山口川の流れを表層ならびに水中において確認する

深浅測量 3人の女児が発見された場所を中心にして、その周辺の深さとその変化について実測する

底質調査 3人の女児が発見された場所を中心にして、その周辺の川底の底質についてサンプルを収集する

 現地調査で得られたデータをもとに女児3人が溺れに至った過程を推測しました。

調査結果

◆地勢調査

 図1に無人航空機により得た事故現場の上空写真を示します。犬鳴川と山口川の合流部における川の深さが明確になるように、少しコントラストを強めに画像を編集しています。

図1 事故現場の上空写真(撮影者:犬飼直之)
図1 事故現場の上空写真(撮影者:犬飼直之)

 図 1 では、写真の上方から山口川、写真の左から犬鳴川がそれぞれ流れてきて、写真中央で合流します。合流部より写真の上の半分は川底に砂利が見えます。また写真の中央下から左にかけても川底に砂利が見えます。このように砂利が透けて見える所は、水深が比較的浅い箇所になります。

 一方、合流部付近では濃い緑色の水が広がっています。ここが、水深が深くなっている箇所となります。左に草の生い茂った島が見えますが、その右側、つまり下流側がかなり深くなっていることがわかります。島と深みの組み合わせは、河川の合流部でよく見られます。女児 3 人が沈んでいた川底は、水面に白いあぶくの見える付近となります。

◆流れ調査

 事故現場とその周辺における流れは、表層から水中にかけてほぼありません。図 1 の中央付近から写真上に向かっている水中の濁りは、人が写真の上方に向かって歩いた後です。動画では、この濁りが流れによって移動した明確な証拠は見られませんでした。

 ただ、事故翌日の 7 月 22 日の時点では筆者目視観察で山口川から犬鳴川に向けて秒速 10 cm 程度の明確な流れが確認できました。合流部に向かって確実に流れが見て取れましたので、7 月 22 日と 8 月 26 日では合流部付近での水深などの条件がわずかに異なっていたのでしょう。

◆深浅測量

 深浅測量は、直接ポールを水底に突き刺すようにして深さの測定を行いました。図2には女児らの歩いた進行方向とともに各点における水深を概算値で記載しています。

図2 深浅測量の概算速報値、数字は水深で単位はcm(筆者作成)
図2 深浅測量の概算速報値、数字は水深で単位はcm(筆者作成)

 図2 の写真の上半分は山口川で、女児らは山口川上流から写真の下の方向に向かって川の中を歩いていました。上空から川底の砂利の様子が明確に見える箇所の深さは 80 cm 程度。水深が 120 cm に達すると水底の様子をうかがうことはほぼありません。

 水の色の変化からこのあたりでの水深の変化率が高くなっていることがわかります。水深 120 cm では女児らはかろうじて顔を水面上に出せるのですが、170 cm の深さでは全身が水に浸かります。そしてさらに深みに進むと大人の背丈を超える水深に達して、続いて下流に移動するとそれが 300 cm まで深くなっていきます。

◆底質調査 

 図 2 にて説明します。女児らの進行方向において、●40 から●60 までの位置では、所々こぶしより大きな石の混じった砂利の底質でした。●80 から●170 までの 3 位置では、こぶし大の石が所々に混じった砂利で、川の中の水を簡単に濁らせるような泥も混じっていました。

 ●80 から●170 までの川底の傾斜は分度器の角度でおよそ 25 度。底質から考えると斜面はほぼ安息角で準安定状態だったと推測できます。安息角とは、その底質が水中において崩れる直前の角度で、何もなければその角度で斜面は安定していますが、人の足が斜面にのったなどの何かしらの荷重がかかれば簡単に崩れる角度です。斜面にあって崩れゆく砂を崩れ砂と呼びます。

溺れに至った過程

 溺水点は、●120 付近と思われます。この点での水深は 120 cm ほどです。この点の直前までは川底の傾斜が緩やかで、川の中を歩いても足がとられることがありません。ところが、●120 付近に差し掛かると斜面にかけた足が深い方に滑り、いっきに身体が沈みます。足が崩れ砂にのってしまった瞬間です。その直後に元来た方向に振り向くと、さらに身体が沈んでいきます。どういう状況なのか具体には動画 1 が参考になります。

動画1 宮城県白石川での中学生女子2人が溺れて命を落とした川の現場(筆者撮影、32秒)

 川底の崩れ砂がきっかけとなったと思われる水難事故は過去にもたびたび発生しています。その事故解析結果については参考文献にまとめてあります。特徴として最初に沈んだ友達(きょうだい)を助けようとして手を伸ばし、つぎつぎと沈水していき、結果として多重水難となります。

再発防止に向けて

「子供同士で川には近づかない」ことを徹底して、地域や学校で決まりとして守ってほしいと思います。可動堰を設置してある河川においては、水位が常に大きく変動することを地域住民がしっかりと認識する必要があります。また、そういった水利施設の近辺にはフェンスを設置して関係者以外の川への立入を制限することも効果的です。

 子どもたちは学校で、万が一の場合には浮いて救助を待つ実技を水難学会のういてまて教室で学ぶことができます。崩れ砂で沈水した時の緊急浮上、その後の背浮きの一連の動作も実技プログラムに含まれています。

【詳細はこちら】放課後の水難事故 子供たちの命を守るために必要な教育は?

【NHK みんなのうた】カッパは知っている (子ども向け水難事故防止ソング)

参考文献

 水難学会ではこれまで多くの事故調査を行い、その調査結果をもとにういてまて教室プログラムを作り上げています。これまでの事故調査報告は次の通りです。

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謝辞

 本調査を含む一連の調査研究は、日本財団助成事業「わが国唯一の水難事故調査 子供の単独行動水面転落事故を中心に」と日本学術振興会科学研究費補助金 基盤研究(c)課題番号22K11632の助成により行われています。

 本調査は、事故当日救助活動に当たった直方・鞍手広域市町村圏事務組合消防本部、犬鳴川を管轄する国土交通省九州地方整備局 遠賀川河川事務所の協力のもとで行われました。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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