海水浴、遠浅の海でないと、何が危険なのか
「遠浅の海は海水浴に適している」と聞いたことはありませんか?逆に遠浅でなければ何が危険なのでしょうか。そこには、泳ぐ気がなくても命を落とすかもしれない危険が潜んでいます。
すでに夏休みのシーズンに突入しています。この土日には海で海水浴を楽しむ計画を立てている方も大勢おられると思います。海水浴は、ぜひともライフセーバーや監視員のいる海水浴場で楽しみましょう。
海岸線の長いわが国のこと。海水浴場ではない海岸も多数あります。当然、海水浴に適さないという理由から海水浴場になっていない場所もそのなかにあります。「適さない」理由にはいろいろとあるのですが、そのうちの一つに「遠浅ではない」砂浜海岸があります。
遠浅ではない海岸での実験の様子
急に深くなっている砂浜で、何が危ないのか実験をしてみました。動画をご覧ください。
動画 傾斜のある砂浜ではこうやって溺れる (筆者撮影 1分1秒)
ここからは写真で解説します。図1をご覧ください。人が立っている、ここの砂浜の上は見た目では平坦で傾斜はありません。こういう砂浜に立って海を見ると、つい遠浅だと錯覚してしまいます。当然、ここに到着したばかりなら、歓声を上げて海に入ることでしょう。
図1の平坦部では足が砂にそれほど沈んでいません。ここに立っているだけでしっかりとした足元だと勘違いしてしまいます。そして図2のようにして一歩水中に足を入れてみます。
砂の傾斜に足を踏み入れた瞬間、深く足が吸い込まれたような感じになりました。これは砂が崩れたために起こった現象です。遠浅ではない急な傾斜をもった砂底では、その傾斜は安息角という微妙な角度で安定しています。そこに足を踏み入れるとその微妙な角度が崩れて、いっきに砂の傾斜の崩落が始まるのです。身体がストンと水に吸い込まれるように落ちていきます。
図3をご覧ください。砂浜から2 mくらい先で「ストップ」の掛け声とともに停止しようとしているのですが、砂底のきつい傾斜とともに、砂の崩落によってとまることができません。あっという間に大人の背丈ほどの深さに沈み込むことになりました。これが子供だったらと考えると、とても恐ろしく感じます。
図4は水中写真です。砂底の傾斜は分度器の角度でおよそ40度です。これがここの海岸での砂の安息角です。被験者の右足が砂に潜り、身体は前のめりになっていることがわかります。左足で踏ん張ろうとしても砂が崩落するために全く踏ん張れない状況です。これでは「ストップ」の掛け声で運動がとまるはずがありません。
遠浅ではない海岸での一連の実験で分かったことは次の通りです。
1.海岸の砂の傾斜と海底の砂の傾斜は一致していない(錯覚)
2.傾斜に足を踏み入れた瞬間から砂の崩落が始まる (思いがけないこと)
3.崩落に足が引きずられて水中に沈んでいく (溺れる)
「遠浅だと錯覚して足を入れたら、思いがけずに水中に吸い込まれ溺れる」という結果になりました。
海岸で何に注意したらよいのか
海水浴は海水浴場で、しかも遠浅の海で楽しみましょう。
水難事故は、実は入水直後に発生することが大変多いのです。だから実態としては「海水浴を始めたらすぐに悲しい事故に遭遇した」ということが多いのです。
海岸についたら、泳ぐ気がなくても、まず「じっくりと水の深さを確認する」ことが重要です。いきなり走って水に入るのではなく、水に入る前に立ち止まって「急に深くなっていないか」家族で来ているなら、全員で確認しましょう。
親なら、入水前に砂浜の上で子供をしっかりみていると思います。でも、海に向かって歩いている時に数mでも子供の後ろに親がいるようであれば「みている」ことになりません。一緒に同じ位置に立って水に近づくようにします。
海岸では大人の目線で海が深いと思っても、錯覚で子供の目線からは浅く感じます。深さに関しては大人と子供と感じ方が異なりますから、声に出して「ここは急に深くなっている」とお互いで注意するようにしましょう。
さらに詳しくは
今年の夏休み、水遊びの際に注意したい点をおさらいするには、ぜひ次の番組を参考にされてください。そして、水辺にて家族で夏の楽しい思い出を作ってください。
NHK 総合 2022年7月31日(日)10時5分から放送 (関東一都六県は8月1日午前0時55分から)
夏休みに必見!水難事故から命を守る対処法▽水難学会とNHK潜水班が水辺に潜む危険を徹底調査▽ダレノガレ明美が挑戦「ういてまて」とは?▽海の恐怖「離岸流」に迫る
本調査研究は、日本財団令和4年度助成事業「わが国唯一の水難事故調査 子供の水面転落事故を中心に」により行われました。迅速公開であり、詳細については後日改めて公開します。