ママ・パパと一緒に聴きたい 人気急上昇の歌「カッパは知っている」
NHK みんなのうた「カッパは知っている」が、水難事故防止ソングの新曲として8月1日にリリースされました。リリース直後からクリック急上昇のこの歌には、わが国の水難学研究25年の成果が込められています。ぜひお子さんと一緒にご家族で視聴をお楽しみください。
小学校教諭もびっくり
「え?みんなのうたが異次元に入った!」とびっくりの教諭は、新潟市南区内の小学校に勤める現役の1年生担任。リリース前の新曲を試聴した感想がまさにこの言葉でした。
新潟県内の小学校では、朝の歌と銘打って全校児童がその時々のテーマソングを朝の時間に歌う文化があり、みんなのうたに採用されている歌もよく歌われるそうです。「みんなのうたに”カッパは知っている”が採用されると、それって新潟県では毎朝子どもたちに歌われることになるよ。」なるほど、歌を通じて子どもたちに直接水難事故防止のコツが届けられるのですね。それでは早速聴いてみましょう。
歌に込めた思い
早速のネタバレですが、子ども向けの歌とは思えないほどのテンポの速さで、川と海の危険をカッパが教えてくれます。聴いているとなにか、わくわくするような気持ちと、その後ちょっと怖くなるような気持ちが交互に入り混じるようなコントラスト。これがきっと現代っ子向けなんでしょうね。
作詞はさくらいようこさん。この詞に表現された歌の一部をひも解いていきましょう。
歌の第一番は、特に5歳から7歳のお子さんに圧倒的に多い「水辺に到着してすぐの事故」を表現しています。暑い日、太陽の直射をまともに受けると河原の砂利の表面温度は60度に達します。この照り返しの中で目の前に冷たそうな清流を見れば、誰でも真っ先にそこに飛び込みたくなることでしょう。そんなときに大人はバーベキューの準備に忙しいときたら、自制を忘れて水に入ってしまう子どもがいてもおかしくありません。
アニメには、始めにサンダルを脱いで膝下までの水深で遊ぶ女の子が登場します。そこにカバーイラストのようにカッパが走ってやってきて「次はこうなるぞ」と警告します。『浅い所でちょっと泳ぎだし、少し進んで立ち上がろうとしたら、そこは深かった。呼吸をしようと顔を出して、両手を上げて沈んでいく』
川の浅い所で全身を水に浸けようとうつ伏せになり泳ぎ始めると、水の深さが確認できなくなります。水の中では空気の中よりもモノが1.3倍程度大きく見えます。つまり、川の底が浅く見えますから「立てる」と思っても、実は目論見が外れて底が深くて往々にして立てないことがあります。
そのような状態で無理に立とうとすると身体が垂直姿勢になり沈みます。そして苦しくなって両手のかきで顔を水面に出し、一度呼吸をした後、再度身体が沈んでいきます。加えて両手を上げて助けを呼ぼうとすると、ますます身体が沈んでいくという、本当に実在する溺水プロセスをアニメを使って忠実に再現しています。
歌の第二番は、川でも海でも、底が泥砂や砂利なら発生する「水の中を歩きながら溺れる事故」を表現しています。この事故のきっかけにはいろいろありますが、二番では流されたサンダルを追いかけるシーンを採用しました。誰でも経験があると思いますが、自分の持ち物が流されるとほぼ条件反射的に手が出てしまいます。浅瀬を流されるうちはモノは速く流れるので途中で追いかけるのを諦めるものです。ところが、恐ろしいのは流されたモノのスピードがどこかで急に弱まった瞬間なのです。
底の深い所では、流れが穏やかになるものです。川は急に深くなるので、あるところでモノのスピードが急に弱まったりします。そうすると人はモノに追い付いたと錯覚し、あと一歩を踏み出してしまいます。そして急な深みに足を踏み入れることになり、底の斜面の泥とか砂がいっきに崩れます。アニメでは男の子の足元が土煙を上げる様子でそれを表現しました。
川の流れや海の波の中では、こういった泥砂・砂利が「安息角」と呼ばれる、崩れるギリギリの角度で常に崩れる寸前の状態になっています。そこに人の足がのっかれば、いっきに斜面が崩れてしまうわけです。足元が崩れれば身体の動きが止まらず、さらなる深みに沈んでいくことになります。これも、現実にある溺水プロセスをアニメを使って忠実に再現しています。
歌の第三番は、海の離岸流を表現しました。「浮き輪にのっかりぼーっとしていたらいつの間にか海岸が遠くなった」という体験をした方が多いのではないでしょうか。岸から沖に向かう離岸流にたまたまのってしまっても、そのまま浮き輪にのっていればとりあえずすぐに命を落とすことはないのですが、ここは敢えて浮き輪から子どもが海に落ちるシーンを入れました。
流された後はどうなる?
「カッパは知っている」の歌の最後にてイメージとしてライフジャケットを着けた子どもがアニメに登場します。
万が一のことで流されて岸に戻れなくなったら、ライフジャケットを着けていてもいなくても「ういてまて」です。
陸の大人は「ういてまて!」と大きな声で叫び、119番消防や118番海上保安庁に救助を要請します。「子どもが流された」と言っていただければ、現場に向けて救助用のヘリコプターも出動します。そして空のペットボトルなど浮くものを浮いて戻れなくなった人に投げてください。(注1)
消防救助隊員、海上保安官、ライフセーバーなど、救助を専門とする現場の人たちの思いは「浮いて待っていてほしい」です。救助を待つ人を素早く助けるために、救助隊は日夜厳しい訓練に耐えて自らを鍛えています。どんな方法でも姿勢でもいいから、現場の願いは「ういてまて」です。ぜひ、お子さんも家族も万が一の水難事故に備え、浮いて救助が待てるように準備をして川や海で水遊びを楽しみましょう。
さいごに
この「カッパは知っている」は、日本全国津々浦々の小学生の一人一人に直接水難事故に関する知識を届けるためにどうしたらいいか、とNHKと水難学会が徹底的に考えてたどり着いた解答です。この歌には、25年かけて多くの研究者によって研究された成果(注2)が織り込まれています。それらは公平な審査員による厳しい審査を経て数多くの科学論文として公表されています。論文では表現が固く難しいので、子どもたちに直接届くように歌とアニメで研究成果を表現しました。これは、学術としても新たな取り組みです。
NHK みんなのうたは次の時間帯に放映されています。
https://www.nhk.or.jp/minna/program/lineup/
カッパは知っている特設WEBはこちらから。
https://www3.nhk.or.jp/news/special/suigai/articles/15854/
注1:「ういてまて」と叫ぶ、緊急通報する、空のペットボトルを投げる、いずれも陸の人がすぐに飛び込まないようにするための方策でもあります。
注2:研究成果は、日本学術振興会科学研究費補助金ならびに日本財団助成金の補助などにより得ています。