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自制か、対抗かー注目される安保理制裁決議への北朝鮮の反応

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
自制すべきか、対抗すべきか、ハムレットの心境の金正恩委員長

 国連安保理は昨日(12月23日)、先月(11月29日)の北朝鮮による大陸間弾道ミサイルICBM「火星15型」の発射を受けて制裁決議「2397号」を採択した。北朝鮮に科せられた安保理の制裁決議は2006年から11年間で延べ10回。今年一年だけで4回に達する。

(参考資料:国連安保理の9回目の制裁決議で今度こそ、北朝鮮は手を上げるか!?

 今回の決議は、北朝鮮への石油精製品輸出の9割削減(450万バレル→50万バレル)や北朝鮮の外貨獲得手段となっている出稼ぎ労働者の送還が柱となっているが、これまで手付かずだった原油の供給についても初めて上限が明示され、年間400万バレルとなった。

 今回の制裁決議により輸出による外貨収入はさらに2億5千万ドルも減少することになった。石油精製品輸出の9割削減でガソリンやディーゼルエンジンの燃料である軽油が不足すれば、トラックやバス、建設機械や農業機器を動かすことができない。油類の不足で運輸手段が影響を受け、民生経済への打撃は不可避である。原油供給が縮小されるようなことになればより深刻な事態となるだろう。

 金正日総書記時代に統治資金(裏金)を調達、管理する「39号室」で勤務していたことのある脱北者の李正浩・元「大興総局貿易」管理局局長は亡命先の米国で「北朝鮮経済全般に影響が及ぶことになるだろう」と制裁効果を指摘していた。

 「前例がないレベルにまで制裁を強めた」(別所国連大使)「これまでで最も強い制裁内容となっている」(ヘイリー米国連大使)と日米大使が評価する今回の国連安保理決議に対して北朝鮮からはまだ何の反応もない。

 過去の例にみると、1回目(2006年10月14日)の制裁決議では3日目、2回目(2009年6月13日)は当日、3回目(2013年1月23日)も当日に反発の声明が出されていた。また、4回目(2013年3月7日)は2日後だったが、5回目(2016年3月3日)と6回目(2016年11月30日)は翌日に声明が出されていた。

 さらに7回目(2017年6月2日)と8回目(2017円8月5日)もいずれも2日後だったが、前回9回目(2017年9月12日)は翌日には反応があった。4、5、8回目は外務省による声明ではなく、いずれも政府声明であった。

 前例からすると、安保理決議が採択されれば北朝鮮はどんなに遅くとも3日以内には何らかの見解を表明している。慣例からすれば、一両日中には声明が発表されるだろう。

 国連安保理決議は北朝鮮に決議の順守を勧告しているが、「決議は不当」との立場を取っている北朝鮮はその都度反発し、核とミサイル開発を継続してきた。

 1回目では「国連安保理は米国を庇護している。米国の動向を注視し、それに伴い該当する措置を取る」、2回目では「濃縮ウラン開発に着手する。現在保有しているプルトニウムをすべて兵器化する」、3回目は「任意の物理的対応措置を講じる」、4回目は「強力な対応措置を連続的に取る。核保有の地位と衛星発射国の地位を永久化する」と予告していた。

 また、5回目も「物理的対応を取る」、6回目も「強力な自衛的措置を講じる」、7回目も「高度で精密化され、多種化された『主体弾』(ミサイル)の爽快な雷電は世界を震撼させ、多発的に、連続的に轟くことになる」とこれまた対抗措置を仄めかしていた。

 そして、今年8月7日に出された政府声明では▲核問題を交渉に上げない▲核武力強化の道で一歩も引き下がらない▲制裁には断固たる正義の行動で対応する▲米国に代価を支払わせる▲圧殺しようとする試みを止めなければ、最終手段も辞さないと激しく反発し、また、前回(9月13日)も「米国と実質的な均衡を保つまで拍車を掛けて力を蓄える」と米国に対抗できるまで核とミサイル開発の継続を示唆していた。

 実際に北朝鮮はこれまで決議に従うどころから、予告通り、核実験やミサイル発射を強行してきた。そのことは今年あった直近3回のデーターからも明らかだ。

 北朝鮮が5月に中長距離弾道ミサイル「火星12型」と潜水艦弾道ミサイルの地上型「北極星2型」をロフテッド発射したことに関連した制裁決議(7度目)時は、外務省声明(6月4日)から4日後に地対艦巡行ミサイル「KH-35」数発発射したのに続き、7月4日、28日とICBM級ミサイル「火星14型」を立て続けにロフテッド方式で発射していた。

 また、この「火星14型」の連射による制裁決議(8度目)では政府声明(8月7日)から19日後に東部の江原道・旗対嶺からスカッドB改良型ミサイルを3発発射した後、3日後の29日に平壌市順安から中長距離ミサイル「火星12型」を発射させている。「火星12型」は日本列島を飛び越え、太平洋に着弾したが、北朝鮮のミサイルが日本列島を横断したのは2009年以来、8年ぶりのことであった。北朝鮮の反発はこれに留まらず、9月3日には6回目の核実験に踏み切っている。

 この時の核実験で採択された前回(9回目)制裁決議では外務省声明(13日)から2日後に北朝鮮は順安から再度「火星12号」発射させている。ミサイルは約19分飛行し、これまた日本列島を飛び越え、太平洋に着弾している。

 金正恩委員長は今月11日に開かれた核・ミサイルを製造する軍需工業部門大会に出席し「我が共和国を世界最強の核強国、軍事強国へとさらに前進飛躍させなければならない」とし「核武力を質量的に強化し、我々式の最先端武装装備をもっと多く作れ」と核戦力の強化に向け拍車を掛けるよう指示していた。 17日には錦繍山太陽宮殿を珍しく一人で参拝し、祖父(金日成主席)と父(金正日総書記)の遺体の前で「我が国を強大な国、自主・自立・自衛の城塞へと固めていくため、将軍様の革命戦士らしく一層強く戦っていく」と誓っていた。

 昨日(23日)閉幕した第5回労働党細胞大会では締めの演説を行い「今までやったことは始まりに過ぎない。党中央は人民のためより多くの事業を構想している。同志らを信じ、社会主義強国建設のため大胆で器の大きい作戦を果敢に展開していく」と宣言していた。

 核・ミサイル開発を自制し、人民のための経済建設に乗り出すのか、それとも、これまでのパターンを繰り返すのか、北朝鮮の声明が出れば、その答えはわかるだろう。

(参考資料:北朝鮮の「史上最高の超強硬対応措置」で米朝軍事衝突は不可避!

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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