国連安保理の9回目の制裁決議で今度こそ、北朝鮮は手を上げるか!?

頓挫した中朝共同プロジェクト「黄金坪開発」着工式

 北朝鮮は今回の国連安保理制裁で外貨獲得の有力手段である繊維製品の輸出が全面禁止された。これにより既存の鉱物、水産物を合わせると北朝鮮の輸出は90%が遮断されることになった。

(参考資料:安保理の新制裁で北の輸出の80%が遮断 米国亡命の元幹部の「証言」

 北朝鮮はすでに昨年3月に採択された5回目の制裁決議「2270」で金やチタニューム、レアアースなどの輸出が禁止対象となり、また石炭、鉄、鉄鉱石も民生目的以外は原則禁止されている。さらにそれまでは主権国家の自主権として認められていた小型兵器の取引まで禁止されている。北朝鮮が武器輸出で手にしていた外貨は全体の10%に上ると推定されている。

 また、同年11月の6回目の制裁決議「2321」では銀、銅、ニッケル、亜鉛の輸出が禁止対象に指定され、石炭輸出も7億ドル(750万トン)に制限された。外貨獲得に繋がる銅像など大型造形物の輸出も併せて禁止された。

 さらに、先月採択された8回目の制裁決議「2371」では例外として認められていた石炭、鉄・鉄鉱石(2億5千万ドル)、鉛・鉛鉱石(1億ドル)の輸出も全面禁止となり、頼みの綱の海産物(3億ドル)の輸出も禁止された。合計で年間約10億5千万ドルの収入減となった。減収額は全輸出額の3分の1を占める。

 そして、今回(9回目)の制裁決議「2375」で石炭に次ぐ第二の輸出産業である繊維製品にも歯止めがかかった。年間7億5千万ドルの収入減である。これに新規出稼ぎ労働者の雇用禁止で、さらに2億ドルの収入減となる。トータルで約10億ドルの減少だ。この結果、北朝鮮の輸出額はついに10億ドルを切ることになる。

(参考資料:過去と現在の北朝鮮の10大貿易国―過去は日本が2位

 輸出の規制だけでなく、加えて、今回の決議でガソリンや軽油など石油精製品供給が200万バレルに制限されたことで、深刻なエネルギー難が予想される。

 原油が現状維持(中国から50万トン、ロシアから4万トン)されたことで原油を精製すれば、それほど大きな影響はないとの見方もあるが、軽油にして25万トン、ガソリンにして23万~25万トンに及ぶ石油精製品の半減は北朝鮮にとって痛手であることには変わりはない。

 ガソリンやディーゼルエンジンの燃料である軽油が不足すれば、トラックやバス、建設機械や農業機器を動かすことができない。油類の不足で運輸手段が影響を受け、民生経済への打撃は不可避である。軽油やガソリンなどは官と軍に優先的に供給されてきたので幹部らの間でも不満がくすぶるだろう。今後挑発を続ければ、さらに石油精製品の供給が減少するだけでなく、原油の供給縮小という事態が予想される。

 今回の制裁決議で個人1人(朴英植人民武力相)と3つの団体(党軍事委員会、党組織指導部、党宣伝先導部)が制裁対象にリストされたことで、これで制裁対象に指定された個人は63人、団体は53に膨れ上がった。それでも、その数はイラクとは比較にならない。

 サダム政権下のイラクに対しては7度にわたる制裁が科せられたが、制裁委員会が作成したブラックリストにはフセイン大統領を含め89人の個人と205の組織、団体がリストアップされていた。

 制裁対象の数が増えたとしても北朝鮮には痛手にはならないだろ。制裁対象者らはいずれも海外に資産もなければ、国外に出ることもない。特に核やミサイル関連の化学・技術者らは米韓情報機関による拉致や亡命を恐れているので北朝鮮が国外に出すことはない。また、制裁対象になった貿易会社など組織、団体については看板や名義を変更するか、新しい会社を作るか、あるいはダミー会社を使えば、関連業務はいくらでも継続できる。

 今回、金正恩委員長と党宣伝先導部の副部長である妹の予正氏が制裁対象から外されたのは、北朝鮮との交渉の余地を残すための措置とみられる。金委員長らの海外渡航を禁止すれば、中朝・露朝首脳交流はおろか、再開が期待されている6か国協議や、ニューヨークでの米朝接触に差し障りがあることから除外扱いにせざるを得なかったようだ。

 北朝鮮の海外労働者はすでにポーランド、カタール、クウェート、マルタなどでビザ発給が中断され、北朝鮮の唯一航空会社である「高麗航空」は台湾、クウェート、パキスタン、マレーシアなどへの乗り入れが禁止され、現在はロシアと中国のみとなった。

 また、便宜的に海外の船会社に登録されていた北朝鮮の船舶のうち96隻が登録を取り消され、船舶運用が困難となっている。

 北朝鮮との高位級交流や協力事業、公館開設を取り止めた外国及び国際機構は70以上に及んでいる。中南米ではメキシコに続き、ペルーも北朝鮮の大使を国外追放する措置を取ったが、今後北朝鮮との外交関係を縮小する国が続出するだろう。というのも、米下院が国連制裁を履行しない国に対しては世界銀行による低金利による借款供与を禁止する法案を検討中にあるからだ。

 米国は世界銀行の最大株主である。低金利による借款供与の対象は一人当たり所得が1,215ドル(2016年基準)未満の国である。ウガンダ、タンザニア、シリア、イエメン、カンボジア、ミャンマなど77か国が対象となっている。米国が締め付ければ、北朝鮮との絶交を宣言する国が出てくるだろう。

 北朝鮮がモデルにしているパキスタンは長期わたる制裁に耐え、最終的に米国などに核保有を認めさせることに成功した。

 「悪い前例」としているリビアは海外財産の凍結と原油生産及び輸送関連装置の禁輸措置に耐え切れず、制裁から10年目の2003年11月に核計画を断念し、事実上、手をあげた。

 北朝鮮に対する制裁は2006年10月の1回目の制裁決議「1718」から11年が経過した。米国主導による国際包囲網に北朝鮮はどこまで持ち堪えられるだろうか?

(参考資料:北朝鮮を制裁で海上封鎖した場合のシナリオ

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て、フリー。1982年 朝鮮半島問題専門誌「コリア・レポート」創刊。1986年 テレビ、ラジオで評論活動開始。98年 ラジオ短波「アジアニュース」パーソナリティー 。2003年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会会員、日本ペンクラブ会員。著書に「在日の涙 間違いだらけの日韓関係」(飛鳥新社)「世界が一目置く日本人、残念な日本人」(三笠書房)「大統領を殺す国 韓国」(角川)「金正恩の北朝鮮と日本」(小学館)「北朝鮮100の新常識」(マサダ)「韓国人と上手につきあう法」(ジャパンミックス)など20数冊

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