ウクライナは「米朝の代理戦」 米国のウクライナ軍事支援を口実に北朝鮮の対露ミサイル供与も本格化!?
米国務省スポークマンが射程300kmの戦術誘導ミサイル「ATACMS」をバイデン政権がウクライナに供与していた事実を明らかにしたことについて北朝鮮が昨日(28日)、これを非難する国防省の談話を出していた。
米国務省の談話ならば、北朝鮮の外務省が対応するのが筋である。
実際に北朝鮮は2022年4月11日には当時外相だった李善権(リ・ソングォン)氏が国連人権理事会で米国が主導してロシアの資格を停止したことについて「国連は米国が気に入らない国々にむやみに政治圧力を加えて威嚇する手段に二度と盗用されてはならない」とする談話を出していた。
昨年も北朝鮮は1月、10月、11月と3回、ウクライナ紛争関連で談話を出しているが、1月は権正根(クォン・ジョングン)米国担当局長の名で対露武器取引を否定し、10月は任天一(イム・チョンイル)外務次官の名で露朝軍事協力を「国連制裁決議違反」と批判した米国に反論し、11月は外務省スポークスマンの名でブリンケン米国務長官が露朝接近に懸念を表したことについて「根拠のない懸念である」と、批判する談話を出していた。
また、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の代理人でもある妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長も昨年1月に「ウクライナに地上攻撃用戦闘装備を送り込むことで戦況をエスカレートさせている」と米国を批判する談話を発表していた。さらに申紅哲(シン・ホンチョル)駐露大使も10月21日には米国のウクライナへの「ATACMS」供与の動きを批判する談話を出していた。その他にも、北朝鮮は国際問題評論家の名で米国の対ウクライナ軍事支援を度々批判していた。
今回は国防省がそれも、スポークスマン談話ではなく、軍事対外事業局長による談話を出したことに注目せざるを得ない。軍事対外事業局の談話は「ロシアには武器を供給してもいなし、そうした計画もない」と対露武器供与を全面否定した2022年11月7日の談話以来であるからだ。それも前回は副局長の談話だったが、今回は局長談話であった。
国連安保理の制裁対象になることから実名公表を避けていたが、軍事対外事業局長は談話で「米国が提供する長距離ミサイルは戦場の形勢を絶対に変えることができない」として、「世界がウクライナの戦場でワシントンの敗北を目撃するのは時間の問題である」と述べていた。露朝武器取引を否定した前回の副局長の談話とは異なり、今回は米国のミサイル供与非難に徹していた。
軍事対外事業局は外国への武器輸出入を手掛けている部署である。こうしたことからどうやらこの談話はこれを口実にロシアへのミサイル供給を本格的に行うことを北朝鮮が米国に向け暗に知らしめたのではないかと推測される。
供与する側の北朝鮮も受け取る側のロシアも武器取引を否定しているが、崔善姫(チェ・ソンヒ)外相が今年1月14日に訪露した際に党軍需工業部長の趙春龍(チョ・チュンリョン)政治局員が同行していた。
政治局員候補の崔外相よりも格上の趙部長は直前、金総書記の軍需工場視察(1月4日,8日、9日)のすべてに同行していた。ちなみに8日と9日の視察は新型戦術誘導ミサイル及び移動式発射台生産工場だった。
先月(3月)と今月(4月)、金総書記立ち会いの下、事実上弾道ミサイルに等しい600mm超大型ロケット砲(射程距離350km)の試射や240mm誘導ロケット砲(射程距離60~65km)の検収試験射撃にも趙部長は姿を現していた。
今回の国防省軍事対外事業局長による談話はプーチン大統領の訪朝を控え、米国のウクライナへの「ATACMS」供与を口実に北朝鮮が対抗措置としてロシアへの武器供与を本格的に行う布石とみて間違いない。