Yahoo!ニュース

早まった桜の開花予報と満開にならない懸念

饒村曜気象予報士
東京都 桜(写真:アフロ)

春一番と顕著な暖冬

 天皇誕生日を含む三連休の初日、2月22日(土)は、日本海中部の低気圧が発達しながら北日本を通過し、この低気圧に伴う前線が北海道を通過する見込みです(図1)。

図1 予想天気図(2月22日9時の予想)
図1 予想天気図(2月22日9時の予想)

 このため、沖縄を除いて、ほぼ全国的に南寄りの強い風が吹いて雨のところが多くなる見込みです(図2)。

図2 雨と風の分布予報(2月22日9時の予想)
図2 雨と風の分布予報(2月22日9時の予想)

 令和2年(2020年)の立春以降、日本付近は低気圧と高気圧が交互に通過しており、日本海で低気圧が大きく発達することがなかったのですが、比較的狭い範囲で短い時間に強い南よりの風が吹いています。

 このため、2月12日に四国地方で、2月16日に北陸と東海地方で「春一番」が観測されていますが、2月22日(土)も、近畿地方などで春一番が観測されるかもしれません。

【追記(2月22日17時)】

 九州北部地方では2月21日夜遅くから22日にかけて、関東地方では22日に春一番を観測しました。

 この低気圧は、その後23日の天皇誕生日(日)にかけて、さらに発達しながらオホーツク海に進み、北日本は西高東低の冬型の気圧配置となって寒気が南下してきますが、一時的です。

 北日本と東日本は2月6日頃の寒波が寒さのピークになりそうです(図3)。

図3 東京の最高気温と最低気温(2月22~28日は気象庁、2月29日~3月8日はウェザーマップの予報)
図3 東京の最高気温と最低気温(2月22~28日は気象庁、2月29日~3月8日はウェザーマップの予報)

 また、西日本は2月17日頃の寒波が寒さのピークになりそうです(図4)。

図4 福岡の最高気温と最低気温(2月22~28日は気象庁、2月29日~3月8日はウェザーマップの予報)
図4 福岡の最高気温と最低気温(2月22~28日は気象庁、2月29日~3月8日はウェザーマップの予報)

 いずれにしても、今冬は、全国的に暖冬、それも西日本では記録的な暖冬になりそうです。

さくらの季節

 沖縄・奄美地方では、さくらというとヒカンサクラです。

 沖縄県那覇では、1月6日に開花し、2月3日に満開となっていますし、鹿児島県名瀬では、1月23日に開花し、2月7日に満開となっています。

 なお、石垣島、南大東島、宮古島は開花していますが、まだ満開にはなっていません。

 気象庁では、植物の開花・満開については、特定の木を標本木として定め、次のように定義を決めています。

開花:標本木で5〜6輪以上の花が開いた状態

満開:標本木で80パーセント以上のつぼみが開いた状態

 つまり、ヒカンサクラの標本木のつぼみのうち、那覇と名瀬では80パーセント以上が開きましたが、石垣島、南大東島、宮古島ではまだ80%は開いていない状況です。

 沖縄・奄美地方では、すでにさくらの季節に入っており、それも後半戦です。

 冬の終わり、沖縄のさくらが後半戦に入るころには、沖縄・奄美地方以外のさくらの開花がいつかということが話題になります。

 話題となる主なさくらの種類は、北海道の一部で「エゾヤマザクラ」以外は、「ソメイヨシノ」という種類のさくらです。

 世間の関心が高いことから、民間気象会社の中には、さくらの開花や満開の情報を発表するところが少なくありません。

 図5は、ウェザーマップが木曜日ごとに発表している予報ですが、各社とも例年よりさくらの開花が早いという予報になっています。

図5 さくら開花前線(2月20日にウェザーマップ発表)
図5 さくら開花前線(2月20日にウェザーマップ発表)

 それも、記録的に早いという予報になっています。

 ウェザーマップの予報では、奄美・沖縄地方を除くと、さくらの開花が一番早いのは横浜で、3月14日です。

 横浜で観測史上最も早い開花は、平成14年(2002年)の3月15日ですので、予報通りに開花したとすると、早い開花の記録更新です(表)。

表 令和2年のさくらの開花予想日(2月20日にウェザーマップが発表)
表 令和2年のさくらの開花予想日(2月20日にウェザーマップが発表)

 次に早いのは東京と福岡の3月15日ですので、トップ争いは、横浜、東京、福岡の三つ巴といえそうです。

 これは、記録的な暖冬によるものですが、過度の暖冬では、かえって開花が遅れます。

早い開花には寒さが必要

 桜の花芽が作られるのは前年の秋ですが、生長を止める物質の作用によって休眠の状態になっています。

 この休眠状態は、冬の寒さに一定期間さらされることによって終わります。

 これは、休眠打破と呼ばれる現象で、その後は気温の上昇とともに花芽が急速に成長して開花します(図6)。

図6 気温の日別平年値と桜の開花までの流れ(熊本の場合)
図6 気温の日別平年値と桜の開花までの流れ(熊本の場合)

 逆に、冬の寒さに一定期間さらされないと休眠打破がおきず、春になって気温が上昇しても花芽は急速には成長しません。

 今年のさくらの開花は、寒の戻り以外は気温がかなり高い状態が続くという記録的な暖冬と、早春3月も晴れて気温が高い日が多いことから、平年より大幅に早い開花になりそうです(図7)。

図7 東京の16日先までの天気予報(2月21日発表)
図7 東京の16日先までの天気予報(2月21日発表)

 しかし、九州南部や四国、静岡など温暖な地域では休眠打破は鈍いことから、記録的な暖冬といっても、ほぼ平年並みの開花となりそうです。

暖かさは満開にも影響

 気温や雨、風によって異なりますが、一般的には、さくらの開花から1週間から10日くらいで「八分咲き」、つまり満開となります。

 そして、北の寒い地方では短く、南の暖かい地方ほど長くなる傾向があります。

 「八分咲き」を満開としているのは、最初に開花した花びらが散り始めることや、さくらが一番きれいに見える状態が「八分咲き」であることによるとされています。

 さくらの木は大きな木ですので、木が生きていれば、必ずといっていいほど5〜6輪以上の花が開いた状態になります。このため、さくらの開花は毎年あります。

 しかし、満開は、80パーセント以上のつぼみが開いた状態ですので、平成31年(2019年)の宮古島のように、暖かい年は、満開に達しないことがあります。

 休眠打破という加速がない地方では、早めに開花したものが散っても、まだつぼみの状態の芽が残っていて、なかなか80パーセントには至らず、そのうちにさくらの季節が終わってしまうからです(図8)。

図8 満開なしの説明図
図8 満開なしの説明図

 平成31年(2019年)の宮古島ではヒカンサクラの満開なしですが、過去にはソメイヨシノでも満開なしがありました。

 平成20年(2008年)以降、無人となった種子島測候所ですが、それまではソメイヨシノの開花・満開を観測していました。

 平成14年(2002年)は、3月27日にソメイヨシノの開花を観測したのですが、満開は観測できませんでした。

 また、平成22年(2010年)以降、無人となった八丈島測候所ですが、それまではソメイヨシノの開花・満開を観測していました。

 平成19年(2007年)は、4月13日にソメイヨシノの開花を観測したのですが、満開は観測できませんでした。

 ソメイヨシノの南限とされているのは、種子島や八丈島とされていますので、温暖化が進めば、満開がなかっただけではなく、ソメイヨシノ自体が育たなくなるかもしれません。

 南西諸島や八丈島以外で、満開とならなかった例は、いまのところないのですが、疑惑と言われたことがあります。

 それは、平成28年(2016年)の大分です。

 この年、大分では3月28日に開花し、4月8日に満開となったのですが、地元紙には次のような記事が載っています。

 大分地方気象台、ずれた桜「満開」宣言

 散り始めたのに、今ごろ「満開宣言」?-。大分地方気象台(大分市長浜町)は8日、敷地内にある標本木(ソメイヨシノ)が満開になったと発表した。平年より5日遅い。気象台周辺の桜は、6日夜からの雨や風で落花が進みつつあり、ややタイミングがずれた満開宣言となった。…。

 ただ、6日夜からの雨や風の影響で、見た目は花が散った部分も目立つ。「確かに風などで一部散った感じもある」と気象台。花が咲き誇るという一般的な満開のイメージとは異なるが、どうして今ごろ満開宣言なのか。

 「8割咲いた状態というのは、落花した分も含めている」(気象台)ためだ。つまり、満開目前の状態で荒れた天気になってしまい、満開宣言を出せないまま一定量の花が散ってしまった。ようやく8日になって累計で8割咲いたのが確認できたという。

出典:大分合同新聞(平成28年(2016年)4月8日夕刊)

 開花したさくらの花びらの割合が、満開の定義である8割をギリギリ超える所までしかいかなかったので、このような記事になったと思われますが、地球温暖化が進んでくると、このような事例は増えてくると思われます。

 地球温暖化が進むと、一斉にさくらが咲くことはなくなり(満開がなくなり)、花見の雰囲気が変わるかもしれません。

図1、図6の出典:気象庁ホームページ。

図2、図5、図7の出典:ウェザーマップ提供。

図3、図4、表の出典:気象庁資料とウェザーマップ資料をもとに著者作成。

図8の出典:ウェザーマップ資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

饒村曜の最近の記事