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寒さを経ての一斉開花 今年さくらの満開がない地方

饒村曜気象予報士
東京都杉並区・善福寺川のさくら(4月5日に著者撮影)

北日本でもさくら開花

 日本海の低気圧に向かって暖気がながれこみ、晴れて気温が上昇したことから、各地でさくらの開花や満開の情報が発表になっています。

 4月5日には、新潟に加え、仙台と福島でも開花と、さくら開花前線は東北南部から北陸地方に達しました(図1)。

図1 さくら開花前線(4月4日ウェザーマップ発表)
図1 さくら開花前線(4月4日ウェザーマップ発表)

 今年のさくらは、記録的に早かった昨年に比べれば遅いのですが、平年に比べれば早い地域が多くなっています。

 都心周辺など、3月のうちに満開になった地域では散る花も出始めていますが、寒の戻りの影響で見頃の期間は少し長くなっています。

 平成最後の花見も後半戦です。

 そして、東北北部や北海道の令和最初の花見ももうすぐです。

開花から満開まで

 今年の冬は、日本付近に寒気が流れ込みにくい状態が続き、西日本を中心に暖冬となりました。

 さくらは、冬の寒さを経験すると、その後にきた暖かさによって開花が加速します。

 休眠打破と呼ばれる現象です。

 暖かい日が続いた地方は、さくらの開花が早まるのですが、冬の寒さの後に暖かくなった地方の休眠打破による加速に負けることがあります。

 例えば、鹿児島では、3月25日に開花しましたが、2週間たっても満開になっていません。満開予想日は4月9日です(図2)。

図2 鹿児島の見頃予報(ウェザーマップ4月4日発表)
図2 鹿児島の見頃予報(ウェザーマップ4月4日発表)

 各地のさくらの開花から満開までの期間をみると、北の寒い地方では短く、南の暖かい地方ほど長くなる傾向があります(表)。

表 平成31年(2019年)のさくらの開花から満開までの日数
表 平成31年(2019年)のさくらの開花から満開までの日数

 それどころか、今年、平成31年(2019年)は、沖縄県宮古島では、さくらの満開がありませんでした。

さくらの満開

 さくらの開花は、観測対象の木(標本木)で5〜6輪以上の花が開いた状態、さくらの満開は、標本木で80パーセント以上のつぼみが開いた状態をいいます。

 さくらの木は大きな木ですので、木が生きていれば、必ずといっていいほど5〜6輪以上の花が開いた状態になります。このため、さくらの開花はあります。

 しかし、満開は、80パーセント以上のつぼみが開いた状態ですので、今年の宮古島のように、暖かい年は、満開に達しないことがあります。

 休眠打破という加速がない地方では、早めに開花したものが散っても、まだつぼみの状態の芽が残っていて、なかなか80パーセントには至らず、そのうちにさくらの季節が終わってしまうからです(図3)。

図3 さくらの満開がない場合の説明図
図3 さくらの満開がない場合の説明図

 沖縄・奄美地方の開花・満開予想でいうさくらは、ヒカンサクラです。

 多くの地方でいう開花・満開予想でいうさくらは、ソメイヨシノです。

 さくらの種類が違いますが、傾向は同じです。

 平成20年(2008年)以降、無人となった種子島測候所ですが、それまではソメイヨシノの開花・満開を観測していました。

 平成14年(2002年)は、3月27日にソメイヨシノの開花を観測したのですが、満開は観測できませんでした。

 また、平成22年(2010年)以降、無人となった八丈島測候所ですが、それまではソメイヨシノの開花・満開を観測していました。

 平成19年(2007年)は、4月13日にソメイヨシノの開花を観測したのですが、満開は観測できませんでした。

 ソメイヨシノの南限とされているのは、種子島や八丈島とされていますので、温暖化が進めば、満開がなかっただけではなく、ソメイヨシノ自体が育たなくなるかもしれません。

疑惑と言われた満開

 南西諸島や八丈島以外で、満開とならなかった例は、いまのところないのですが、疑惑と言われたことがあります。

 それは、平成28年(2016年)の大分です。

 この年、大分では3月28日に開花し、4月8日に満開となったのですが、地元紙には次のような記事が載っています。

大分地方気象台、ずれた桜「満開」宣言

 散り始めたのに、今ごろ「満開宣言」?-。大分地方気象台(大分市長浜町)は8日、敷地内にある標本木(ソメイヨシノ)が満開になったと発表した。平年より5日遅い。気象台周辺の桜は、6日夜からの雨や風で落花が進みつつあり、ややタイミングがずれた満開宣言となった。…。

 ただ、6日夜からの雨や風の影響で、見た目は花が散った部分も目立つ。「確かに風などで一部散った感じもある」と気象台。花が咲き誇るという一般的な満開のイメージとは異なるが、どうして今ごろ満開宣言なのか。

 「8割咲いた状態というのは、落花した分も含めている」(気象台)ためだ。つまり、満開目前の状態で荒れた天気になってしまい、満開宣言を出せないまま一定量の花が散ってしまった。ようやく8日になって累計で8割咲いたのが確認できたという。

出典:大分合同新聞(平成28年(2016年)4月8日夕刊)

 開花したさくらの花びらの割合が、満開の定義である8割をギリギリ超える所までしかゆかなかったので、このような記事なったと思われますが、地球温暖化が進んでくると、このような事例は増えてくると思われます。

北国の春

 冬の寒さを経験したさくらは、休眠打破によって、暖かくなると一斉に花を開きます。

 毎年のように東京都杉並区の善福寺川に花見にいっているのですが、今年のさくらは、例年に比べて満開感が少なかったように思いました(タイトル画像参照)。

 花びらが舞い散っている一方、まだつぼみの状態もあるというように感じられたからです。これも、暖冬の影響かもしれませんが、東京の標準木である靖国神社のさくらが、開花から満開までの期間が短く、休眠打破による加速があったのではないかという話とは多少違います。

 東京の冬が平年並みで、休眠打破が中途半端であったのかもしれません。

 札幌の開花は、令和元年(2019年)5月1日の予想ですが、満開までの期間は、寒さに十分さらされていますので短く、4日後の5月5日です(図4)。

図4 札幌の見頃予報(ウェザーマップ4月4日発表)
図4 札幌の見頃予報(ウェザーマップ4月4日発表)

 寒さに耐えたさくらが、一斉に咲きますので、暖かい地方のさくらに比べて、満開感の強い花見となります。

 さくらだけでなく、いろいろな花がほぼ同時期に咲くというのが北国の春の特徴です。

 何事も、寒さを経ての一斉開花なのかもしれません。

タイトル画像の出典:著者撮影。

図1、図2、図4の出典:ウェザーマップ提供。

図3の出典:ウェザーマップ資料をもとに著者作成。

表の出典:気象庁資料とウェザーマップ資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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