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関東地方でようやく春一番、でもすでに春

饒村曜気象予報士
春一番(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

関東地方で春一番

 気象庁天気相談所では、3月9日17時に、関東地方で春一番が吹いたと発表しました。

 3月9日15時の天気図で日本海北部に低気圧が解析され、東京では15時51分に最大風速8.3メートルを観測し、最高気温も前日より4.4度高い16.9度になったためです(表1、図1)。

表1 関東地方の平成31年3月9日の風
表1 関東地方の平成31年3月9日の風
図1 地上天気図(3月9日15時)
図1 地上天気図(3月9日15時)

 日本海に低気圧といっても、大陸に近い場所での低気圧ですし、この低気圧に向かって強い南風が吹いたというより、移動性高気圧の縁辺部をまわるように強い南風が吹いた感じの「春一番」です。

 教科書に載っているような典型的な春一番の天気図ではありませんが、ようやく関東地方でも春一番が吹きました。

 昨年、平成30年(2018年)の3月1日より8日遅いことになります。

 ただ、今年、平成31年(2019年)から春一番の定義が変わっています。定義が変わっていますが、古い発表基準でも春一番でした。

 平成31年(2019年)の春一番の発表基準(気象庁天気相談所の「お知らせ(3月9日)」より)

 関東地方における「春一番」は、下記事項を基本として総合的に判断して発表しています。

1 立春から春分までの間で、

2 日本海に低気圧があり、(発達すれば理想的である。)

3 関東地方における最大風速が、おおむね風力5(風速8m/s)以上の南よりの風が吹いて、昇温した場合。

 どこが変わったかというと、これまでは東京で8メートル以上の風が吹くかどうかでしたが、今年からは、関東地方でおおむね8メートル以上となっている点です。

 気象庁ホームページには、「平成30年(2018年)3月現在」として、関東地方の春一番の定義が載っています。

 これによると、定義の3項は次のようになっています。

 「関東地方に強い南風が吹き昇温する。具体的には東京において、最大風速が風力5(風速8.0メートル)以上、風向は西南西~南~東南東で、前日より気温が高い。(なお、関東の内陸で強い風の吹かない地域があっても止むを得ない) [2018年3月更新]」 

キャンディーズの「春一番」

 春は日本付近で低気圧が急速に発達します。

 冬の特徴である北からの寒気が残っているところに、夏の特徴である暖気が入るなど、条件が重なるからです。

 低気圧が日本海で急速に発達すると、低気圧に向かって暖かい湿った南風が吹き、太平洋側では暖かい湿った南風と強い雨が、日本海側では気温が上昇して雪崩や融雪洪水がおきます。

 春になって最初に吹く強い南風を「春一番」と言います。

 平成29年(2017年)2月の「春一番」のように、日本海北部ではない場合もありますが、事実上の日本海北部に低気圧がないと「春一番」にはなりません。

図2 平成29年(2017年)2月の「春一番」の時の天気図
図2 平成29年(2017年)2月の「春一番」の時の天気図

 「春一番」の語源については諸説ありますが、「長崎県壱岐郡郷ノ浦町(現・壱岐市)で安政6年(1859年)2月13日に五島近海での海難で53名が死亡したときに言われた」というのが定説になっています。

 気象関係者の間で「春一番」が使われた出したのは、昭和31年(1956年)2月7日の日本気象協会の天図日記からで、マスコミに取り上げられたのは、昭和37年(1962年)の「春一番」からです。

 しかし、「春一番」が一躍有名になったのは、昭和51年(1976年)3月にリリースされたアイドルグループ・キャンディーズの9枚目のシングル「春一番」からです

 「雪がとけて川になって流れ、風が吹いて暖かさを運んできた」とういう歌のイメージは、当初の海難を引き起こす危険なイメージの「春一番」とは別の側面ですが、「春一番」という言葉を浸透させました。

 そして、気象庁には「春一番」の問い合わせが殺到するようになり、気象庁は春一番の定義を決め、昭和26年(1951年)まで遡って春一番が吹いた日を特定し、平年値を作り、「春一番の情報」を発表せざるをえなくなっています。

 「春一番」の基準は地方により異なりますが、立春(今年は2月4日)から春分(今年は3月21日)までの間に日本海で低気圧が発達し、南寄りの風が強く吹いて気温が上昇することは目安です(表2)。

表2 地方別の春一番の発表基準
表2 地方別の春一番の発表基準

 なお、新潟県では「春一番」が吹きませんので、北陸地方の基準は、富山、石川、福井県の観測が基準となっています。

 また、北日本と沖縄は「春一番」が吹きませんので、発表基準はありません。

早く進んでいる季節

 多くの年は、立春の頃はシベリアからの高気圧の張り出しが強く、西高東低の冬型の気圧配置となって、日本海まで低気圧が入ってきません。

 しかし、今年、平成31年(2019年)は、最初に低気圧が日本海に入って発達するのが2月3日夜から4日朝にかけてでした。

 低気圧に向かって強い南風が入り、気温が上昇しても、立春の2月4日になってからであれば春一番、日付けがかわる前の3日であれば春一番にはなりません。

 このため、2月4日に「春一番」となったのは、北陸地方だけでした。

 また、2月19日の西日本は、九州北部付近あった低気圧に向かって南から強い風が吹き、九州北部と四国地方では春一番が吹きました。

 しかし、この低気圧は日本海で発達しなかったので、東日本などでは強い南風が吹かず、「春一番」にはなりませんでした。

 「春一番」にはなりませんでしたが、低気圧が日本列島を通過しながら暖気を持ち込み、加えて、低気圧に伴う雨も早めに上がり、日射が加わったことで、ほぼ全国的に気温が上昇し、特に関東地方では10度前後も平年より高くなりました。

 東京の最高気温は19.5度と桜の季節を超えて、葉桜の季節の気温となりました。

 東京では春一番は吹いていませんが、ほんの5日前の2月15日は、最高気温5.3度、最低気温0.0度という真冬の気温から一気に初夏の気温に上昇しました。

 以後、全国的に、2月後半からは気温が平年より高い日が多くなっています。

 平成最後の春は、季節が例年より早く進んでいます。

 「春一番」がすでに吹いた地方も、まだ吹いていない地方も、すでに春本番の気温となっており、今後も気温が平年より高い日が続く予報となっています(図3)。

図3 東京の3月の気温(2月10~16日は気象庁、17日以降はウェザーマップの予報)
図3 東京の3月の気温(2月10~16日は気象庁、17日以降はウェザーマップの予報)

 春本番の気温と言っても、朝晩は気温が下がって寒くなります。

 気温自体は冬の寒さに比べれば暖かいのですが、寒暖差が大きい中での寒さです。

 体調管理には、冬の寒さ以上に注意が必要な、春の寒さです。

図1、図2の出典:気象庁ホームページ。

図3の出典:気象庁資料とウェザーマップ資料をもとに著者作成。

表1の出典:気象庁ホームページをもとに著者作成。

表2の出典:気象庁資料をもとに著者作成。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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