ロシアW杯で見えた世界の潮流と、フランス、ベルギー、イングランドの共通点

(写真:ロイター/アフロ)

VAR判定のジャッジの最終決定は誰が行うのか?

 ロシアW杯を総括する時に避けては通れないのが、今大会から新たに導入された新ルール「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)」判定の是非だろう。

 W杯を主催するFIFA(国際サッカー連盟)のジャンニ・インファンティーノ会長は「VARはサッカーを変えていない。サッカーをより正直なものに、より透明性の高いものにした」と、準決勝を終えた段階でVARを高く評価。

 正しいジャッジの割合が95%から99.32%に上がったことを例に挙げて「VARの存在しないW杯を考えることは難しくなった」と語り、自身の肝いりで導入した新ルールの成功をあらためて強調している。

 確かに、スタジアムに判定用テレビカメラ35台を設置し、各試合にVAR1名、そのアシスタント3名という新たな”監視の眼”を加えたことで、誤審そのものが明らかに減少したことは間違いないだろう。

 また、その効果の例として、セットプレー時にゴール前でユニフォームを引っ張り合うような汚いプレーが減り、ネイマールに象徴されるようなシミュレーションに批判が集まるようになり、ペナルティエリア内の反則を主審が見逃すことがほぼなくなったことなどが挙げられる。その結果、試合中のPKゴール数は過去最多の22点を数えた。

 しかし、この新ルールが大会中に数々の議論を呼び、全面的にその導入に賛同する声が少ない理由は、その運用方法が明確になっていなかったからではないだろうか。

 そもそもVARの対象は、

1 ゴールにつながるプレーに明確な反則があったかどうか

2 PKかどうか

3 レッドカード相当の反則かどうか

4 退場や警告を受ける選手に誤りがないかどうか

という4項目において、主審に明確な誤審がある場合に限られていたわけだが、これについては大会を通して一貫されていた印象はある。

 しかし、これら4項目の最終的なジャッジは、あくまでもピッチ上の主審のみが下すことができるということが大前提だったはずだ。つまりモスクワのオペレーションルームでビデオチェックするVARが最終判断を下すわけではない、ということが明確化されていたのだ。

 ところが、いくつかの試合ではVARが適用されるべきと思われたシーンでも適用されなかったばかりか、時には主審がイヤホンに手をあてながらVARに確認するだけでジャッジを下したシーンがしばしば見られたことが、混乱の原因となった。

 たとえば、大会2日目のポルトガル対スペイン戦。スペインのディエゴ・コスタが同点ゴールを決めた際、シュート前にポルトガルのペペと競り合った時、ディエゴ・コスタにファールがあったのではないかというシーンがあった。その時、主審はモニターを確認せずにVARとのコミュニケーションだけでゴールを認めている。

 その場合、最終的にファールがなかったと判断したのは主審だったのか、それともビデオを見ていたVARだったのかは、2人以外にはわからないという現象が起こった。またそれにより、VARを適用すべきかどうか(=主審に明白な誤審がある)という判断が、あるプレーについては主審が最終ジャッジを下すのではなく、VARが下しているに等しいという、このルールの矛盾が露呈してしまった。

 今大会でVARを担当した13名のうち、大会に出場していないイタリアからは3名が選出されている。イタリアでは、ドイツ同様に昨シーズンから国内リーグ(セリエA)でVARが導入されているという背景もあるが、それにしてもイタリアのマッシミリアーノ・イラッティだけが重要な決勝トーナメント以降の15試合のうち、決勝を含めた6試合もVARを担当していたことも、違和感を覚えずにはいられない。

 インファンティーノ会長が言うように、一度導入したVARを次大会以降のW杯で採用しないことは考えにくい。それだけに、正しいジャッジが増加したといういい側面だけでなく、FIFAはVARの運用方法についてしっかりと検証し、より明確化していく必要はあるだろう。

 その一方で、今大会から導入されたVAR以外の2つの新ルールについては、否定的な意見は出ていない。延長戦後に交代枠をもうひとつ増やして1試合計4名にしたことと、ベンチのコーチングスタッフとスタンドのアナリスト(分析担当)が通信機器(タブレット)を使って試合中にコミュニケーションをとれるようになり、ライブトラッキングデータなどを参考にして、コーチングが可能になったことだ(別会場の試合ライブ映像も視聴可能)。

 これら2つはゲームをよりアグレッシブなものとし、特に後者についてはよりスピーディかつ正確な戦術変更や選手交代などを可能にするというメリットがある。その影響かどうかはまだはっきりしないが、少なくとも今大会では試合中にシステム変更をするチームが明らかに増えたことは間違いなかった。

 いずれにしても、すでに定着したゴールラインテクノロジーをはじめ、VARや通信機器の使用などは、テクノロジーの進化とともに今後もサッカーとは切り離せないものとなりそうだ。

 そして、最後に優勝国フランスについて触れておきたい。

 今大会は、ドイツ、アルゼンチン、スペインといった有力国が早い段階で敗退したことで、2002年日韓大会のような波乱に満ちた大会となった。これら3カ国には前回大会とほぼ同じメンバーが主力だったという共通点があるため、その観点からすれば、以前よりも世代交代を早めなければW杯で勝ち続けることは難しくなったといえるかもしれない。

 そんな中、ディディエ・デシャン監督が率いたフランスは、25.57歳という若いチームで20年ぶり通算2度目の優勝を飾った。たしかに守備的と批判されはしたが、周りに流されることなく現実的なサッカーを貫いたことが、波乱続きの大会における勝因となったともいえる。そしてそこには、なりふり構わず勝利だけを求め続けたデシャン監督の揺るぎなき信念が伺えた。

 2010年南アフリカ大会。レイモン・ドメネク監督率いるフランスは、大会中に選手が監督に反旗を翻してボイコットを起こすという事件を起こし、それに失望したフランス国民から完全にそっぽを向かれるという暗黒時代を経験した。

 そこで地の底に落ちたフランスサッカー界は、組織としても世代交代を断行。1998年W杯優勝メンバーが次世代の担い手として代表チームの改革を行なった。最初に監督に就いたのがロラン・ブランであり、2012年からバトンを受けたのがデシャン。2人は、98年当時のチームメイトたちのサポートを受けながら、自分たちが築いた黄金時代をもう一度取り戻すべく、自国開催のユーロ2016の優勝、そして2018年W杯優勝を目標に前進し続けた。

 ユーロ2016では決勝で涙を呑んだが、「あの悔しさが今回の優勝の源」と会見でデシャンが振り返ったように、フランスは国民の前でユーロ優勝を果たせなかったことをバネに、今大会はリアリズムに徹して優勝を果たすことができた。

 そしてその背景には、もともと「育成大国」と評されるフランスが、ポスト・ジダン世代の人材を築くために育成組織のバージョンアップを行ない、そこでまいた種がようやく実ったのが今大会だったという事実を見逃すことはできない。

 そういう意味では、優勝したフランスだけでなく、4強入りしたベルギーやイングランドも、育成改革の効果を示した国だったという点において、ロシアW杯は中長期的視野に立った育成の重要性をあらためて提示してくれた大会だったといえるだろう。

(集英社 Web Sportiva 7月22日掲載)

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