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ポルトガル対スペイン。GS屈指の注目カードが、スペクタクル度の高い“五つ星“の試合になった理由

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

お互いのスタイルがお互いのストロングを引き出し合った

 2018年ワールドカップ大会2日目。ロシアのリゾート地ソチで行われたポルトガル対スペインの一戦は、それこそ試合開始から終了まで、サッカーというスポーツが持つスペクタクル性を120パーセント具現化したゲームとなった。

 もし身近に「サッカーの何が面白いの?」と疑問を持つ人がいたならば、この試合を見てもらえればその答えが分かるはずだ。他に何も説明はいらない。この試合には、ありとあらゆるサッカーの魅力が詰まっていた。

 両チームが3ゴールずつを奪い合い、計6ゴールが生まれた派手な試合は、しかし決して大味な打ち合いではなかった。ゴールは大量に生まれたが、ゴールだけがサッカーの魅力ではないこともしっかりと証明したハイレベルな試合。そこが、極めて重要だった。

 できれば、準々決勝以降にとっておきたいくらいのクオリティと、濃密なゲーム内容。グループリーグの試合は名勝負として語り継がれることはほとんどないが、少なくとも自分の記憶を辿っても、なかなかお目にかかれない“五つ星“の試合。

 この日スタジアムに足を運んだ43,866人の観衆は、チケット代以上の満足感を得たに違いない。試合後のスタジアムに残された余韻が、そのことを証明しているようだった。

 試合は開始早々の4分に動いた。スペインは、故障のカルバハルに代わって先発した右サイドバックのナチョが、所属クラブのチームメイトでもあるポルトガルのエース、クリスティアーノ・ロナウドと接触。すると、イタリア人主審のジャンルカ・ロッキは迷わずPKを宣告した。

 思わず、「VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)は?」とつぶやいてしまうほどの微妙なジャッジに見えたが、この場面では今大会から導入されたビデオ判定は使用されることはなかった。

 さらに、ロナウドのPKにより1-0となってから20分後、再び疑惑の判定がゴールを生む。同点ゴールを突き刺したスペインのディエゴ・コスタのゴールも圧巻だったが、注目は、そのプレーの直前にポルトガルのDFペペと接触した場面である。

 その空中戦で、ディエゴ・コスタの肘がペペの首辺りに当たっていたように見えたが、モスクワにあるVARルームとロッキ主審の間で無線通信が行われた結果、ディエゴ・コスタのゴールはそのまま認められることとなった。これが、ワールドカップにおけるVAR判定第一号になったわけだ。

 ちなみに、この試合のVARはイタリア人のマッシミリアーノ・イラッティが担当。今大会のVAR担当は13名いるが、その内訳はヨーロッパ連盟所属9名、南米連盟所属3名、アジア連盟所属1名となっていて、その中でもイタリア人が最大となる3名もいる(その他複数名はドイツ人とポルトガル人の2名のみ)。

 当該国のレフェリーやVARはその試合を担当できない規定があるため、決勝トーナメントが進めば進むほど、今大会不出場のイタリア人の審判団の活躍の場が増えるはず。そういう点では、今大会はイタリア人が勝敗のカギを握っていると言ってもいい。

 いずれにしても、両チームが記録した1点目は、試合がドローで終らなかったら議論を呼んでいたに違いない。しかしその一方で、イタリア人主審の判定が、この試合がスペクタクルな展開になるきっかけを与えてくれたことも事実だった。

 前半からゲームの主導権を握っていたのは、開幕24時間前にロペテギ監督の電撃解任とイエロ監督の緊急就任が発表されるという異例の事態の中でピッチに立ったスペインだった。基本システムは4-3-3ながら、左ウイングのイスコが自由に動き回り、イスコを中心にして得意のポゼッションサッカーでポルトガルを圧倒。特にイニエスタ、ジョルディ・アルバとのコンビネーションで、ポルトガルの右サイドから何度も好機を作った。

 対するポルトガルは、ロナウドとグェデスを2トップに配置した4-4-2。スペインのクオリティによって自陣に押し込まれてしまう分、鋭いカウンターアタックで何度かチャンスを構築した。

 ポゼッションのスペインと、カウンターのポルトガルという、実に対照的な色合いのサッカーがお互いのストロングを引き出す展開になったことも、この試合がこう着状態に陥らなかった理由のひとつだった。

 前半終了間際にロナウドが放った左足シュートを後逸してしまったGKデ・ヘアのミスもあり、2-1で後半を迎えたこの試合は、しかし前半のボルテージが低下することはなかった。後半開始早々、スペインがあっという間に試合をひっくり返したからだ。

 同点弾を決めたのはディエゴ・コスタで、逆転弾を決めたのはナチョ。特に立ち上がり早々にPKを与えてしまったナチョが、目が覚めるようなスーパーゴールを突き刺した時のスタジアムの熱狂度は、すさまじいものがあった。

 しかし、2年前のユーロで複数のシステムを駆使しながら頂点に導いたフェルナンド・サントス監督が、逆転された後に素早く反応する。68分、左MFのブルーノ・フェルナンデスを下げてジョアン・マリオをトップ下に投入し、1トップにロナウドを配置する4-2-3-1に変更する。さらにその1分後、グェデスに代えてクアレスマを投入し、再びシステムを4-4-2に変更。一気に2枚代えしないあたりがフェルナンド・サントスらしい采配だった。

 この選手交代がどこまで奏功したかは分からないが、少なくとも逆転されたポルトガルはそのまま引き下がることはなかった。そして試合終了間際の88分、ロナウドがゴールほぼ正面からのフリーキックを直接決めて、試合をふりだしに戻すことに成功する。

 あの場面であのシュートを決めて、ハットトリックを達成してしまうとは。マンオブザマッチは当然ロナウドが受賞したが、彼が持つ特別な才能がこの試合のスペクタクル度を高めたことは間違いない。

 主審の判定、戦術を含めたお互いのスタイル、ベンチワーク、個々のクオリティ。そして、試合開始早々と終了間際にゴールが生まれたことも、この試合をよりエキサイティングなものにした。ありとあらゆる要素が重なり合って、めったにお目にかかれない“五つ星“の試合が実現した。これでお腹がいっぱいにならない人はいないだろう。

 スペインとポルトガル。両国を比べた場合、戦前の予想でもブックメーカーの優勝予想オッズでも、圧倒的にスペインが上回っている。しかし、ポルトガルは現ヨーロッパチャンピオンチームで、最新のFIFAランキングでも10位のスペインをはるかに上回り、4位に位置する本物の強豪だ。

 このスペイン戦を終え、ポルトガルが実力的にダークホースの域ではないことがはっきりとした。ロナウドがこのままトップフォームを維持すれば、少なくとも監督のベンチワークに不安を残すスペイン以上に優勝に近い存在だと言っていいだろう。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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