Yahoo!ニュース

“勝利の方程式”でアルゼンチン戦に挑むフランスは、その効果を示せるか?

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

ワールドカップとユーロで優勝した時と今大会の相違点

「我々は4日後に試合(決勝トーナメント1回戦)を控えているので、今日はここまでの2試合でプレーした選手を何人か休ませた。それによって、イエローカードをもらっている3人を使わずに済んだので、次の試合に向けて可能な限りのオプションを手にすることもできた。これは、このタイミングでしかできないことだからね」

 グループC最終節、デンマーク対フランス。2試合で勝ち点6ポイントを獲得し、すでにグループリーグ突破を決めていたフランスの指揮官ディディエ・デシャンは、スコアレスドローに終わったその試合後の会見で、満足気な表情でそう語った。

 優勝候補フランスにとって、グループリーグ3試合はほぼ思惑通りの結果を手にすることができた。しかも、3戦目の相手は引き分け以上で2位通過が決定するデンマークとあれば、“余計なこと”さえしなければお互い勝ち点1ポイントを分け合って、ウィンウィンの関係でグループステージを終えることができる。

 たとえスタンドからブーイングを浴びようとも、両チームが無理してバランスを崩すような真似をしなかったのも、当然と言えば当然。むしろデシャンがこの試合で重要視していたのは、結果よりも冒頭のコメントにあるように、主力を休ませて長丁場の決勝トーナメントに向けて万全の態勢を整えることにあった。

 1998年W杯フランス大会。ホスト国として臨んだフランスが、W杯初優勝を成し遂げた時がそうだった。

 初戦の南アフリカ戦と2戦目のサウジアラビア戦をともに白星で飾ったフランスは、第3戦のデンマーク戦で、ターンオーバーを採用した。主力組のジダン、リザラズ、ブラン、テュラム、アンリ、デュガリー、そして当時キャプテンを務めていたデシャンもベンチに座り、ほぼ控えのメンバーだけで勝利を飾っている。

 初めて本大会の出場枠が「32」に拡大され(1994年大会までは「24」枠)、試合数が増加したその大会でフランスが採用した3戦目のターンオーバーは、その後、優勝を狙うチームの勝利の方程式と言われるようになり、常套手段となった。

 それは、フランスが通算2度目の優勝を果たした2000年のユーロでも実行された。

 出場枠こそW杯より少ない「16」ではあるが、グループリーグで2連勝を果たしたフランスは、3戦目のオランダ戦でターンオーバー。結果は敗戦に終わったものの、その効果は決勝トーナメントで発揮され、優勝を果たすことに成功している。

 現役時代にそんな成功体験を持つデシャンとしては、今大会でも勝利の方程式を完成させることに成功し、最高のかたちでグループリーグを終えたというわけだ。

 とはいえ、優勝を果たした当時と今大会のチームで異なっているのは、グループリーグの最初の2試合におけるパフォーマンスである。

 ほぼパーフェクトな内容で2連勝した当時と比べ、今大会のフランスのパフォーマンスは極めて低調だ。初戦のオーストラリア戦は、VAR(ビデオ判定)によって手にした勝ち点3であり、続くペルー戦も1-0というギリギリの勝利だった。

 現在のフランスの最大の武器は、中盤から前線に有り余るほどのタレントを擁し、どこからでも得点できるバリエーション豊富な攻撃力にある。とりわけエムバッペ、デンベレといった若いタレントのスピードとテクニックは相手の脅威となり、カウンター時の爆発力は出場32ヵ国の中でもトップレベルにある。

 しかし、弱点と見られている両サイドバックの駒に問題を抱え、それが原因となってアタックが機能不全に陥っているのが現状だ。攻めてくる相手にはカウンターを使えるが、引いて守る相手を崩す場合は、どうしてもサイドバックのパフォーマンスがカギとなるからだ。オーストラリア戦、ペルー戦と、それは顕著に表れた。

 もちろん、本来レギュラーと目されていた右SBシディベと左SBメンディが、故障が完全に癒えないまま本番を迎えたことも大きく影響している。そういう点では、右のシディベがこのデンマーク戦で及第点のプレーをしたことは、デシャンにとって大きな収穫となったに違いない。

 さて、勝利の方程式を完成させたフランスがラウンド16で対戦するのは、地獄の底から這い上がってきた南米の強豪アルゼンチンとなった。肉体的にも精神的にも疲労困憊でその試合を迎えるアルゼンチンに対して、フランスは余裕を持って戦えるというメリットがあるのは確実だ。

 しかしながら、グループリーグ3試合で低調なまま首位通過を果たしたフランスが、急に本来の姿を取り戻せるのかどうかについては、まだ見えない部分が多すぎる。

「可能な限りのオプション」を手にしたデシャンは、果たしてアルゼンチンに対してベストなチョイスを見出すことができるのか。勝利の方程式は、まだ生きているのか。

 注目のビッグマッチは、6月30日に火蓋が切って落とされる。

≪2018ワールドカップ関連記事一覧≫

【ポルトガル対スペイン】 スペクタクル度の高い“五つ星“の試合になった理由

【ドイツ対メキシコ】 前回大会王者ドイツの前に立ちはだかる悪いジンクスとは?

【コロンビア対日本】 グループ突破のためにもコロンビア戦の勝利の中で見えた問題を直視すべき

【日本代表】 コロンビア戦勝利は安全運転の賜物。セネガル戦に必要な「修正力」とは?

【日本対セネガル】 結果に脱帽。セネガルを迷宮入りさせたスローテンポとローインテンシティ

【この記事は、Yahoo!ニュース個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを一部負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

中山淳の最近の記事