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グループ突破のためにもコロンビア戦の勝利の中で見えた問題を直視すべき

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

西野ジャパンの課題と出場選手の採点&寸評

 サッカーは何が起こるか分からない。波乱が続く今回のワールドカップで、日本が属するグループHでもそれは続いた。

 勝負の分かれ目は、試合開始3分だった。香川のシュートに対してカルロス・サンチェスがハンドを犯し、レフェリーがPKとレッドカードを提示。そのPKのチャンスを香川が決めると、日本は1点をリードし、残り85分を1人多い状況で戦うことになったのである。

 グループ最強と目されていたコロンビアと対峙する日本にとって、これほど恵まれたストーリーはない。まさに“神風が吹いた”と言っていいだろう。この試合の勝因をひとつ挙げるとすれば、やはりこの開始3分のシーンに集約される。

 最終的に大迫の決勝ゴールで日本が勝利を収めたので、本来ならばすべてOKとしたいところではある。しかし、グループリーグ突破までにはまだ2試合が残されているので、ここでは敢えてこの試合で見えた問題点にも触れておきたい。それは、相手が10人になって以降の日本の戦い方の中で見えた、チーム戦術の部分だ。

 まず、退場者を出した後、コロンビアは布陣を4-4-1に変更した。しかし4-2-3-1で戦う日本は、10人のコロンビアと互角、いや、前半に関して言えば6対4で劣勢を強いられた印象が残った。

 原因は、ディフェンス戦術にある。たとえば相手センターバックがボールを持った時、前からプレスがかからず自由に縦パスを入れさせてしまったこと。それにより、キンテーロを中心にコロンビアが日本のゴールに近づいてプレーする機会が増加し、結果、日本は何度かピンチを招くこととなった。

 そうさせないためには、日本の前線の4人(大迫、香川、乾、原口)が相手DFラインの4人に対してもっと厳しくプレッシャーをかける必要があった。同時に、ボランチ2人がもっと前にポジションをとり、最終ラインもプッシュアップし、チーム全体でコロンビアに対して圧力をかける必要があった。

 人数で上回った日本が、その優位性を生かせずに苦しんだ要因のひとつである。それは同時に、1人多い日本がなかなかチャンスを作れず、ゴールの匂いがしなかった原因にもなった。

 これを見る限り、西野ジャパンの戦術にはまだ多くの課題が残る。何事も選手任せでは、この先が危ぶまれる。前半の苦しい状況で何も手を打てずに傍観している西野監督のベンチワークも、残り2試合に向けた大きな課題だと言えよう。

 逆に、結果論ではあるが、後半の日本はリスクを冒さず後方でボールを回し続けたことが奏功した。それにより、前半終了間際に同点に追いついたコロンビアの勢いを弱め、時間が経過するにつれて疲労と焦りで自滅するシーンを増加させていた。

 実際にこれが西野監督の指示だったのか、選手の判断だったのか、それとも勝ち点1を確保するためのアプローチだったのかは、ここまでの取材だけでは見えてこない。いずれにしても、後半の“いなし”が勝ち点3につながったことは間違いないだろう。

 大切なのは、この勝利で問題を水に流すことなく、課題をしっかり直視し、セネガル戦までに修正をすることにある。勝つ度に、いつも“奇跡”と言われないためにも。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】川島永嗣(GK)=5.5点

直接フリーキックをセーブできずに失点。蹴ったキンテーロを褒めるべきだが、弾き出せないボールスピードとは言い切れなかった。その他のプレーでは可もなく不可もなく。

【右SB】酒井宏樹=5.5点

得意の攻撃面で実力を発揮できず。パスミスなどイージーなミスが多かった。守備面では及第点。

【右CB】吉田麻也=6.0点

相手が早い時間帯で10人となったこともあるが、中央エリアでの守備はミスが少なかった。数的優位の時間が長かっただけに、もう少しフィードの部分で工夫が求められる。

【左CB】昌子源=6.5点

初のワールドカップの舞台にもかかわらず、最終ラインを引き締めていた。ファルカオへの対応も時間の経過とともに安定し、周りへの指示もはっきりしていた。

【左SB】長友佑都=6.0点

守備面では及第点も、数的優位を生かしてもっと攻撃参加するシーンを増やしたかった。乾とのコンビネーションも改善の余地あり。

【右ボランチ】柴崎岳(80分途中交代)=5.5点

得意の決定的なパスが影を潜め、横パスやバックパスが目立った。相手のプレスがほとんどなかっただけに、もっと積極的に攻撃に絡むべきだった。

【左ボランチ】長谷部誠=5.5点

ボランチの守備的な役割を担っていた。ただ、相手が10人になっただけに、もう少しポジションを上げて、攻撃の起点となる必要があった。センターバックが前に持ち出すスペースを空ける工夫もほしかった。

【右ウイング】原口元気=5.5点

相変わらずのハードワークで守備に貢献。ただし、試合展開からすると攻撃を活性化させるためにゴール前に入っていく動きが必要だった。

【トップ下】香川真司(70分途中交代)=6.0点

先制ゴールのシーンでは、相手のミスにつながる浮き球のボールを入れ、PKにつながるシュートを放ち、さらにPKを決めた。ただ、それ以降の時間帯では輝けなかった。PKのゴールがプラス0.5点。

【左ウイング】乾貴士=5.5点

この試合で数少ない積極性を見せた選手のひとりだが、放ったシュートの精度が甘く、ボールロストも目立ってしまった。ただし、それは積極性があったからこそ。責められるものではない。

【1トップ】大迫勇也(85分途中交代)=7.0点

チームに停滞感が漂う中、コーナーキックの場面で値千金の決勝ゴールを決めた。後半78分、ハメス・ロドリゲスのシュートに足を伸ばしてブロックしたプレーは、決勝点と同等の価値がある。

【MF】本田圭佑(70分途中出場)=5.0点

大迫のヘディングシュートにつながるコーナーキックを蹴ってアシストを記録。しかし、それ以外のプレーは低調で、ボールロストやミスパスによってピンチを招いてしまった。

【MF】山口蛍(80分途中出場)=採点なし

プレー時間が短く採点不能。柴崎に代わり、試合を終えるための守備の役割を担った。

【FW】岡崎慎司(85分途中出場)=採点なし

プレー時間が短く採点不能。大迫に代わって前線から守備をする役割で投入された。

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サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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