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誰のための代表活動なのか? 招集の考え方を変えるべき時代がきた【ミャンマー戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

今回のハプニング続出はある種の警告

「負けたにもかかわらず、私は非常にハッピーです。そもそも日本に勝てるとは思っていませんでした」

 試合後、ミャンマーのミヒャエル・ファイヒテンバイナー監督は開口一番そう言った。

 2021年5月に千葉で行われた前回W杯のアジア2次予選。ミャンマーは日本に10対0で敗れていたため、今回はそのような大敗だけは回避したいと守備重視で試合に臨み、それが奏功して同じ轍を踏まずに済んだ、と試合を振り返っている。

 そういう意味では、FIFAランキング18位の日本が、そういった姿勢で挑んできた同158位のミャンマーに勝つべくして勝った試合。それ以外に評価のしようのないゲームとなった。

 そんな中、この試合では前半にゴールを決めていた鎌田がハーフタイムで交代。試合後、その原因が腰の痛みということが明らかになり、結局、鎌田はサウジアラビアで行われる次のシリア戦に帯同せず、チームを途中離脱することになった。

 今回のW杯アジア2次予選に向けては、選手の招集直後からハプニングが続出。セルティックでプレーする古橋と前田、S・リエージュの川辺、そして浦和レッズの伊藤(敦)も負傷により辞退を強いられ、招集選手の入れ替えもあった。

 さらに、ブライトンの三笘も来日はしたものの、疲労を考慮してトレーニングも参加することなくイングランドへとんぼ返り。

 アーセナルの冨安については、ドクターの判断を踏まえて森保監督がミャンマー戦でのベンチ外を決断。そして前述の通り、鎌田はミャンマー戦の前半のみでチームを離脱することとなっている。

 全員が全員というわけではないが、明らかに目立っているのはヨーロッパでプレーする代表選手の疲労や怪我だ。

「チームのため、選手のため、ということはこれまでも常に考えていて、選手の置かれている状況を考えて対応させていただいています。選手のキャリアがより輝くようにサポートをするのも我々の役目。所属チームでの充実したプレーが、チーム、選手、我々にも有益なことなので、しっかり見極めながらこれからも招集、起用をしていきたい」

 試合後の会見で森保監督はそうコメントしたように、このミャンマー戦では、遠藤、伊東、久保、伊藤(洋)、菅原、浅野らヨーロッパ組はベンチに温存し、守田も後半67分からのプレーに限るなど、以前と比べて選手の疲労や怪我についてはかなり神経質に対応している様子がうかがえる。

 しかしながら、それだけ気をつかって対応したにもかかわらず、このような異常とも言える現象が起きてしまっていることに、もはや目を背けるわけにはいかないだろう。それは、現場を預かるコーチングスタッフのみならず、バックアップをする日本サッカー協会にとっても深刻に考えるべき事態と言える。

 約9割が日本から遠く離れたヨーロッパでプレーする選手で占められる現在の日本代表とそれを取り巻く環境は、その移動距離を含めると、世界でも稀とも言える過酷な環境下にある。前例のないケースと言っても過言ではない。

 これからもヨーロッパカップや国際大会など公式戦の試合数は増加の一途を辿る予定で、選手にとってはますますコンディション調整が難しい時代が目の前に迫っている。

 他に例を見ないのだから、この問題は日本が独自に考えて対応するしか道はない。何が本当のプレーヤーズファーストなのか。正しいアプローチと対処方法を編み出す必要があるだろう。

 選手のローテーション起用はもちろん、2チーム編成も解決策のひとつ。少なくとも、次回のアジア2次予選が3月に予定されていることを考えると、ヨーロッパカップや国内リーグ戦が佳境に向かう最も厳しい時期に、これまで通りの代表招集をすることだけは避けなければならない。

 3月の2試合の対戦相手は、北朝鮮だ。まだ開催地は正式に決まっていないが、短期間の長距離往復はほぼ確定している。そんな中、たとえW杯予選とはいえ、勝って当たり前の相手に従来のメンバーを編成することは、一体何のためになるのか。

 今回連続したハプニングは、ある種の警告だと受け止めるのが賢明だろう。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】大迫敬介(81分途中交代)=6.0点

2試合ぶりの先発出場。今回招集された3人のGKの中では7キャップ目と最多を数える。プレー内容としては相手のシュートが0本だったこともあり、ほとんど見せ場はなかった。

【右SB】毎熊晟矢=6.0点

直接ゴールに関与することはなかったが、前半から大外をオーバーラップして積極的な攻撃参加を見せた。クロスの精度や堂安とのコンビプレーに課題を残すも、及第点の内容。

【右CB】谷口彰悟(HT途中交代)=6.0点

一方的な展開だったため、ゴール前での守備機会はほぼなかった。攻撃では中央への縦パス供給を試みたが、引っかかってしまう場面も。次戦を考慮してか、前半のみで退いた。

【左CB】町田浩樹=6.0点

トルコ戦、カナダ戦に続く3度目の先発でフル出場。最後まで集中力の高いプレーを見せて、及第点のパフォーマンス。特に縦パス供給に積極的だった。その精度は今度の課題か。

【左SB】中山雄太=6.0点

キャプテンマークを巻いて先発出場。大きなミスはなかったが、とりわけ左サイドの攻撃を活性化させることはなかった。クロスも4本に終わり、相馬の後方でバランスをとった。

【アンカー】田中碧=5.5点

前半はワンボランチで全体のバランスを整え、後半はインサイドハーフでプレーし、攻撃参加を増やした。ただ、効果的なプレーはほとんどなく、プレーの精度も欠いていた印象。

【右インサイドハーフ】鎌田大地(HT途中交代)=6.5点

前半28分に会心のミドルシュートを左足で叩き込んだ。攻撃のアクセントとなっていたところだったが、前半のみで交代。腰を痛めたとのことで、チームを途中離脱することに。

【左インサイドハーフ】南野拓実(67分途中交代)=6.5点

上田の2ゴールをアシストした2つの浮き球パスは技ありのひと言。今回はインサイドハーフとしてモナコでのプレーを応用するかたちで“新しい顔”を見せ、可能性を広げた。

【右ウイング】堂安律=6.5点

前半終了間際のスルーパスで上田のゴールをお膳立て。試合終了間際には、守田の縦パスを綺麗に収めて自らゴールを決めた。空回りの部分もあったが、上々の出来栄えだった。

【左ウイング】相馬勇紀=6.0点

6月のペルー戦では右SBでの途中出場だったが、今回は左ウイングで先発。チーム最多のクロスを記録するなどアグレッシブな姿勢は見せたが、シュートも含めて精度を欠いた。

【CF】上田綺世(67分途中交代)=7.0点

日本代表として自身初となるハットトリックを記録。代表通算得点も5点に伸ばした。相手が格下だったとはいえ、裏を狙う動き出しやシュート精度など持ち味を発揮していた。

【DF】渡辺剛(HT途中出場)=6.0点

谷口に代わって後半開始からCBでプレー。2019年E-1選手権以来、自身2キャップ目を記録した。守備機会が少なく評価は攻撃面に限られるが、町田と比べてパス供給は少なめか。

【MF】佐野海舟(HT途中出場)=6.0点

鎌田に代わって後半途中からワンボランチでプレーし、67分からはインサイドハーフでプレー。デビュー戦にもかかわらず、守備能力の高さを披露。鋭いミドルも見せて及第点。

【FW】細谷真大(67分途中出場)=5.5点

記録上は南野に代わって後半67分から途中出場。上田に代わって1トップでプレーした。渡辺同様E-1選手権以来の2キャップ目。特に印象的なプレーはなく、シュートも0本。

【MF】守田英正(67分途中出場)=6.5点

記録上は上田に代わって後半67分から途中出場。南野に代わって中盤に入り、ワンボランチでプレーした。終了間際に堂安のゴールをアシストするなど、しっかり爪痕を残した。

【GK】前川黛也(81分途中出場)=採点なし

大迫に代わって後半途中からゴールマウスを守った。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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