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今大会最大の注目カードは準決勝フランス対ベルギー! 盤石に見えるフランスに苦戦の予感あり

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:ロイター/アフロ)

石橋を叩いて渡るデシャン采配の不安

 W杯準々決勝初日の2試合は、盤石のフランスが順当にウルグアイを下し、優勝候補ブラジルが日本に劇的な勝利を収めたベルギーに敗れ、7月10日(日本時間11日)の準決勝はフランス対ベルギーに決定した。

 まず、ニジニ・ノヴゴロドで行われたウルグアイ対フランス戦。スタンドのほとんどが地元ロシアのファンで埋まったこの試合は、ウルグアイの2枚看板の1人であるカバーニが負傷欠場したこともあり、下馬評は圧倒的にフランス優位だった。

 実際、序盤からゲームを支配したフランスは、前半40分にフリーキックからヴァランがヘッドでゴール左隅に決め、1-0とする。さらに後半もゲームをコントロールしながらチャンスをうかがい、61分にグリーズマンの無回転シュートで追加点。手前でボールが急激に変化したため、GKムスレラがパンチングミスした格好だ。

 結局、2-0としたフランスがまったく危なげなく準決勝に駒を進めたわけだが、この試合でも際立っていたのが、“DD”ことディディエ・デシャン監督の手堅い采配だった。

 現役時代にユベントス(イタリア)の黄金時代を支えた名ボランチとして知られるDDは、指導者になってからもイタリア的要素を取り入れた手堅いサッカーを標榜する。とりわけ2012年にフランス代表監督に就任してからは、攻撃的な駒を豊富に有するチームを率いながら、守備力の高い選手を優先して起用する傾向が強い。

 その効果もあって確かに勝率は高いのだが、勝負どころの“賭け”、“ひと押し”といった強気の采配が欠落することで、惜敗の歴史を繰り返してきた。

 たとえば前回2014年W杯。それまで順当に勝ち上がっていながら、準々決勝のドイツ戦ではセットプレーからフンメルスのヘディングシュート一発を食らって敗退した。その時も、リードを許した後の采配にそれほどの“賭け”はなかった。

 また、開催国として優勝を狙ったユーロ2016(ヨーロッパ選手権)の決勝では、ポルトガルに対して終始ゲームを優位に進めながらフィニッシュを決められず、延長戦に一瞬の隙を突かれて目の前にあった優勝トロフィーを逃してしまっている。

 石橋を叩いて渡る采配も、度を過ぎてしまうと大事な場面で叩いた橋が崩れて渡れずに終わることがある。DDは、果たして過去2つのビッグトーナメントで得た教訓から何を学んだのか。今大会のフランスは、そこも注目点のひとつになっている。

 ただ、これまでの試合を見る限り、DDの采配に大きな変化はない。このウルグアイ戦でも、それが顕著に表れていた。

 まずはスタメンの人選だ。出場停止のマテュイディに代わって4-2-3-1の左ウイングに入ったのはトリッソだった。確かにトリッソは、リヨン(フランス)で頭角を現した時からボランチ、サイドバック、ウイングと、複数ポジションをこなせるユーティリティ性の高い選手ではある。攻撃に特長がありながら、守備力も兼ね備えている。

 しかし、相手がエース1枚を欠くウルグアイゆえ、ルマール、あるいはデンベレやトーヴァンといった強力なウインガーを左サイドに起用してもリスクは少ないはず。にもかかわらず、やっぱりDDは石橋を叩いてトリッソを左ウイングの位置で起用した。

 そもそもマテュイディを左ウイングで起用する時もそうだが、フランスの左サイドは純粋なアタッカーにプレーさせていないため、どうしても前線は左右非対称になる。おそらく意図的に作っているのだろうが、前線のアンバランスさは否めない。

 そして、2-0とリードした後の選手交代も手堅かった。80分、トリッソに代わって守備的MFのエンゾンジをアンカーポジションに投入。システムを4-3-1-2に変化させ、試合を終わらせにかかった。その際、ジルーとエムバッペが2トップを形成し、エンゾンジ、カンテ、ポグバの前でグリーズマンが自由に動くかたちにして、重心を後ろに変化させている。

 その後、88分にはエムバッペに代えてDDが「態度に問題がある」としていたデンベレを起用。さらにアディショナルタイムには、グリーズマンを下げて同じポジションの控えであるフェキルを入れ、定石通りの采配で確実に勝利を手にした。

 DDの采配には隙がない。それが、このウルグアイ戦でも証明された格好だ。

 しかし、である。ここまでほとんど不安要素が見えないフランスだが、準決勝の対戦相手がベルギーになったことにより、ブラジル相手の試合よりも苦戦を強いられそうな予感もする。ウルグアイ対フランス戦の後、メディアセンターで観戦したブラジル対ベルギー戦を見て、そう感じた。

 その試合のベルギーは、日本戦の逆転劇のきっかけとなったプランBをヒントに、予想外の布陣で格上ブラジルに挑戦した。システムは変形の4-3-1-2。最大のポイントは、2トップのアザールとルカクを両サイドに開かせて、前線中央をぽっかりと空けていたことだった。

 その“0トップ状態”のスペースを上手く使っていたのが、トップ下の位置に入ったデブライネだった。時にデブライネの1トップ状態にも変化する斬新なシステムに、ブラジルは立ち上がりから完全に泡を食っていた。

 フェライニ、ヴィッツェル、シャドリの3人も、ブラジルの3人のMFをしっかりと抑え、前半の主導権はベルギーにあった。その中で、オウンゴールとデブライネのスーパーゴールが生まれている。

 後半は守勢に回ったベルギーだが、1点差に追いつかれてからはヴェルメーレンを投入して5バックに変更。ロベルト・マルチネス監督のプランCへの移行により、何とか逃げ切ることに成功している。

 失うものはなにもない。勝負を仕掛けてくるチャレンジャーのベルギーは、フランスにとって極めてやっかいな相手となるはずだ。あれだけ無策と批判されていたロベルト・マルチネス監督の采配も、日本戦の後半からは冴えに冴えわたっている。

 それを受けて立つDDが、仮に石橋を叩く采配に終始したとすれば、ブラジルと同じように“赤い悪魔”の餌食になる可能性は十分にある。いまベルギーを最も恐れているのが、フランスを率いるDDなのではないだろうか。

 勝負どころのDD采配。もちろん、どのプランで挑んでくるか読めないベルギーに対して、キックオフ直後にDDがどのような対応を見せるのかも見逃せないポイントになる。

 事実上の決勝戦とも言われるこのビッグマッチ最大の見どころは、そこにあると思う。

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サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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