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G20にアフリカ連合が加入――「アフリカの友人アピール」を競う大国

六辻彰二国際政治学者
コロモのアスマニ大統領を歓迎するインドのモディ首相(2023.9.9)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
  • アフリカ各国が加入するアフリカ連合(AU)がG20メンバーとして迎えられた。
  • 貧困国の集合体であるAUが大国の集うG20のメンバーに迎えられたことは、どの国も「自国こそアフリカの友人」とアピールしたい結果である。
  • 先進国も新興国もAUのG20加入を歓迎する点では一致するが、「友人アピール」によってアフリカが自分達に協力的になることをそれぞれ期待しており、その目的は全く食い違っている。

 アフリカ連合(AU)がG20に加入したことは、大国がそれぞれアフリカに気を遣っているとアピールしなければならない状況を物語る。

アフリカ連合のG20加入

 ニューデリーで開催されたG20サミットで9月9日AUの加入が正式に発表された。サミット開会式で開催国インドのモディ首相は「これは共同の精神に基づくものだ」と述べ、AU議長国コモロのアスマニ大統領に座席を勧めて着席を促した。

 AUはアフリカ大陸55カ国が加入する地域機関だ。G20は先進国や新興国19カ国とヨーロッパ連合(EU)をメンバーにしてきたが、地域機関としての加入はEUに続くものである。

 AUの加入は各国の合意に基づくもので、メンバー国首脳は相次いで歓迎のメッセージを発した。例えば、バイデン大統領は「アフリカとはあらゆる問題を議論できる」と述べ、G20サミットを欠席した中国の習近平国家主席も8月にセネガルのサル大統領との会談で支持を表明していた。

 サルはアフリカ各国の首脳のなかでもとりわけAUの拡大や国際的発言力の向上に熱心で、「統一されたAUのGDPは世界8位の規模に当たる」と主張し、これまでもG20加入を各国に働きかけてきた。

 アフリカでは2019年、大陸規模での取引を自由化するアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)設立協定が発効し、2021年から段階的に運用を開始している。その範囲には14億人の人口と世界全体のGDPの10%をカバーしている。

しかし、なぜか

 とはいえ、である。貧困国の多いアフリカの地域機関がG20に加入することに疑問や違和感が持たれても不思議ではない。

 もともとG20は2008年のリーマンショックをきっかけに世界が金融危機を迎えるなか、主な先進国と新興国が集まって発足した。日米を含む主要先進国で構成されるG7が、それまでのように世界経済の舵取りをできなくなり、「リーダーシップなき世界」がいわれる状況でG20は生まれたのだ。

 そこには中ロをはじめ、インド、南ア、ブラジルなどのいわゆるBRICSの他、インドネシア、サウジアラビア、アルゼンチンなど各地の新興国も含まれる(このうちサウジとアルゼンチンは先日BRICS加入が決定した)。G20のメンバーは世界のGDPの85%と2/3の人口をカバーする。

 いわばG20は政治的立場を越えた大国の集まりである。

 一方、アフリカのほとんどの国は援助を受け取る立場だ。さらに近年ではコロナ禍とウクライナ戦争をきっかけに、債務返済に行き詰まってデフォルトを宣言する国も現れている(これに関する記事は近日掲載予定)。

 それにもかかわらずAUが満場一致で迎えられた最大の要因は、大国がこぞって「アフリカの友人」をアピールしたいことにある。

「アフリカの友人」アピール競争

 ウクライナ戦争をきっかけに、グローバルサウスと呼ばれる途上国・新興国の多くが先進国と中ロの間で中立路線を目指していることは広く知られるようになった。

 なかでもアフリカは国の数が多く(国連加盟国の約1/4)、昨年3月の国連総会におけるロシア非難決議でも賛否がほぼ半々に分かれた。

 そのため世界が不安定化するにつれ、先進国であれ中ロであれ、あるいはインドやブラジルなどの独自路線を歩む新興国であれ、国際的な発言力を増すためにアフリカの支持を集めようとすることは不思議でない。

 今回のG20サミットにはプーチン大統領だけでなく習近平主席も欠席した。

 しかし、まとめられた共同宣言ではウクライナ戦争による食糧価格高騰などへの言及はあったものの、ロシアに対する直接的な批判が封印された。そこにロシアと歴史的に近い立場にある議長国インドだけでなく、中立的なグローバルサウスの意向があったことは疑いなく、これを先進国も無視できない状況をうかがえる

 このようにウクライナ戦争は大国のアフリカへの配慮を加速させるきっかけになったものの、大国のアプローチ競争そのものは最近の現象ではない。

 そこで一つの手段となるのは、アフリカを「パートナー」として認知(実態はともかく)し、「自国こそアフリカの友人」とアピールすることだ。

 例えば2011年、アメリカのクリントン国務長官(当時)はザンビアを訪れ、資源を持ち出すだけの「新しい植民地主義」に警戒するよう警告した。これが中国を念頭に置いたものであることは明らかだった。これに対して、中国もしばしば欧米を植民地主義的と批判してきた。

 外部の大国がこうしたネガティブキャンペーンをお互いに展開し、「友人アピール」を競うのは、国際的に無視されやすいことへの不満がアフリカにあることの裏返しといえる。

 ナイジェリアのタッガー外務大臣は米メディアのインタビューに対して「植民地時代から現代に至るまで、アフリカが‘幼児化’されてきた」と語っている。つまり、「遅れている」「未開発」といったイメージに基づき、「アフリカは大国の決めたことに黙ってついてくればいい」と扱われてきたというのだ。

 こうした不満をすくいあげ、アフリカを惹きつけようと、米中をはじめ多くの大国はこれまでも「友人アピール」を競ってきたのである。

大国の同床異夢とアフリカ

 インドもその例外ではなく、2008年に初めて開催されたインド・アフリカ・フォーラムでは「植民地支配に苦しんだ経験を共有する途上国同士の協力」が強調された。

 AUにG20加入を認めることは、こうした不満を和らげることにつながる。だからこそ、どの国も反対しないどころか、「自国は率先してアフリカを歓迎している」とアピールしたがる。

 もちろん先進国はそれによってアフリカが先進国に協力的になることを期待するし、中ロは全く逆のことを期待する。インドはインドで…といった具合で、その意味では大国の同床異夢ともいえる。

 ただし、大国の「アフリカの友人」アピールがアピール倒れになる可能性も否定できない。貧困国の集まりであるアフリカに実質的な発言力を大国が認めるかには疑問もあり、「G20加入の歓迎」という形式で終わらせようとする公算も否定できない。

 アフリカの多くの政治家ももちろんそれを承知している。そのため、外部に対する発言力を強化しようと、アフリカ各国でバラバラの意見を一本化しようとするエネルギーも強まると見込まれる。

 G20サミット会場での表面的な友好ムードの裏では、次のステージに向けて各国の利害関係が渦巻いているとみてよいのである。

国際政治学者

博士(国際関係)。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学などで教鞭をとる。アフリカをメインフィールドに、国際情勢を幅広く調査・研究中。最新刊に『終わりなき戦争紛争の100年史』(さくら舎)。その他、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、『世界の独裁者』(幻冬社)、『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『日本の「水」が危ない』(ベストセラーズ)など。

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