• 中東の‘親米国’は、西側の「ロシア封じ込め」に最低限の協力しかしていない。
  • この冷めた反応は、西側でウクライナ侵攻に関する反応や関心が大きいことに反比例したものといえる。
  • ウクライナ侵攻に関して何を置いても協力するよう求められることは、中東各国にしてみれば、両隣の家が火事なのに遠くの山火事への対応を優先しろと言われているに等しい。

 ウクライナ侵攻が長期化するという見込みが広がっているが、それはウクライナでの戦局が膠着していることだけが理由ではなく、ロシアへの「兵糧攻め」が機能しにくいことがある。アメリカの同盟国でも経済封鎖に協力的とは限らないからで、中東の‘親米国’もその例外ではない。

「我々の戦争ではない」

 ウクライナには「敵の敵」からも支援の手が差し伸べられている。シリアの反政府組織「シリア民間防衛隊(ホワイトヘルメット)」は、空爆による負傷者への対応などに豊富な経験があり、すでにウクライナの医療関係者にオンラインでの講習などを行なっている。

 2011年に内戦が始まったシリアでは、アサド政権が反体制派を押さえ込み、ロシアがこれを支援してきた。ロシア軍による空爆の対象にはイスラーム過激派「イスラーム国(IS)」だけでなく、アサド政権に批判的なクルド人勢力なども含まれ、ウクライナと同様に学校や病院、ライフラインなども破壊された。

 こうしたなかで欧米からの援助を受けて活動してきたシリア民間防衛隊は、ウクライナ侵攻をきっかけに国境をまたいで反プーチンでの協力を進めているのだ。

 もっとも、こうした反応がシリア人の多くを占めるとは限らない。

 ドイツ公共放送DWは4月23日、シリアからドイツに逃れた難民の若者の意見を紹介した。「ウクライナ侵攻が始まった時、最初はロシアと戦うために戦地に向かおうと思った。でも、仲間と何回も話し合っている間に、考えは変わった。ウクライナには行かない。これは我々の戦争ではない」。

中東のサイレントマジョリティ

 ウクライナ侵攻と距離を置く理由について、DWの取材を受けた若者たちは「我々は我々の問題を抱えている。誰も気にも留めないが、アサドは今もいる」と述べた。

シリアの影響の強いレバノンで行われた、ウクライナ侵攻を支持するデモ(2022.3.20)
シリアの影響の強いレバノンで行われた、ウクライナ侵攻を支持するデモ(2022.3.20)写真:ロイター/アフロ

 プーチンがアサドを支援しているとしても、彼らにとっての主な問題はあくまでシリアであり、それ以外は二次的なテーマなのだ。これはむしろ正直な反応といえるだろう。

 ただし、こうしたコメントは西側では表面化しにくい。「自分にとっての優先的な問題ではない」という意見には、ウクライナを全面的に支持するというニュアンスがないからだ

 言った途端にバッシングされることが容易に想像されるからこそ、DWの取材を受けた若者たちが匿名を条件にしたことは不思議でない。

 しかし、この若者たちのコメントは、中東各国の政府の考え方をほぼ代弁したものといってよい。ほとんどの中東の国は、たとえシリアと敵対的であっても、あるいはアメリカの同盟国であっても、ロシアとウクライナの間でバランスをとり続けているからだ。

中東‘親米国’のフタマタ

 例えば、サウジアラビアは長年アメリカと安全保障、経済の両面で深い関係にあり、トランプ政権時代に掲げられた「中東版NATO」構想でも中核を占めた。そのサウジは3月2日の国連総会におけるロシア非難決議で賛成にまわったものの、対ロシア制裁には非協力的だ。

 OPEC+(オペック・プラス)が5月5日、日量43万2000バレルの生産拡大で合意したことは、これを象徴する。

 OPEC+は石油輸出国機構(OPEC)の加盟国と、ロシアなど非加盟の産油国が石油・天然ガスの生産量を調整する場だが、サウジはOPECで最大の発言力をもつ。

 世界的な原油高とロシア産原油の流通減少に対応するため、アメリカなどはOPEC加盟国に生産増を求めてきた。これに対して、OPEC+で示された今回の生産増は、ごく限定的なレベルにとどまるものだった

IS対策との温度差

 もともとウクライナ侵攻の前後から、アメリカはサウジに対してOPEC+でのロシアとの協議そのものを見直すよう求めてきた。サウジはこれに抵抗したばかりか、実質的には原油価格を当面維持する決定を後押ししたことになる。それはロシアを日干しにしようとする西側とは一線を画すものだ。

 ISがシリアとイラクの国境付近で「建国」を宣言した2014年、サウジは多くのOPEC加盟国の反対を押し切り、原油価格を実質的に引き下げた。その一つの目的は、シリアの油田を確保し、石油収入を主な資金源にしていたISを弱体化させることだった

 これは安全保障面でアメリカをバックアップする決定だったが、この時と比べると今回のサウジの方針は明らかに自国の経済的利益を優先させたものといえる。

ロシアと西側の狭間で

 つまり、サウジアラビア政府の方針にも「我々の戦争ではない」という暗黙のメッセージが読み取れるわけだが、それ以外のアメリカの同盟国も多かれ少なかれ同様である。

 ペルシャ湾岸のアラブ首長国連邦(UAE)は、サウジとともに中東におけるアメリカの主要パートナーで、やはり3月2日の国連決議ではロシア非難決議に賛成したものの、ロシアとの経済取引はその後も続けている。

 UAEの一角を占めるドバイは観光地として名高いが、その一方で中東屈指の金融センターの一つでもある。そのUAEは3月以降、ロシア系企業や投資家の受け入れを進めており、西側との取引が難しくなったロシアのビジネス拠点の一つになる可能性が高い。

 また、NATO加盟国であるトルコも、国連総会でのロシア非難決議に賛成し、ウクライナ向けにドローンなどを輸出しながらも、エネルギーを中心にロシアとの取引を続けており、ロシアとの人の往来も止められていない。

 その一方で、トルコ政府はロシアとウクライナの和平交渉をプロモートしており、バランスをとることに余念がない。

隣家の火事より遠くの山火事?

 中東各国のこうした冷めた反応は、西側でウクライナ侵攻への関心が高いことの裏返しともいえる。

 ウクライナ侵攻そのものが大きな問題であることは、ほとんどの人が否定しない。

 しかし、そのニュースが連日のように先進国メディアで大々的に取り上げられる一方、それ以外の人道問題や危機はほとんどスルーされる。ところが、中東諸国にしてみれば、ウクライナ侵攻より差し迫った危機や脅威は山積みだ

 例えば、イエメンでは2015年から周辺国を巻き込む内戦が続き、昨年段階で約2400万人の人口の約80%が人道支援の対象で、約1300万人が生命の危険にさらされていた。国連はこれを「世界最悪の人道危機」と表現しているが、メディアの取り上げ方をみれば、この問題に対する西側の関心はウクライナ侵攻の1/100もないといって差し支えないだろう。

 また、シリア難民は2011年から周辺国に押し寄せ(現在でもそのほとんどはトルコなど中東各国にいる)、その合計は現在までに660万人以上、国内避難民もほぼ同数にのぼるが、これが先進国で大きな問題と認知されたのは、難民の一部がヨーロッパにたどり着いた2015年からのことだった。

 しかも「人道的配慮」と言いつつもその受け入れは大きな拒絶反応をともなうもので、ウクライナ難民への好意的な対応とは雲泥の差があった。いわゆるダブルスタンダードが鮮明になったわけだ。

 おまけに、ほとんどの国にとって差し迫った問題である新型コロナウィルスに関して言えば、先進国が世界市場でワクチンの大部分を購入し続けている一方、緊急事態への対応として途上国が求める「知的所有権の一時停止」に関して先進国は沈黙したままである。

 要するに、「第二次世界大戦以来の危機」といったトーンの強まる先進国から、何をおいてもウクライナ侵攻に関して歩調を合わせるように求められることは、中東諸国にとって、両隣の家が火事なのに遠くの山火事の方を優先的に対応すべきと言われるのに等しい。

 西側が「人道」や「自由」を強調しながらも、自分たちの都合で中東の火事と距離を置いてきたことを考えれば、先進国メディアがウクライナ侵攻にフォーカスすればするほど、中東でシラけて受け止められるのも無理はない。いわば「白人世界の内輪もめ」とみなされることは、西側のロシア非難に協力する国を増やすうえで最大の障害になっているといえるだろう(続く)。