同盟国という名の敵-リビア内戦をめぐるフランス・イタリア対立

トリポリに向け出撃態勢を整えるリビア国民軍の兵士(2019.4.13)(写真:ロイター/アフロ)

  • リビアでは2つの政府が並び立ち、首都トリポリをめぐる攻防戦が激化している
  • このうち、国連も認めるリビア統一政府は、主にイタリアに支援されているが、これは同国がリビアでの油田開発に大きな権益をもつためである
  • これに対して、リビアでの油田開発に出遅れるフランスは反政府勢力「リビア国民軍」を支援することで逆転を図っているとみられ、リビア内戦はNATO加盟国同士の争いの様相を呈している

 リビアでは反政府勢力が首都トリポリへの攻撃を強めており、国連が自制を呼びかけているが、いくつかの国は自国の利益のために反政府勢力を支援しているとみられる。そのなかにはフランスも含まれており、これはリビアでの油田開発に大きな権益をもち、統一政府の主たる支援者であるイタリアとの火種となっている。

「南北朝時代」のリビア

 北アフリカのリビアでは2つの政府が並び立ってきたが、その混迷は大きな節目を迎えている。

 4月5日、反政府勢力「リビア国民軍」は「シラージュ暫定首相率いる統一政府は過激派に乗っ取られている」と主張し、首都トリポリを目指して進撃を開始。トリポリ近郊での政府軍との衝突により、14日までに少なくとも121人の死者が出た。

 リビアでは40年以上にわたって権力を握ったカダフィ体制が2011年に崩壊した後、それまで押さえ込まれていたさまざまな勢力が雨後の筍のように台頭した。その多くは派閥抗争を繰り返すなか、二大勢力に集約され、2016年からは首都トリポリと東部ベンガジに2つの政府が並び立ってきた。

 このうち、トリポリにある統一政府は国連からも「正統なリビア政府」と承認されている。そのメンバーには、シラージュ首相をはじめ西部出身者が多い他、イスラーム団体「ムスリム同胞団」も有力な支持基盤となっている。

 これに対して、ベンガジを拠点とするリビア国民軍は、主に東部や南部の部族などから支持されている。これを率いるハフタル将軍は、かつてカダフィ体制下で軍人として務めた経験をもつが、後にカダフィとの確執からアメリカに亡命し、リビアで内戦が始まった2011年に帰国した経歴をもつ。

 北アフリカではアルジェリアスーダンなどで「独裁者」の打倒を目指す政変が広がっている。リビアでの首都攻防戦はこれらと形態は異なるものの、2011年の政変の続きという意味で「アラブの春」第二幕の一部といえる

フランスの暗躍

 国連をはじめ多くの国は統一政府を支持しており、戦闘の激化に懸念を示しているが、なかには混乱に乗じてリビア国民軍を支援する国もある

 例えば、エジプトアラブ首長国連邦(UAE)、サウジアラビアなどの担当者は、リビア国民軍を率いるハフタル将軍としばしば会談している。これら各国はリビア統一政府の一角を占めるムスリム同胞団をテロ組織として国内で取り締まっており、そこにはイスラーム世界のなかの対立がある。

 また、中東進出を強めるロシアも、将来的にリビアに軍事基地を建設する見返りに、リビア国民軍に武器を提供しているといわれる。

 これら各国は表面上、国連の承認を得た統一政府を支持しながらもリビア国民軍に肩入れし、新政権樹立を通じてリビアを自分たちの勢力圏に収めようとしているとみられるのだが、そうした国のなかには先進国も含まれ、とりわけフランスによる不透明な関与はしばしば指摘されている。

 リビアで緊張が高まっていた2017年7月、フランスのマクロン大統領はシラージュ首相、ハフタル将軍と三者会談をもち、緊張緩和を演出したが、そのシラージュ首相は今月に入ってリビア国民軍が進撃を開始した直後、「フランス政府がハフタル将軍を支援している」と批判し、これをやめさせるよう各国に呼びかけている。

NATOの分裂

 フランスの動向に最も神経をとがらせているのが、かつてリビアを植民地支配し、現在では統一政府の主な支援者でもあるイタリアだ。

 イタリアのサルヴィーニ副首相は「フランスはリビアの安定に関心がない。それは恐らく石油のためで、これはイタリアの利益に全く反する」と名指しで批判している。

 2011年から続く戦闘で生産が停滞しているものの、リビアは潜在的には世界屈指の産油国で、2015年段階の確認埋蔵量484億バレルはアフリカ大陸第1位だ(BP)。歴史的な関係を反映してイタリアはリビアの油田開発で有利な立場にあり、IMFの統計によると2018年段階でリビアの輸出額(ほとんどが石油)に占めるイタリアの割合は19.9パーセントで第1位だった。ちなみに、フランスのそれは12.3パーセントだった。

 つまり、サルヴィーニ副首相はフランスがリビアでの権益を拡大させるため、反政府勢力を支援し、政権を入れ替えようとしているというのだ。フランスとイタリアはいずれも北大西洋条約機構(NATO)加盟国で、G7メンバーでもあり、こうした発言は異例とも映るが、両国関係はすでに第二次世界大戦後の最悪レベルといわれるほど悪化している。

 2月には、イタリアのディマイオ副首相が昨年末からフランスで毎週デモを行っているイエロー・ベスト運動の指導者らと会談し、支援を約束した直後、フランス政府がこの「内政干渉」に対してイタリア大使を国外退去させる事態となった。

 サルヴィーニ副首相の批判はこうした外交関係の悪化を背景に出たものだ。これに関してフランス政府から公式の声明は出ていないが、リビア内戦がこの同盟国間の外交対立に拍車をかけていることは間違いない。

イタリアの抜けがけ

 ただし、自国の利益のためには抜けがけも辞さないのはフランスの専売特許ではなく、この点ではイタリアも変わらない。イタリアがリビアで大きな権益を握ってきたこと自体、これを如実に物語る。

 2011年にリビアが内戦に突入した際、アメリカ、イギリス、フランスなどは、こぞって反体制派を支援した。これら各国は1980年代から2000年代初頭に至るまでカダフィ体制と対立し、リビアに経済制裁を敷いた経験をもつ。NATOによる軍事介入には、目障りだったカダフィ体制をドサクサに紛れて崩壊させる意図が鮮明だった。

 これに対して、イタリアは冷戦時代からリビアと貿易を続けていたため、NATOの軍事行動において二股をかけた。つまり、イタリアはNATO加盟国として反カダフィ派を支援しながらも、空爆には参加せず、妨害電波でリビア軍のレーダーを撹乱させるなど、目立たない活動に終始したのである。それは反体制派とだけでなくカダフィ体制との関係を決定的に悪化させない選択だったといえる。

 イタリアにとって、リビアの安定は不法移民対策でも死活的な意味をもつ。アフリカから地中海を渡ってヨーロッパにやってくる難民や不法移民にとって、リビアは主な経由地であり、リビアの対岸にあるイタリアはヨーロッパ側の玄関口となるからだ。

 こうした背景のもと、イタリアがNATOの方針に面従腹背したとすれば、カダフィ体制崩壊後の混乱でリビアがアフリカからヨーロッパに押し寄せる難民や不法移民の集積地となったことは、「リビアを不安定化させた」他のNATO加盟国に対する不満をイタリアで募らせたとしても、不思議ではない。

 そのため、統一政府を率先して支持するイタリアは、リビア国民軍が迫るなかトリポリ近郊に数百名の部隊を駐留させている

同盟国という名のライバル

 国際政治に抜けがけは付き物で、その意味ではフランスやイタリアの行動は珍しいものではない。リビア情勢は「同盟国は仲間」という考え方が一種の神話に過ぎないことを改めて示している。

 ただし、フランスが支援するリビア国民軍が統一政府を支援するイタリア軍と対峙すれば、間接的とはいえNATO加盟国同士が戦火を交えることになる。

 NATOは冷戦時代、ソ連という共通の脅威を前に組織されたが、現代の対立の構図は複雑化しており、ロシアや中国との距離感はヨーロッパ諸国の間でも差がある。もともと同盟関係は永久不変ではなく、冷戦期以前は定期的に組み替えが発生していた。リビア内戦は「アラブの春」第二幕の一部であると同時に、第二次世界大戦後の秩序が揺らぎつつあることの一つの象徴といえるだろう。