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辞める理由ないサンウルブズ。存続&発展への道筋は。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
3勝目の瞬間。(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズは始動3年目となる2018年、当初掲げたシーズン5位以内という結果は残せなかったものの代表の後押しというミッションは果たした。

 それは前掲の3年目最下位サンウルブズ、開幕9連敗の裏に「確執」?【ラグビー雑記帳】日本代表支えたサンウルブズ、終盤戦で痛感した先入観とは。【ラグビー雑記帳】の通りだ。

 日本代表の強化委員長がさほどサンウルブズを視察していない点など、両者の関係性に改善の余地はある。もっとも、日本人スーパーラグビープレーヤーの第1号(2013年から4年間ハイランダーズに在籍)である田中史朗は、サンウルブズの存在が日本代表強化に欠かせないと言い切る。

「全体として、レベルが上がっている。(サンウルブズが)あることで、(サンウルブズの選手が)日本代表になった時に自信を持ってプレーができると思います」

 ワールドカップイヤーとなる来季、またそれ以降に向けては、サンウルブズを運営する一般社団法人ジャパン・エスアールの攻めの姿勢が求められるだろう。

来季に向けた準備、もうすでに

 ワールドカップイヤーの2019年に向け、ジャパン・エスアールの渡瀬裕司CEOがこう話す。

「今年のようにやるのは難しいのではと、個人的には思っています。今年はそれを予想、想定しながら色々な形で動いてきました」

 今季はチームカルチャー形成のためにジェイミー・ジョセフヘッドコーチが日本代表とサンウルブズの指揮官を兼務も、シーズン終盤は腰の治療に入った。ワールドカップ本番に向けジョセフのストレスを軽減させるには、現在のサンウルブズのスタッフがヘッドコーチに内部昇格するのが理想とされるか。

 ジョセフ離脱中の7月はトニー・ブラウンアタックコーチやスコット・ハンセンディフェンスコーチがヘッドコーチ代行となり、渡瀬はそれを「(来期以降の形を)予想、想定しながら色々な形で動いてきました」と表現したのだ。

「今後のためには、誰がヘッドコーチになってもある程度は機能するコーチングチームを作る必要があると考えています」

辞める理由がない

 当面の在籍年限を超える2021年以降のスーパーラグビー参戦に向けては、日本協会ではなくジャパン・エスアールが交渉。アジア市場への貢献などをアピールするつもりとしているが、首尾よく契約延長を勝ち取った先にも内なる試練に出くわす可能性がある。

 というのも日本協会の一部で、スーパーラグビー参戦継続へネガティブな声が出ているからだ。

 まず現状における在籍最終年の2020年、国内トップリーグとスーパーラグビーの日程の多くが重なる。さらに未知数とされる2021年以降の国内シーズンも、2020年と同じような日程になる可能性もゼロではない。

 その場合、国内外のシーズンを掛け持ちする多くの選手は「サンウルブズかトップリーグか」の選択が迫られる。

 もっとも、一般社団法人のサンウルブズよりトップリーグの各企業の方が選手に高いギャランティを支払える。特にトップリーグの社員選手は引退後のポジションもある程度は保障されていた。過去3シーズンで掛け持ち組の休暇が必要だった背景にも、この構造があった。それゆえスーパーラグビーとトップリーグの日程が重なった場合、サンウルブズへの合流可否に他者の意志が介在するリスクも生じそうだ。

 東芝の社員選手としてサンウルブズに加わる浅原拓真は、「サンウルブズの条件も少しずつよくしてもらっている」としつつ「これからの選手にも、サンウルブズに入ることを勧めたい」。パナソニックのプロ選手でオーストラリアのレベルズにも在籍経験のある堀江翔太も、建設的にこう述べる。

「確かに選手は(トップリーグの)企業さんから一番、お金をいただいている。そこで結果を出さないと、という部分がある。それに対し、スーパーラグビー(のチーム)からいただくお金が一番になれば変わる。お金の話ばかりをしたくはないですけど、トップリーグ、日本代表、スーパーラグビーと、一番、頑張って、一番、身体を張っている選手が一番もらっているのが、一番、いい。その調整が済めば、選手のモチベーションも上がると思います」

 このように、在籍経験のある選手は、いくらか改善点を提案することはあっても総じてサンウルブズの存続に肯定的だ。2021年以降の契約延長を前提にここから求められるのは、現日本代表勢、さらにはその予備軍がサンウルブズを選びやすい環境を作ることだろう。

 サンウルブズのゼネラルマネージャーでもある藤井雄一郎・日本協会理事は、ジャパン・エスアールのさらなるスポンサー獲得、所属選手の福利厚生の向上を求める。

 その論調に呼応してか、渡瀬CEOも「どんどん、新しいことをやっていかないと」。支出を抑える目的からか、以前からバックヤードのスタッフを出向扱いで雇用してもらえる企業を開拓中だ。今夏は、次世代を担う若手へサンウルブズの存在をアピールすべく、合宿地のメッカである長野・菅平高原に田邉淳アシスタントコーチを派遣。コーチングクリニックを実施した。

 この先は、ラグビー強豪大学の医学部と連携を図りたいとも言う。両者にメリットが確認されれば、それまで存在していたであろう大学生選手の練習参加へのハードルも下げられそうだ。

 その他、20歳以下(U20)日本代表との関係性も密にしたいと渡瀬CEOは考えている。このビジョンに対し、藤井理事は「むしろ、サンウルブズのユース世代の強化の一環として、U20の活動を活かせばいい。他はそうしているから、18、19歳でスーパーラグビー経験者がいる」と語る。

「なぜ(サンウルブズが)そうしていないか。それは現状、費用がないから。ただ、(上記の道筋を)シンプルに示せば、(支援者が)集まる。そうなれば、日本の高校生や子どもが『サンウルブズを目指す』という形になってもおかしくない。(サンウルブズは)大変だけど、辞める理由がない。今年6月、日本代表がイタリア代表、ジョージア代表に勝った(両国を相手にしたツアー3戦で2勝1敗)のも、間違いなくサンウルブズの影響。これをこちらから辞めますというのには、よっぽどの理由がないといけない」

 そう。日本協会内でも、サンウルブズの効能を深く理解する有志はいる。岩渕健輔理事も、きっとその1人だろう。7人制日本代表ヘッドコーチでもある岩渕理事は、2014年以前に日本のスーパーラグビー参戦に尽力していた。だからこの件についても、言葉を選びながらも簡潔な意志を示していた。

「色々な議論はあると思いますが、スーパーラグビーを経験した選手の話していることがすべてだと思います」

 関係者の話を総合すると、反対論者のうち少なくとも数名は「もともと参戦に反対していた」と見られる。課題を抱えながらも明るい未来を提示できるビジョナリーがいる以上、それ以外の人物には思考をアップデートしていただくのがベストだろう。

 スーパーラグビー参戦チームと日本代表のリンケージは――「強化責任者の打ち出す作戦さえ間違っていなければ」という注釈が必要だが――最も効果的な代表強化と言える。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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