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イーグルス田村優が見るプレーオフ進出までの「成長」。【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
圧巻の存在感(写真提供=JRLO)

 今季のラグビーの国内リーグワン1部では4月19~21日の第14節の結果を受け、プレーオフに進む4傑の顔ぶれが決まった。

 21日に5位のコベルコ神戸スティーラーズが敗れたことで、東京サントリーサンゴリアス、横浜キヤノンイーグルスの進出が決定。ここまで全勝で首位の埼玉パナソニックワイルドナイツは1位通過を決め、こちらもワイルドナイツとともにすでに権利獲得済みの東芝ブレイブルーパス東京とともに先を見据える。

 2週間前までは3~8位が熾烈な勝ち点争いを繰り広げていたが、ここにきてタフな組織が生き残った格好か。

 20日、東京・秩父宮ラグビー場。3トライ差以上の勝利で勝ち点5を掴んだのはイーグルス。三菱重工相模原ダイナボアーズを43―19で下した。

 妙技を披露し、かつ勝負を制する普遍的な鉄則を語ったのは田村優。日本代表として2015から2度のワールドカップに出て通算7勝を挙げた35歳だ。ミックスゾーンで思いを語った。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

——まず、必要な結果を得られた。

「5ポイントが必要だったので。(相手は9位と)力の差がある相手でしたけど、何とか5ポイントがとれてよかったと思います」

 15年のイングランド大会では当時優勝2回(現在4回)の南アフリカ代表を下した一戦に途中出場し、19年の日本大会では正司令塔として開幕前に世界ランク1位のアイルランド代表、欧州の雄であるスコットランド代表などを下して初の8強入りを果たしていた。

 イーグルスでは、沢木敬介監督体制初年度の2020年からの3シーズン、主将を務めた。リーグワン発足3年目の昨季、クラブ史上初の4強入りを達成した(3位)。

 この午後は前半こそ組織的な攻めの得意な相手と19―19と打ち合うも、その時間帯からチャンスメイクの回数ではイーグルスが上回っていた。

 相手ボールキックオフからの蹴り合いを経てカウンターアタックを仕掛けるや、敵陣10メートル線エリア右からの展開で田村が仕掛ける。飛び出す防御に迫り、その背後のスペースへパス。味方を敵陣ゴール前まで進めた。

 直後のインゴールドロップアウトからの攻めでは左大外の空間へ展開し、22メートル線付近では右へ折り返してフォワードに衝突させる。ナンバーエイトのアマナキ・レレイ・マフィがラックの真上を抜け出し、最後はスクラムハーフの荒井康植が先制トライを決めた。

 以後も深めに立ってキックパスを繰り出したり、深い角度の攻撃ラインを動かしたり。球をもらう瞬間に位置取りを変え、向こうの目線を変えにかかるようなシーンもあった。

——どう防御を崩そうと考えましたか。

「勢いがメインのチームだと思ったのでうまくすかしながら。できるだけゲームをアンストラクチャーに保てばついてこられないだろう、と」

——前半20分からの10分間はHIA(脳震盪チェック)で一時離脱していましたが。

「(以後も)もっと大事な試合がこれから出てくるので、念のために(検査した)」

 ハーフタイムが明けると、向こうの反則に乗じて着実に加点。45、56分には敵陣ゴール前右でフォワードがモールを押し切ってスコアしたが、その前提にはペナルティーキックがあった。イーグルスが球を揺さぶる流れで獲得できた。

 中盤戦は、得点後の自軍キックオフから長距離砲で陣地を挽回したり、タックラーの近くに迫ってスペースへ球をさばいたり、守備網の奥側へ味方を走らせるキックを放ったりと自在に動いた。

——後半、流れを傾けた。

「うまくいかないことにストレスを溜めずに、(両軍の間にあるかもしれない)力の差を勝利という形で証明できたのは成長だと思います。まだまだ完璧とは程遠いですけど、組織としては力がついたんじゃないかなと思います」

——同点で迎えた45分。敵陣ゴール前右でのラインアウトの直前、フォワード陣に何やら声をかけていました。

「(具体的に何と話したかは)覚えてないですけど、相手をギブアップさせるチャンスだというのは、常々、言っていたと思います」

——まもなくモールを押し込み、24―19と勝ち越し。フォワードの調子は上がっている。

「助かりますね。ただ、むやみやたらにフォワードを使いすぎると疲れてしまうのでコントロールを。(その試合で)効いている強みを早く見極めて試合を出していくのが僕の仕事なので」

 話題は、チームの進歩についても及んだ。ここで語られるのは、属人性を最小化した組織の強さについてだ。複層的な攻撃や運動量と鋭さを活かした防御といった自軍の戦い方を踏まえ、「細かいことにこだわってやれば力がある、というのをわかることができたのが組織としての成長」と話す。

——主軸のジェシー・クリエル選手が怪我から復帰。

「彼ら(クリエル、ファフ・デクラークの南アフリカ代表勢)がいない間にチームが成熟していったので、そこにプラスアルファで持っている力を出してくれると思います。何よりいない間にチームが成長できたというのが、僕はすごい嬉しいことで。

 彼らの怪我は残念でしたけど、彼らがいない試合で——負けてしまいましたけど——神戸、クボタに自分たちのベストに近いゲームができている(国際的選手を擁して上位を争う強豪と接戦)。スーパースターふたりがいなくなりましたけど、細かいことにこだわってやれば力がある、というのをわかることができたのが組織としての成長。(昨今の勝利で)証明したのは自信にもなる。そこに、きちっとした仕事を高いレベルでできる人が帰ってきてくれるとよりいいんじゃないかなと」

——田村さんはかねて「このチームをよくするのが仕事」と仰っています。かくも組織にコミットしたい理由は。

「すごいお世話になっていますし、自分が成長させてもらったので、自分が成長させることは必要だと思う。結果も含め、自信を持った組織にしたい。必ず、チャンスがあるんです。それをみんなにわかってもらえるのが僕の仕事かなと」

——プレーオフ行きが間近に迫っています(取材時)。

「ファフ、ジェシーがいないなかトップ4に入る可能性がある位置についているのは明らかに成長。まずはプレーオフに。何位に入るかにもよりますけど、明らかに格上が相手。番狂わせを起こすのは不可能ではない」

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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