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日本代表支えたサンウルブズ、終盤戦で痛感した先入観とは。【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
6月30日のブルズ戦(第17節)で通算3勝目を挙げた。(写真:ロイター/アフロ)

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズは初年度に1勝、2年目に2勝、そして3年目となる今季3勝を挙げた。もっとも日本代表の指揮官も兼ねるジェイミー・ジョセフヘッドコーチは、以前からレギュラーシーズン5位以内を目指すと宣言していた。前掲の3年目最下位サンウルブズ、開幕9連敗の裏に「確執」?【ラグビー雑記帳】に続き、総括、展望する。

 

12番が先頭、機能

 選手の入れ替えなどのトラブルにより開幕9連敗を喫し、公式入場者数も次第に目減りさせていたサンウルブズ。本来の設立趣旨にある「日本代表の強化」には、一定の効果を示した。それは、レギュラーシーズンが中断していた6月の代表戦から読み取れる。

 日本代表はグラウンドの左右、中央にフォワードのユニットを配置するポッドという流行の枠組みを採用。あちこちへ人がまんべんなく散り、空いたスペースを見つけてパスやキックを放つ。それはサンウルブズも同様だ。

 今年の5月中旬、サンウルブズはその戦術に沿ってボールを動かす方法に微修正を加えた。接点を経て、端から端へ球を繋ぐ過程で、本来は比較的後ろに立つインサイドセンターがファーストレシーバー(接点から最初にパスを受け取る選手)となる仕組みを試したのだ。

 従来、ファーストレシーバーは司令塔のスタンドオフか中央のポッドに入るフォワードが務めていたが、サンウルブズ参画3年目の田邉淳アシスタントコーチが攻撃を仕切るトニー・ブラウンアタックコーチに「日本のラグビー界では10(SO)、12(インサイドCTB)にいいパッサーがいる」と提案し、実践。より相手を幻惑させられるうえ、一歩後ろに立つスタンドオフへのプレッシャーも軽減するなどの効果を感じ取った。

 この形はそのまま日本代表でも用いられ、イタリア代表戦でのトライに繋がった。2連戦初戦にあたる6月9日の前半18分、敵陣10メートルエリアで左右にボールを振る過程でインサイドセンターのラファエレティモシーがファーストレシーバーになったのは2回。最初の1回目では後ろにいたスタンドオフの田村優に快適なランとパスをさせ、次の場面では1回は左斜め後ろにいたフッカーの堀江翔太にさばいた。

 そして2回目の流れで、受け手の堀江が防御を引きつけて背後へのノールックパスを発動。そのまま左サイドを攻略し、ナンバーエイトのアマナキ・レレイ・マフィのトライを導いた。試合は34―17で勝った。

 攻防の起点となるスクラムでは、長谷川慎スクラムコーチの教える低空飛行のパックが機能。1勝1敗で迎えた23日の3戦目では、2年前の対戦時は押され続けたジョージア代表を向こうに自軍ボールを安定させる。

 後半9分には、相手ボールを押し返したことで得点を演出した。3番手フッカーの坂手淳史は「慎さんとやってきたことを今回のサンウルブズ、さらにその前のサンウルブズ(昨季のスーパーラグビー)の頃から落とし込んで、スーパーラグビーで試しながらやってきた。どんなタイプのスクラムに対しても自分たちのスクラムが組めるようになった」。日本代表で自身の出番がないなかでも、掛け持ちするサンウルブズと代表との強い関わりを実感していた。

「どうしても弱く見られてしまう」

 ジョージア代表を28―0で制したことで、ツアーを2勝1敗で締めた。唯一の黒星となった6月16日のイタリア代表戦の敗因については、スーパーラグビーシーズン中の問題よりも日本代表のツアー中のタスクが多かったと言えそう。イタリア代表が2戦目で強靭なフルバックのマッテーオ・ミノッツイをウイングに配したため、グラウンド端側でボールを失うシーンが増加。事前の宮崎合宿や対イタリア代表初戦前の練習に参加していた国際級レフリー(久保修平氏、クリス・ポロック)がこのタイミングでは参加していなかったことも、微差を生んだか。

「試合前から自分たちのラックが『オフサイド気味』と言われていて、そこへしっかり相手がプレッシャーをかけてきて、相手が優位に立ったな…ということは感じました」

 黒星を喫した直後、日本代表キャプテンでフランカーのリーチ マイケルが言った。密集戦周辺での立ち位置について事前指導を受けた結果、相手の勢いを真に受けてしまったことを悔やんでいた。その他、グレーゾーンでの判定にも四苦八苦していた。

 多種多様なレフリングへの対応力アップは、サンウルブズの課題のひとつでもあろう。今季、ウインドウマンス後の3戦は1勝2敗で終えたが、敗れたゲームではいずれもレッドカードをもらって1人少ないまま試合をしていた。

 特に最終節では、秩父宮での第13節で63―28と今季初勝利を挙げたレッズに、ブリスベンで27―48と惨敗した。

 この日も、背後への戻りが遅いという向こうの弱点を逆手に取りロングキックとチェイスを徹底。ところがスクラムハーフの流大キャプテン曰く、「(秩父宮の時と)強度が違った」。さらに前半37分にオープンサイドフランカーのエドワード・カークがラック上で相手を叩いたとして一発退場となり、続く後半5分、レッズのブラインドサイドフランカーのケイリブ・ティムがサンウルブズの選手を掴んで地面にたたきつけ、そのまま頭突きを食らわせながらも10分間退場のイエローカードのみで済んだ。その他、サンウルブズの好ジャッカルがペナルティーと見なされるなどした。

 リーチは、サンウルブズのブラインドサイドフランカーとしてこんな課題を再確認した。

「試合前も、試合中も、話をしているし、いいレフリーはフェアに見てくれるけど、(サンウルブズは全体的に)どうしても弱く見られてしまうから、スクラムをちょっと押されるだけで相手ボール(サンウルブズの反則)になったり…。難しいですね」

 チーム内での順法精神の徹底を前提としつつも、各レフリーが抱いているかもしれぬ先入観にも対処しなくてはならない、とのことだ。微妙なジャッジにフラストレーションがたまっていたのだろう、日本人指導陣の間でも「日本はフェアにやりすぎ。もっと賢くしなくては」との意見が出ていた。

 アリスター・クッツェー。2012年に南アフリカ協会が選ぶ年間最優秀コーチ賞を得たこの人は、スーパーラグビーのストーマーズを率いていた頃にある工夫を施している。

 当時キャプテンだったスカルク・バーガーとやや折り合いの悪そうなレフリーの関係を改善させるべく、3人で語らう会を設けたのだ。クッツェーは笑った。

「お客様にお金を払って観てもらうプロダクトとしての試合を、皆でよくするんです。選手にとってレフリーは、脅威でもなければコントロールの対象でもありません。フィールドで一緒になって試合をする、仕事仲間です」

 

 今後のサンウルブズがスーパーラグビーというサロンで大きな顔をするには、歴史の積み重ねとグラウンド内外における交渉力が求められそうだ。

(続)

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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