Yahoo!ニュース

3年目最下位サンウルブズ、開幕9連敗の裏に「確執」?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
ブランビーズとの開幕節。流が「ここで勝てていれば」と悔やむ一戦だった。(写真:中西祐介/アフロスポーツ)

 夕方になっても暑さの引かなかった2018年7月15日、都内のホテルでサンウルブズのシーズンエンドパーティーがあった。国際リーグのスーパーラグビーへの参戦3季目を3勝13敗で終えたのを受け、共同キャプテンの1人である流大が出席者を前にマイクを取る。

 悔しさをあらわにした。

「プロチームとしてもっともっと勝ち星を増やして皆さんに喜んでもらいたかったのですけど、なかなかそうはいかず、3勝で終わってしまいました。特にレッズに勝つまではきつい思いもしましたし、自分たちにプレッシャーをかけながらシーズンを過ごしました」

 この国にとっては日本代表候補の強化、統括団体のSANZAARにとってはアジア市場の拡大というメリットを見出されながら結成したサンウルブズは、初年度に1勝、2年目に2勝、そして3年目に3勝と徐々に階段を登っているようにも映る。

 もっとも、公約を果たせなかったのも確かだ。

 流の言葉にある通り、日本代表の指揮官も兼ねるジェイミー・ジョセフヘッドコーチは2017年12月4日の段階でレギュラーシーズン5位以内を宣言していた。内々で設定されていた目標は「5勝」だったともされるが、ジョセフが「5位」を目指すと宣言したこと、実際は「5勝」にも届かなかったことは事実だ。

 第12節まで休止の週を挟んで0勝9敗と苦戦。続く第13節以降は2連勝も、ホームの東京で63―28と初めて下した挙げたレッズにはアウェーのブリスベンでの最終節で27―48と惨敗。ラストゲームでは前半終了間際に退場者が出たことを擁護されるが、これをまったくの不運と言い切れなそうだった(詳細は別記)。

 本来なら日本でもっとも人気のあるラグビークラブになりうるサンウルブズの現在地やいかに。今季の取材成果から検証する。

「カイショウ」がわからない。

 実は腰痛に苦しみながら指揮を執っていたジョセフは、連敗中、不振の要因に「準備期間の短さ」と「怪我人」と挙げていた。折しも国内外のシーズンを掛け持ちする日本代表のメンバーに休暇を与える目的と相まって、週替わりのメンバー構成を余儀なくされていた。

 ただし、指揮官の弁を額面通りに受け取る関係者はわずかだったろう。

 

 3季連続での契約選手は途中加入者を含めると10名。新加入勢にはオープンサイドフランカーのピーター・ラピース・ラブスカフニなど、かねて注目されてきた日本在住のスーパーラグビー経験者などが並んだ。さらにはスタンドオフのヘイデン・パーカーら、ジョセフが2016年まで指揮していたハイランダーズ時代の部下も召集されている。自分がしたいラグビーをしてこの舞台で勝つのに、必要な人材を揃えていたと言える。

 さらに前年より約1週間伸びたプレシーズンキャンプでは、チームワーク強化のための自衛隊訓練を挟んだ。何より1月28日から大分、福岡などでおこなわれるキャンプの前と国内シーズンとの間には、前年度より約1週間長い休息期間が与えられていた。他の日本時コーチは、この準備期間の長期化を喜んでいた。

 確かにスーパーラグビー参加チームの多くが12月から準備している事実を考えると、元ハイランダーズヘッドコーチのジョセフが嘆くのも無理からぬことだ。もっとも日本ではスーパーラグビー終了後の8月から1月まで国内シーズンがおこなわれていること、それに伴い準備期間の確保や選手のコンディショニングが他クラブよりも難しいことは、ジョセフがサンウルブズと契約する前から決まっていたことだ。発足間もないサンウルブズの支援体制に改善点があることと、目の前にいる選手に白星を与えられないことは、別個で考えられるべきと見るのが自然かもしれない。

 ハイランダーズ時代のジョセフは、一時はニュージーランド代表の主力を擁しながら低迷期を経験している。もっともメンバーを入れ替え、アシスタントコーチにトニー・ブラウンを迎えてからは一気に成長。2015年のスーパーラグビーを制している。それゆえブラウンとの二人三脚で指導するサンウルブズでも好成績が期待されたのだが、現実は違った。

 連敗中、サンウルブズのスタッフが興味深い見立てを示していた。

「この先は、ジェイミーがいかに成功したハイランダーズと多国籍のサンウルブズとの違いを理解するかにかかってくる」

 3シーズン目のサンウルブズには日本、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカ、トンガ、サモア、フィジー、韓国、ジョージアと複数の国から選手が集まっていた。

 プレシーズンキャンプの充実ぶりからか、3季連続選出の浅原拓真は「今年はいつもより仲の良いチームになった」と強調。ただしその「仲の良」さがグラウンド上の連携にわかりやすく反映されるには時間がかかった。浅原は続ける。

「ずっと言われていることですが、(毎試合)同じメンバーで戦えない辛さはありました」

 特に呼吸の乱れが顕著だったのはラインアウト。タッチライン際からボールを投げ入れる空中戦で、ジョセフが試合ごとの作戦を立てていたのだが、一時は自軍ボール獲得率7割台と、攻撃機会を失う一因となった。

 球を投げる場所の決めるサインは日本語で出すのだが、ある南アフリカ人選手は冗談交じりに「ジョージア人に日本語を覚えてもらうのは苦労するね」。相手の動きを見て一度出したサインをキャンセルする際には「解消!」と叫ぶのだが、咄嗟に「カイショウ」という「外国語」を聞いてパニックになる海外勢もいたようだ。ラインアウトの混乱は、作戦立案がジョセフ主導からハッティング主導に変わる4月中旬頃まで続いた。ちなみにこの頃は、平時も日本生まれの選手と海外出身選手はしばしば別行動を取っていた。

話す機会、話しかける機会はどう増やした?

 決壊を防いだ一因は、選手の自治にあった。最後の国内試合となったレッズとの第13節を前に、流らリーダー陣の一部と日本人コーチ数名で会食。チーム内でのコミュニケーション量増加を議題とし、翌日以降は流がコーチ陣に選手へより話しかけるよう提案。特にジョセフには、ベンチ外のメンバーへアプローチするよう伝えた。

「チームとして一体感を作れるような取り組みをしたいと伝えました」

 初年度からサンウルブズにいる田邉淳は「最初の方は(選手の泊まる)ホテルは家のようにしようとしていて、ラグビーの話をしなかった。でもそれでは足りないからと、ご飯を食べた後の選手と映像を見ながらフィードバックをするという機会を増やしました」とその変化を語る。

 一方であるリーダー格の1人は、より踏み込んだ言い回しでシーズン初勝利までの助走期間を振り返ったものだ。

「ジェイミーが色んな選手と話す機会が増えたり、逆に選手がジェイミーに話しかける機会が増えたり。最初はジェイミーと選手の接する機会が少なかったのですが、お互いの確執のようなものが取れてきた」

 開幕9連敗のさなか、ブランビーズやライオンズといった上位候補とは接戦を演じている。2018年シーズン序盤戦の最も前向きな点のひとつは、かくも足並みが揃いきらぬなかでもファンを喜ばせる試合ができたことだろう。

(続)

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事