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スペイン代表と「外さない」強さ。経験不足と揶揄された指揮官のマネジメント術と「翼」の重要性。

森田泰史スポーツライター
ボールをコントロールするニコ・ウィリアムス(写真:ロイター/アフロ)

高く帆が貼られた船は、航路を順調に進んでいる。

スペイン代表が、好調だ。EURO2024の本大会出場は決定。来夏にドイツで行われるビッグトーナメントに向け、予選の抽選会でポット1に入る結果を手にしている。

【スペイン代表のドブレ・エストレーモの戦術】

■強いラ・ロハと指揮官の存在

強いラ・ロハ(スペイン代表の愛称)が帰ってきた。そのように考えて、相違ないだろう。

思えば、カタール・ワールドカップでは、ベスト16でモロッコに敗れて大会を後にした。その大会で躍進したモロッコに敗れたとはいえ、満足のいく結果ではなかった。

W杯終了後、ルイス・エンリケ監督の退任が決まった。後任に選ばれたのは、世代別代表で指揮を執ってきたルイス・デ・ラ・フエンテ監督だった。

■難しい時期を越えて

デ・ラ・フエンテ監督は難しい時期に代表指揮官のポストに就いた。カタールW杯での敗退もさることながら、その後、ラ・ロハが“ルビアレス騒動”に巻き込まれることになったからだ。

62歳の指揮官は若手とベテランをうまく融合させるチームを作りながら、スペイン・フットボール連盟を取り巻く問題に対処せざるを得なかった。スポーツ的側面においても、セルヒオ・ラモスの代表招集をめぐって厳しい論調にさらされ、EURO2024予選でもグループステージの2試合目でスコットランドに敗れ暗雲が立ち込めていた。

デ・ラ・フエンテ監督が「良い」「悪い」という話ではない。非常に特殊な状況が、チームを、代表監督を、襲っていたのである。

■経験と気配り

またデ・ラ・フエンテ監督は、トップクラスのチームを率いる経験がないまま、スペイン代表の監督に就任した。ビッグクラブでプレーしてきたような選手たちとの関係性、国際舞台の試合での経験不足というのは、メディアに突かれる格好のネタだった。

だが聡明な指揮官はそれを逆手に取り、チームビルディングを行った。いや、チームビルディングに留まらない。ある代表合宿が終わった際には、料理担当やセキュリティ担当のスタッフを含め、全員の電話番号を聞いて個人的にメッセージを送ったという逸話が残されている。

■選手の招集とマネジメント

“自分が王様である”というトップダウン式ではなく、“皆でひとつに”というボトムアップ式のアプローチを採る。それがデ・ラ・フエンテ流だ。

その力は、選手を招集する際にも、発揮される。ベテランのヘスス・ナバスから、若手のラミン・ヤマルまで、各チームで活躍した選手がデ・ラ・フエンテ監督に呼ばれてきている。年齢や出自に関係なく、ピッチ上で好パフォーマンスを見せている選手に、代表の扉が開かれる。

象徴的だったのは、10月シリーズでのブライアン・サラゴサの招集だ。今季、グラナダで1部デビューしたばかりのヤング・アタッカーを、デ・ラ・フエンテ監督は躊躇なく招集した。呼んでベンチに座らせておくだけではなく、EURO 2024予選のグループステージ第7節のスコットランド戦で後半からピッチに送り出して、終盤の決勝点奪取と勝ち点3獲得につなげてみせた。

調子の良い選手を呼ぶ。「言うは易し行うは難し」で、これを実践できている代表監督は少ない。ただ、そのデ・ラ・フエンテ監督の公平さが、スペイン・フットボール界とリーガエスパニョーラに波及している。“第二のブライアン・サラゴサ”が出てくる土壌は、整っているのだ。

■翼(ウィング)の重要性

無論、選手のマネジメントだけで勝利を得られるほど、現代フットボールは甘くない。“中身”もまた、言わずもがな、重要である。

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スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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