なぜレアルは好調を維持しているのか?ヴィニシウスの“爆発”とクロースの円熟味。
強者の威厳を、示している。
レアル・マドリーが好調だ。リーガエスパニョーラで、首位をキープ。チャンピオンズリーグでは、ベスト4に進出している。
マドリーの選手は、大舞台でこそ、輝く。
その筆頭がトニ・クロースだ。チャンピオンズリーグ準決勝ファーストレグのバイエルン・ミュンヘン戦。先制点を挙げたのはヴィニシウス・ジュニオールだが、それを御膳立てしたのはクロースのロングスルーパスだった。
■横パスの男と揶揄されて
クロースは、一時期、母国ドイツで「横パスの選手」と揶揄されていた。「Querpass-Toni」でググると、1万8500個くらいの検索結果が見つかるらしい。「Querpass」は「横パス」を意味する単語だ。
その横パスの男が、ドイツ・ミュンヘンの地で、見事な縦パスで相手守備陣を切り裂いてゴールをアシストした。「トニ・クロースは鳥瞰できる選手だ。時にスーパースローモーションで見るように、プレーを見ることができる。」とはドイツ人のミヒャエル・ウィッターシャーゲン記者の言葉だ。
「クロースは長年、横パスの選手だと非難されていた。とんでもない。彼は(リオネル・)メッシや(クリスティアーノ・)」ロナウドレベルの選手だ」
シャビ・シモンズ(ライプツィヒ)、ベルナルド・シウバ(マンチェスター・シティ)、ロドリ・エルナンデス(シティ)、ケヴィン・デ・ブライネ(シティ)、コンラッド・ライマー(バイエルン)、レオン・ゴレツカ(バイエルン)、トーマス・ミュラー(バイエルン )…。決勝トーナメントに入り、素晴らしい中盤の選手たちがマドリーと対峙した。だが最も輝いたのは、クロースだった。
■ヴィニシウスの爆発
2013−14シーズン、マドリーはチャンピオンズリーグ準決勝でバイエルンと対戦した。2試合合計スコア5−0でゲームを制したが、敵地アリアンツ・アレーナで2得点と気を吐いたのはC・ロナウドだった。
そして、今季、C・ロナウドを彷彿させるような活躍を見せたのがヴィニシウスである。
ヴィニシウスは、元々、ドリブラーだった。
しかし、カリム・ベンゼマの退団があり、マドリーはカルロ・アンチェロッティ監督がシステムチェンジを決断。【4−3−3】から【4−4−2】に布陣が変更され、ヴィニシウスのポジションは左WGから左FWになった。
プレシーズンの段階から変化は見て取れた。昨シーズン、ヴィニシウスのチーム内でのシュートの割合は14%だった。それがプレシーズン4試合で22%にアップ。アンチェロッティ監督は手応えを感じていた。
これがフェーズ1(ヴィニシウスの左WG→左FW)だとすれば、アンチェロッティ監督はシーズン終盤にフェーズ2を準備した。ヴィニシウスとロドリゴ・ゴエスのポジションを入れ替えたのである。
■配置転換とポジションチェンジ
シーズンが佳境に入り、アンチェロッティ監督はロドリゴを左サイドに回した。ヴィニシウス(左FW→右FW)、ロドリゴ(右FW→左FW)という配置にして、新しく攻撃の形を作り替えた。
この戦術に面食らったのがシティだ。ロドリゴはシティ戦でファーストレグ(1得点)、セカンドレグ(2得点)といずれもゴールを決めている。
近年、マドリーと対峙するチームは、ヴィニシウス対策を講じてきた。 カイル・ウォーカー(シティ)、ロナウド・アラウホ(バルセロナ)といった選手たちがヴィニシウスを封じるために右SBに置かれ、1対1でストップしてマドリーの攻撃力を半減させる狙いを持っていた。
だがヴィニシウスとロドリゴの配置転換で、それを“外す”ことにマドリーは成功している。
「(バイエルンとのファーストレグについて)結果は良かった。だが試合のレベルに関しては、もっと良くできたはずだ。バイエルンは最高の状態を示した。だが我々はそうではなかった」とはアンチェロッティ監督の弁だ。
「我々はロー・ブロックで守ろうとは考えていなかった。しかし、そういった戦い方になった。我々には、明確なアイデンティティがあるわけではない」
明確なアイデンティティはないーー。指揮官はそう、語っている。
裏を返せば、現在のマドリーには、様々な“顔”があるということだ。ポゼッション、ショートカウンター、ロングカウンター…。戦術にバリエーションがある。カメレオン的に戦える、その強みをもってして、アンチェロッティ・マドリーは欧州の頂点を目指す。