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引き寄せられたモラタとアトレティコの「運命」。点と点が線に繋がった移籍が成立。

森田泰史スポーツライター
アトレティコに移籍したモラタ(写真:ロイター/アフロ)

アルバロ・モラタのアトレティコ・マドリーへの移籍が決まった。

出場機会を求めて移籍を志願していたモラタだが、チェルシーとアトレティコの交渉は難航していた。最終的には2020年夏までのレンタルという形で決着がついている。

■揺れるアトレティコス

モラタの移籍に際して、アトレティコスの意見は真っ二つに分かれている。先のヘタフェ戦では、熱狂的なファンが陣取るゴール裏から、クラブに対する疑問が投げかけられた。

「メノス・モラタ、マス・ボルハ」

モラタのような獲得選手ではなく、ボルハ・ガルセスのようなカンテラーノを起用するべきだーー。ディエゴ・シメオネ監督に届くような声で、チャントが飛ばされた。

加えて、モラタに関しては、レアル・マドリーでプレーした過去が事態を煩雑なものにしている。現所属メンバーではフアンフラン・トーレスやフィリペ・ルイス、過去にはアントニオ・レジェス、ホセ・ルイス・カミネロといった選手が、マドリー経由でアトレティコに辿り着いた。彼らもまた、ファンの愛情を勝ち取るのに苦労した。

2017年夏にテオ・エルナンデスがマドリーに移籍した時もアトレティコスは強い拒絶反応を示した。今回はその逆のパターンになるのだが、マドリーのカンテラーノを引き入れようとしたクラブの補強方針に、ファンは不快感を覚えている。

■モラタの挑戦

だがモラタの場合は事情が複雑だ。彼は元々、アトレティコのカンテラーノなのである。

12歳でアトレティコのカンテラに入団したモラタは、15歳までプレー。同世代にダビド・デ・ヘア、コケ、ボルハ・バストンらがおり、ボルハ・バストンとの定位置争いに敗れる形でアトレティコを後にしている。

モラタはその後ヘタフェを経て、フベニールと呼ばれる高校生年代でマドリーのカンテラに入団した。捉え方によっては、自らの意思で退団を決めた選手だ。トップデビュー前で、高額な移籍金で売却されクラブに利益をもたらしたわけではない。そんなモラタの復帰に、アトレティコスは複雑な想いを抱いているのだ。

2010年12月にマドリーでトップデビューを果たしたモラタだが、「BBC絶対主義」が暗黙の了解として成立する中、健全な競争を求めて2014年夏にユヴェントスに移籍した。

2014-15シーズン(公式戦15得点)、15-16シーズン(12得点)と2年連続2桁得点を記録したモラタは、2年ぶりにマドリー復帰を決める。2016-17シーズンには公式戦20得点を記録して、カリム・ベンゼマ(19得点)をゴール数で上回った。

それでも、序列は変わらなかった。結果を出しても、評価は覆らない。業を煮やしたモラタは、「もう戻らない」という決意を固め、そのシーズン終了後に8000万ユーロ(約103億円)という移籍金を置き土産にチェルシーへと移籍していった。

■線に繋がった移籍

「子どものように扱われた。ユヴェントスに移籍する前と何も変わっていなかった」と、モラタは以前マドリー復帰について不満を吐露していた。

そのモラタにとって、今回の移籍は願ってもいないチャンスだ。

モラタの祖父イグナシオが大のアトレティコファンだった。フアンマ・ロペス代理人はアトレティコのアイドルだった。

すべての点と点が繋がり、線になって、モラタをアトレティコに導いた。

「過去は過去だ。変えられない。だけど僕はこれまで歩んできたキャリアを誇りに思っている」とは、移籍決定直前のモラタの言葉である。

変えられない過去ではなく、変え得る未来を見据えて、モラタがスペインに帰還する。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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