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フランスの名手が語る自らの歩み。「父と同じ道に進むことに躊躇いがなかったといったら嘘になる」

水上賢治映画ライター
エリック・ベナール監督

 いまテレビをつけると朝から晩、深夜に至るまで、いわゆる料理や飲食店を扱った、いわゆるグルメ番組が溢れかえっている。

 午前や夕方のニュース番組にも必ず食リポコーナーが用意されているほどだ。

 街を歩いていても、「●●という番組で紹介されました!」といったようなポップが目に入ってくることはもはや日常だろう。

 これは、「食」に関する人々の関心の高さのひとつの表れにほかならない。

 ただ、それぐらい関心を寄せていても、そもそもまで考えることはほとんどないのではなかろうか?

 「この料理はどこどこ地方の名産で」や「この店は創業何年で」といったことぐらいまでは調べたりすることがあるかもしれない。

 でも、「いかにしてレストランは生まれたのか?」「いかにしてこの料理は生まれたのか?」といったことまでさかのぼって考えることないだろう。

 「美食の国」とよく称されるフランスから届いた「デリッシュ!」は、ある料理の誕生に、人々が集うレストランのはじまりに迫ろうとした1作だ。

 ただ、単なるグルメを扱った映画ではない。ひとりの料理人を通し、革命前夜のフランスの時代を、社会を風刺し、現代にも通じる痛快な歴史劇となっている。

 手掛けたエリック・ベナール監督に訊く。

「デリシュ!」より
「デリシュ!」より

父と同じ道に進むことに躊躇はなかったといったら嘘になる

 全三回にわたってインタビューを届けたが、最後に番外編として監督に自身のことについて訊いた。

 エリック・ベナール監督だが、実は父、ジャック・ベナールも映画監督として知られる。

 父と同じ道に進むことに躊躇はなかったのだろうか?

「正直に言うと、なかったといったら嘘になります。

 結果的に、30代半ばの1999年に『Le sourire d clown』という作品で長編映画監督デビューするのだけれど、そこにたどりつくまでにはいろいろな違う道を歩んでいました(笑)。

 『映画監督としてやっていこう』という思いを抱くまでに、すごく時間がかかった、遠回りしてたどりついたといっていいです。

 ただ、もともと僕は書くこと自体は好きで、いつもなにかしらペンを手にしていました。

 政治のジャーナリズムも学んで記事を書いていたし、それから小説を書いたこともあります。

 父はそんな僕とは違って、助監督から監督になったたたき上げで。職人としての監督を目指して実際にそうなった。

 僕は映画監督よりも書く方に興味があって。

 政治や社会の記事を書いたり、あと、映画好きでシネフィルだったので、映画の批評も書いていました。それから、本の翻訳もやっていました。

 そういうことをしながら、一方で、プロジェクトの源泉となりえるとの考えもあって、シナリオも書いていました。

 こうして映画の脚本を書き始め、だんだんキャリアを積む中で、映画作りというものがつかめて。

 なんとなく映画を作ることに自信がついたとき、『監督をやってみてもいいのではないか』と思って初めて作ったのが、1999年に『Le sourire d clown』でした。

 ただ、残念ながらこの作品は成功したとは言い難かった。

 なので、数年またいろいろな経験をして自分なりにいろいろと学び、2作目に挑んで、そこから気づいたら、いま手掛けた長編映画が7本を数えます。

 はじめはちょっと遠ざけていたのですが、ここまで続けられていることを考えると、自分に向いた仕事かなと思っています(笑)」

「デリシュ!」より
「デリシュ!」より

シナリオは、その作品の源泉になる

 監督としてはもとよりシナリオライターとしても現在も活躍中。

 アクション、サスペンス、スリラーなどさまざまなタイプの脚本を手掛け、代表作にはヴィン・ディーゼル主演の「バビロンA.D.」 やリュック・ベッソンソンとの共同脚本となる「ブラインドマン その訓律は暗殺の調べ」などがある。

「さっき、監督は自分に向いている仕事といったけど、シナリオはシナリオでこれもまた僕にはすごく合っている仕事で。

 なにより僕はいろいろなことを知って、それをひとつの物語にすることが大好きだし、さっき言ったようにシナリオは、その作品の源泉になる。

 それってものすごくやりがいがあること。

 ただ、シナリオライターと映画監督って正反対の仕事なんです。

 詳しく説明すると、何時間もかかってしまうので、ここでは説明しきれないんだけど、ほんとうに正反対の立場に立たされるんです。

 だから、いま振り返ると、どちらも理解するにはそれ相応の時間が僕には必要だった。あっという間にマスターしてしまう人もいると思うんだけど(苦笑)。

 僕にはシナリオライターとして独り立ちする時間も、映画監督として独り立ちする時間も、それなりに必要で、どちらもきちっとやれるまでちょっと時間がかかってしまった。

 でも、時間のかかった分、映画監督という仕事のおもしろさも、脚本家という仕事のおもしろさも醍醐味も知ることができた。

 だから、二足のわらじで映画監督とシナリオライターの仕事をこれからも続けていければと思っています」

【エリック・ベナール監督インタビュー第一回はこちら】

【エリック・ベナール監督インタビュー第二回はこちら】

【エリック・ベナール監督インタビュー第三回はこちら】

「デリシュ!」ポスタービジュアルより
「デリシュ!」ポスタービジュアルより

「デリシュ!」

監督:エリック・べナール

出演:グレゴリー・カドゥボワ、イザベル・カレ、パンジャマン・ラベルネほか

監督写真は(c) Charly atelier photographie

場面写真及びポスタービジュアルはすべて(C)2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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