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当時、厨房は完全に男性の世界で女性は蚊帳の外?「これは女性が社会で自身を確立していく物語でもある」

水上賢治映画ライター
「デリシュ!」より

 いまテレビをつけると朝から晩、深夜に至るまで、いわゆる料理や飲食店を扱った、いわゆるグルメ番組が溢れかえっている。

 午前や夕方のニュース番組にも必ず食リポコーナーが用意されているほどだ。

 街を歩いていても、「●●という番組で紹介されました!」といったようなポップが目に入ってくることはもはや日常だろう。

 これは、「食」に関する人々の関心の高さのひとつの表れにほかならない。

 ただ、それぐらい関心を寄せていても、そもそもまで考えることはほとんどないのではなかろうか?

 「この料理はどこどこ地方の名産で」や「この店は創業何年で」といったことぐらいまでは調べたりすることがあるかもしれない。

 でも、「いかにしてレストランは生まれたのか?」「いかにしてこの料理は生まれたのか?」といったことまでさかのぼって考えることないだろう。

 「美食の国」とよく称されるフランスから届いた「デリッシュ!」は、ある料理の誕生に、人々が集うレストランのはじまりに迫ろうとした1作だ。

 ただ、単なるグルメを扱った映画ではない。ひとりの料理人を通し、革命前夜のフランスの時代を、社会を風刺し、現代にも通じる痛快な歴史劇となっている。

 手掛けたエリック・ベナール監督に訊く。(全三回)

エリック・ベナール監督 (c) Charly atelier photographie
エリック・ベナール監督 (c) Charly atelier photographie

現代の女性たちにもメッセージのある作品になったのではないか

 ここまで18世紀の話ではあるが、現代へとつながっている物語であることを語ってくれたベナール監督。もうひとつ男女の関係という点においても現代を意識したと明かす。

「18世紀の厨房というのは、完全に男性の世界で、女性は入ることがほとんど許されなかった。

 この物語では、マンスロンに、素性のわからない謎の女性ルイーズが弟子入りを願いでる。

 当時、女性を厨房に入れるなんてことはもってのほか。ですから、ルイーズはマンスロンに受け入れられない。

 それでも彼女は諦めない。料理人ではなく下働きで入り、マンスロンからきつい仕事をあてがわれてもある目的があることもあって音をあげない。

 そういう中で、マンスロンもはじめは彼女をぞんざいに扱っているのだけれど、意識が変わっていく。自分自身の非を認めて、彼女自身を女性とか男性とかではなくひとりの人間としてみつめられるようになる。

 こういう男女の意識の変化がいまの時代でも必要ではないかと思うんです。

 だから、この映画は、はじめに語ったようにフランスのアイデンティティーなど、いろいろな側面をもった映画だけれど、僕としては女性が社会で自身を確立していく物語にもしたいという考えがありました。実際、そのような現代の女性たちにもメッセージのある作品になったのではないかと思っています」

「デリシュ!」より
「デリシュ!」より

制約や困難は逆手にとって楽しむ

 本作は、いわゆるフランスの歴史劇であり時代劇。はなかなか予算がかかることもあって日本では時代劇が作りづらくなっている現状が何年か前から叫ばれている。フランスはどうなのだろうか?

「わたしはもともとシナリオライターとしてキャリアをスタートさせています。

 シナリオライターとしては、けっこうな数の時代劇の脚本を書きました。

 でも、時代劇を自分で監督して撮るのは今回が初の試みになりました。

 まあ、実は歴史劇というか西部劇を一度やってみたいとずっと思っていたんです。

 ですから、この映画を見ていくと、実は西部劇仕立てになっているところがいろいろあるんです。

 そもそもこれはラストにかかわるのであまり明かせませんが、復讐劇の要素が実はこの作品にはあります。

 これも西部劇の世界ですし、途中で馬車が通り抜けるシーンがありますけど、あれも西部劇によくある場面になります。

 あと、敬愛するジョン・フォード監督の西部劇にオマージュを捧げるようなシーンもあります。

 なので、時代劇であり西部劇の様相がこの作品にはあります。

 今回、挑戦してみて、気づきました。『自分は時代劇を作るのに向いているかも』と。

 というのもわたしは、いまの映画に多い、現実を現実っぽく描くことがちょっと苦手で(苦笑)。

 現実からちょっと遠ざかる、ちょっと昔の話を、絵画のようなグラフィズムで、そこに隠れた意味や比喩を忍ばせて描く方が向いていると、今回気づきました。

 また、時代劇には挑戦したいですね。

 ただ、ご指摘の通り、時代劇は予算がかかる。日本と同様でフランスでもどんどん作りづらい状況になっていることは確かです。

 予算もさることながら、ロケ地探しが難航したり、いい場所があっても許可がおりなかったりといろいろと大変です。

 今回の『デリッシュ!』にしても馬がうまく集まらなかったり、馬車がものすごく高くて限られた日数しか予算の都合上借りれなかったりということがありました。

 ただ、そういう制約や困難は逆手にとって楽しむというかな。

 難しいならば、どうやってクリアするか考える。これはこれで映画作家としては楽しいところで。どうにかクリアした先に新たな表現方法をみつけたりもする。

 こういうクリエイティブな作業というのは僕は嫌いじゃない。ハードルが高いことにチャレンジすることはやりがいがあるし、クリアしたときは喜びもまたひとしおのところがある。

 また、ひとつの時代を描くということは、ひとつの時代と向き合うこと。そこには必ず自分の知らないことがあって、新たな発見がある。

 そういう発見は自分の人生を豊かにしてくれると思うから、大変かもしれないけど、これからも時代劇にチャレンジしていきたいです」

【エリック・ベナール監督インタビュー第一回はこちら】

【エリック・ベナール監督インタビュー第二回はこちら】

「デリシュ!」ポスタービジュアルより
「デリシュ!」ポスタービジュアルより

「デリシュ!」

監督:エリック・べナール

出演:グレゴリー・カドゥボワ、イザベル・カレ、パンジャマン・ラベルネほか

TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

場面写真及びポスタービジュアルはすべて(C)2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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