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グルメサイトの評価や星の数で判断されてしまう料理人たち。映画「デリシュ!」に監督が込めた問題提起

水上賢治映画ライター
「デリシュ!」より

 いまテレビをつけると朝から晩、深夜に至るまで、いわゆる料理や飲食店を扱った、いわゆるグルメ番組が溢れかえっている。

 午前や夕方のニュース番組にも必ず食リポコーナーが用意されているほどだ。

 街を歩いていても、「●●という番組で紹介されました!」といったようなポップが目に入ってくることはもはや日常だろう。

 これは、「食」に関する人々の関心の高さのひとつの表れにほかならない。

 ただ、それぐらい関心を寄せていても、そもそもまで考えることはほとんどないのではなかろうか?

 「この料理はどこどこ地方の名産で」や「この店は創業何年で」といったことぐらいまでは調べたりすることがあるかもしれない。

 でも、「いかにしてレストランは生まれたのか?」「いかにしてこの料理は生まれたのか?」といったことまでさかのぼって考えることないだろう。

 「美食の国」とよく称されるフランスから届いた「デリッシュ!」は、ある料理の誕生に、人々が集うレストランのはじまりに迫ろうとした1作だ。

 ただ、単なるグルメを扱った映画ではない。ひとりの料理人を通し、革命前夜のフランスの時代を、社会を風刺し、現代にも通じる痛快な歴史劇となっている。

 手掛けたエリック・ベナール監督に訊く。(全三回)

エリック・ベナール監督 (c) Charly atelier photographie 
エリック・ベナール監督 (c) Charly atelier photographie 

レストランのコンセプトが生まれていたフランス革命前夜

このころの料理は現代の料理や現代の人々の食の志向とも重なる

 前回は、フランスのアイデンティティを形作るものに迫る作品ができないかと考え、とりわけフランスにおいて大きい影響を及ぼしたフランス革命のころをリサーチ。

 その中で、革命前夜にレストランのコンセプトが生まれていたことを発見し、世界初のレストラン誕生をベースにすれば、「啓蒙思想がフランス革命へつながっていく時代、一般市民と王政、フランスにおいて重要な食について、すべてを描けると思った」とベナール監督は明かした。

 また、調べていく中で、この革命前夜の料理というのは現代の料理や現代の人々の食の志向とも重なるのではないかとも考えたという。

「リサーチを進めていくと、18世紀のフランスの料理の変化というのは、今の料理の進化とすごく似ている。

 いま健康志向で脂っこいものより、さっぱり軽いものが好まれますよね。

 たとえば、肉料理でも、こってりした濃厚なソースではなく、肉のうまみが感じられるさっぱりしたソースで、といった感じで。

 この革命前夜の時代もそうで、その食材そのもののおいしさを最大限に生かすような方向に料理人が向かっている。ソースで味わうというよりも、素材そのものを味わうような料理へと移っていった。

 それから、映画の中でも描いているのだけれど、貴族は贅沢三昧でまあ自らのステイタスを示すこともあったのでしょう。いろいろな食材を遠方から取り寄せていた。

 でも、この時代というのはその土地でとれるものが注目されて。地産地消、近くで採れるものを食べようという、いまのSDG’Sにつながるような流れも生まれている。

 このようにつながることがあって、まさにいま描くにふさわしい題材だと思ったんです」

「デリッシュ!」より
「デリッシュ!」より

マンスロンが置かれる状況は、いまの料理人もさらされていることではないか

 映画の冒頭で、主人公の腕利きの料理人、マンスロンは、主人の饗宴にジャガイモとトリュフの重ね包み焼き「デリシュ」を出すが、これを招待客は嘲笑する。

 そこにも実は、現代へとつながるところがあるという。

「18世紀において、貴族の主人に仕える料理人は、ひたすら料理を複製することが求められた。

 創作は求められず、料理人にはなんのイニシアチブもない。

 その中で、マンスロンは自らが考案したデリッシュを出す。まず、この時点で不服従の罪を犯している。

 それに加え、当時、ジャガイモというのは、教会によって食用ではなく、ハンセン病などの病気をもたらすと断定されていた地中の作物。ジャガイモやトリュフは悪魔の産物と考えられていた。この時代というのは、天国の食べ物という考えを信じていて、空中にいるという要素が多ければ多いほど、神聖な存在でいい食べ物と考えていた。

 だから、ハトなどの鳥は完璧な食材で、地面にいる牛はそれに劣ると考えていた。

 ということでマンスロンは出してはいけない料理を出している。それで彼は聖職者や貴族から嘲笑を浴び、罵倒され、主人にはクビにされてしまう。

 でも、彼自身はわかっているわけです、ジャガイモがひじょうにおいしいこと、最高の料理になること、悪魔の食べ物なんてことはまったくないことを。

 つまり、マンスロンは料理のこと、食材のことを誰よりもわかっていて料理の創造力も豊か。

 でも、その彼が味などなにもわかっていないような連中から誹謗中傷を受けて、料理人としての道を半ば断たれる。料理人失格の烙印を押されてしまう。

 これって、いまの料理人もさらされていることではないかと思うんです。

 よくわからない調査員の判断で、星が決められて、三ツ星もらったらもらったでそれをキープするのが大変で。星が減ったらまた大変な目に遭う。

 いろいろなことをグルメサイトに書き込まれて、その匿名の書き込みだけで店の良しあしが判断されてしまう。

 この冒頭のシーンには、そういうことに対する問題提起をする意味もこめています。

 映画をみてくれた、あるシェフがこのシーンをみて『僕も同じような経験をしたことがあるよ』と言っていました(笑)」

(※第三回に続く)

「デリシュ!」ポスタービジュアルより
「デリシュ!」ポスタービジュアルより

「デリシュ!」

監督:エリック・べナール

出演:グレゴリー・カドゥボワ、イザベル・カレ、パンジャマン・ラベルネほか

TOHOシネマズシャンテほか全国公開

場面写真及びポスタービジュアルはすべて(C)2020 NORD-OUEST FILMS―SND GROUE M6ーFRANCE 3 CINÉMA―AUVERGNE-RHôNE-ALPES CINÉMA―ALTÉMIS PRODUCTIONS

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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