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騒音×クレーム手紙×ルームシェア=どんな物語に? 目指したのは勝手に命名「地味ミュージカル」!

水上賢治映画ライター
創作ユニット「点と」の豊島晴香(左)と加藤紗希(右)  筆者撮影

 昨年9月に開催された<ぴあフィルムフェスティバル>(以下PFF)で観客賞を受賞し、第15回 田辺・弁慶映画祭、第22回TAMA NEW WAVEで入選を果たした「距ててて」は、ともに俳優として活躍する加藤紗希と豊島晴香の創作ユニット「点と」によるユニークなオムニバス形式の物語だ。

 加藤と豊島は、映画美学校のアクターズコースの同期。

 「点と」では、加藤が監督を、豊島が脚本を担い、アクターズコースの同期の俳優仲間とともにオリジナル作品を作り上げている。

 二人については、ユニット結成の経緯や作品制作の裏側について、先日まで5回にわたるインタビュー(第一回第二回第三回第四回第五回)を届けた。

 それに続いて、「距ててて」の作品世界に迫る加藤と豊島へのインタビュー。劇場公開を迎えた二人に話を訊く。(全六回)

導入のパートになる一編「ホーム」

アイデアの出発点はアコーディオンの購入?

 はじめに以前のインタビューでも少し触れているが、本作は、「点と」にとって初の長編映画になる。

 その構成は、いわゆるオムニバス形式で、4つの物語で構成されている。

 そこで明確に章立てになっているわけではないが、ここでは一編一編をピックアップして作品世界を紐解いていく。

 まず形式的には導入のパートになる一編「ホーム」から。

 この章は、本作の主人公となるアコとサンの間にある微妙な関係が垣間見える物語。

 一軒の家で共同生活をしている二人は、アコが几帳面でストイックなのに対し、サンはおおざっぱで自由気ままな性格で小さな衝突が絶えない。

 そんな折、サンが練習しているアコーディオンに対して、近所住人から騒音クレームが入っていることを不動産屋の男が伝えに。

 ここから物語がスタートする。本章のはじまりをこう明かす。

豊島「アイデアの始まりは、ちょっと話すのが恥ずかしいんですけど(笑)、実際にわたしがアコーディオンをヤフオク!で買ったんです。

 『長い人生、老後に何か楽器が弾けたらいいな』という理由で。

 そのことを加藤さんに話したら、『それ映画のアイデアに使いたいね』と言われて、まずそのことが脚本を書く段階で頭の中にありました。

 それから、過去になにかのオーディションで歌う場面があって、実家で練習のために歌っていたら、クレームを入れられたことがあったんです。

 A4の用紙に『お宅の娘さんの声だと思うんですけど、迷惑なんでやめさせてください』とワープロで書かれていて。

 封筒にも入っていない形で、二つ折りにされた用紙がポストに入っていた。

 ただ、無記名で誰かわからない。なので、親がご近所さん全員のところを訪ねて、くまなく謝って回ってくれたんです。

 そうしたら、全員に『いや、歌声が聴こえたことなんてないです』と言われたんです。

 よく考えたら実家は、けっこうしっかりしたマンションでわたし自身、周囲の音とかが耳に入ってきて気になったことはほぼない。

 だから、時間帯だけ気をつけて練習を続けていたんですけど、少ししたら、またクレームの用紙が入っていた。

 めちゃくちゃ怖かったんですけど、一方で、音がどう漏れているのかもわからないし、クレームを入れている人もわからず姿形が見えないので、なんか不思議な現象が起きているような感じもわたしの中にはありました。

 その経験から、騒音でのクレームっていう印象深いエピソードが私の中にあって、今回のストーリーに結びついていったところがあります。

 あと、以前も話した通り、わたしたちの映画作りは、俳優仲間とともにあるので、釜口君が出演することも加味されてできていきました」

加藤「もうひとつ加えると、物語全体にも関わるのだけれど、あのお家で撮影するということも大きかった」

豊島「そうですね、あそこの家を使うことから、物語上のことで決まっていったこともあります。

 たとえば、あそこで独り暮らしはあんまり現実感がない。だったら、二人がルームシェアしているのがいいかなとか」

創作ユニット「点と」の豊島晴香(左)と加藤紗希(右)  筆者撮影
創作ユニット「点と」の豊島晴香(左)と加藤紗希(右)  筆者撮影

勝手に命名しますけど『地味ミュージカル』みたいなことをやれないかと

 また、こういうアイデアもあったという。

豊島「先ほど言ったように騒音という日常の中にある不快なノイズの音がひとつアイデアとしてありました」

加藤「加えて、日常の中にある音楽みたいなものを取り込めたらいいなという思いが元々あって。だったらせっかくヤフオク!で買ったアコーディオンを使おうと(笑)。その流れから、勝手に命名しますけど『地味ミュージカル』みたいなことをやれないかと考えました。

 『いまからミュージカルシーンが始まります!ダンスと音楽をみてください!』というのではなくて、音楽が生活の中にあって、それがリズムとなってその場所や時間や人の感情を表すようなものができないかと。通常のミュージカルとは違うかもしれないけど、生活の中にある音楽とダンスのようなものを映画で描きたい気持ちがあったんです。

 わたしは子どものころからダンスをずっと続けていて。いまも踊り手として作品に出演することもあります。

 ただ、一般的なミュージカル映画は踊りや音楽がきっちり決まっていて、当然ですけど、そうとう踊れる人でようやく成立するようなものが多い。

 それももちろん素晴らしいものだと思うんですけど、一方で自分とは違う、遠い世界の出来事のように感じたりする人もいると思うんです。

 だから、そうではなくもっとささやかで自分のためにある踊りや音楽って、きっとみなさんあると思っていて。

 そういうことを感じられる、音楽とダンスが自分の傍らにあるようなことを感じられるシーンを描ければなと。

 そういう意味での地味ミュージカルなんですけど、そんな感じのものができないかと思いました」

豊島「私もミュージカルが好きなんです。

 なので、加藤さんから『ミュージカル』というワードが出たときに、『あっ、やりたい!』とシンプルに思いました。

 ただ、そうは思ったものの、全然書けなかった(苦笑)。

 特に『点と』で作ってきた作品の流れから考えるとかなり難しく、ちょっといまの力量じゃ無理で。

 音楽を入れることはなんとか成立させることができたけど、歌って踊るまでにはいけなかった」

加藤「そこは今後のテーマということで。これからも考え続けていきたい」

豊島「そうだね。もっとチャレンジをして、自分たちのミュージカルシーンを作ってみたい」

(※第二回に続く)

【「点と」加藤紗希×豊島晴香インタビュー第一回はこちら】

【「点と」加藤紗希×豊島晴香インタビュー第二回はこちら】

【「点と」加藤紗希×豊島晴香インタビュー第三回はこちら】

【「点と」加藤紗希×豊島晴香インタビュー第四回はこちら】

【「点と」加藤紗希×豊島晴香インタビュー第五回はこちら】

「距ててて」ポスタービジュアル
「距ててて」ポスタービジュアル

「距ててて」

監督:加藤紗希

脚本:豊島晴香

出演:加藤紗希/豊島晴香/釜口恵太/神田朱未/髙羽快/本荘澪/湯川紋子

撮影:河本洋介

録音・音響:三村一馬

照明:西野正浩

音楽:スカンク/SKANK

東京・ポレポレ東中野で公開中

オフィシャルサイト:https://hedatetete.themedia.jp/

ポスタービジュアル及び場面写真はすべて(C)点と

<連日トークイベント実施!>

各回、「点と」の加藤紗希と豊島晴香がゲストを迎えてのトークショー実施中。

5月19日(木)には出演者の髙羽快、

5月20日(金)には出演者の釜口恵太も登壇。

以下、トークゲスト予定(予告なく登壇者が変更する可能性あり)

5月16日(月):三浦康嗣(音楽家/□□□主宰)

5月17日(火):玉田真也(劇作家/演出家/映画監督/玉田企画主宰)

5月18日(水):星野概念(精神科医など)

5月19日(木):はましゃか(エッセイスト/モデル/イラストレーター/俳優)

5月20日(金):高橋洋(映画監督/脚本家)

5月21日(土):野本梢(映画監督)

5月22日(日):星野智幸(小説家)

5月23日(月):近藤良平(振付家/ダンサー/コンドルズ主宰)

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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