Yahoo!ニュース

落ち葉で動物を創り出す?顔をコピーしたアート?富田望生と共に知られざる表現者たちに出会う旅へ

水上賢治映画ライター
「日日芸術(にちにちげいじゅつ)」より

 映画「日日芸術(にちにちげいじゅつ)」の作品資料の冒頭には、こう書かれている。

 「ドラマ×ドキュメンタリー×音楽×アール・ブリュット 唯一無二のアートに出会うロードムービー」と。

 まさにその通り。この言葉に集約されているように、俳優・富田望生が本人役で登場し、不思議なメガネに導かれて、見たこともないアート作品をつくる表現者たちのもとへ。ドラマともドキュメンタリーともいえる映像世界の中、パスカルズが音楽をバックに、落ち葉を折りこみ動物を創り出す青年や毎日欠かさずコンビニで自分の顔をコピーする男性など、唯一無二の表現をする個性豊かなアーティストたちに出会うロードムービーが展開していく。

 「アール・ブリュット」という言葉に耳馴染みがない方も多いかもしれない。

 資料を引用すると、「アール・ブリュット」とは、「フランスの画家ジャン・デュビュッフェによって1945年に提唱された芸術の概念。『生の芸術』という意味で、英語では『アウトサイダーアート』とも称されている。その定義は厳密に示すのは難しいが、既存の美術や流行などに左右されず、衝動のままに表現した芸術を指す。アーティストの中には、知的障害や精神障害を抱えている人も多く、福祉施設や自宅で人知れず創作しているため、創作の様子や独創的な作品は今まであまり知られてこなかった。近年は福祉施設を中心に日本各地で展覧会が開かれており、2010年にパリのアル・サン・ピエール美術館で<アール・ブリュット・ジャポネ展>が開かれるなど、日本のアーティストは海外でも注目を集めている」という。

 このような前置きを書き連ねると、なんだか小難しく感じるかもしれない。が、その心配は無用だ。

 案内人の富田望生と同じように、わたしたちも独創性をもったアーティストたちと彼らの誰もまねできない作品に出合えばいい。アートだからといって、変に身構える必要はない。

 なぜなら、改めてアートというものが、ありふれた日常の中にあって、ありきたりな言葉かもしれないが、わたしたちの日々の暮らしを、心を、豊かにしてくれる、ひじょうに身近で親しみを覚える作品ばかりだからだ。

 そんなすばらしき表現者たちの創作に立ち会ったのは本作が映画デビュー作となる伊勢朋矢監督。

 ご存じの方もいるかもしれないが、これまで手掛けてきたEテレの「no art, no life」「ETV特集 人知れず 表現し続ける者たち」、そして「富田望生の日日是芸術」が一つ結実した形となって本作「日日芸術(にちにちげいじゅつ)」が生まれた。

 その制作の過程を伊勢監督に訊く。(全五回/第一回)

伊勢朋矢監督
伊勢朋矢監督

 さきほど触れたように伊勢監督はこれまで「no art, no life」「ETV特集 人知れず 表現し続ける者たち」、そして「富田望生の日日是芸術」とアール・ブリュットのアーティストに焦点を当てたテレビ番組を手掛けている。

 「アール・ブリュット」との出合いをこう振り返る。

「いまもう退職されたのですが、NHKの牧野望プロデューサーから声をかけられたんです。

 牧野さんとはNHK BSプレミアムでいまも放送されている『新日本風土記』でご一緒していて。

 確か2015年か、2016年ぐらいと記憶しているのですが、あるときに聞かれたんです。

 『アール・ブリュットに興味はありませんか?』と。

 その場で、『興味があります』と答えたんですけど、それには理由がありました。

 代島治彦監督が2006年~2011年にかけて発表した全10巻のDVDシリーズ『日本のアウトサイダーアート』という作品があるのですが、僕はこの作品に編集マンとして携わっていたんです。

 フリーのディレクターとして駆け出しのころだったのですが、『アール・ブリュット』のアーティストに焦点を当てたこのDVDの制作で、編集作業がメインではあったんですけど、一度だけ関西の方に撮影取材にも行きました。

 僕にとってはひじょうに貴重な体験で、ここでのアートとの出合いがのちに『no art, no life』を制作することにつながっていったところもありました。

 で、牧野さんから声をかけられときに、『日本のアウトサイダーアート』のときのことを思い出して、気づいたら『ぜひやらせてください』と口に出ていました(苦笑)」

「日日芸術」より
「日日芸術」より

「アール・ブリュット」のアーティストたちを取材し、番組に

 そこから「アール・ブリュット」のアーティストたちを取材。

 2017年にNHK Eテレで放送され、第54回ギャラクシー賞テレビ部門 2月月間賞に輝いた「ETV特集 人知れず 表現し続ける者たち」を発表する。

 それに続いて、翌年の2018年には「ETV特集 人知れず 表現し続ける者たちⅡ」が放送。同番組も第55回ギャラクシー賞テレビ部門奨励賞、第70回イタリア賞特別表彰(テレビ・パフォーミングアート部門)に輝くなど大きな反響を呼ぶ。

 2019年には、レギュラー番組の「no art, no life」の放送が開始。2020年には「ETV特集 人知れず 表現し続ける者たちⅢ」と、アール・ブリュットのアーティストたちに焦点を当てた番組を次々と発表していくことになる。

「そうですね。

 ほんとうに全国各地に、人知れず表現し続けているアーティストの方がいる。

 興味をもって撮影を続けていたら、気づけば、次々と番組となって発表することになっていました。

 その延長線上に、今回の映画『日日芸術』がある感じです」

(※第二回に続く)

「日日芸術」ポスタービジュアル
「日日芸術」ポスタービジュアル

「日日芸術(にちにちげいじゅつ)」

監督・脚本|伊勢朋矢

出演|富田望生 齋藤陽道 パスカルズ 伊勢佳世 万里紗 窪瀬環

出演アーティスト|渡邊義紘 ミルカ 高丸誠 井口直人 自然生クラブ 

杉本たまえ 曽良貞義 小林伸一

作品提供|尾澤佑貴 福井誠 木村全彦 青木尊 井村ももか 澤田真一

音楽|パスカルズ 題字|永畑風人 脚本監修|青木研次 

撮影|水野宏重 照明|高坂俊秀 音声|永峯康弘 美術|野々垣聡 

衣裳|伊達環 ヘアメイク|片桐直樹  

助監督|植木咲楽 音響効果|細見浩三 VFX|堀江友則 

編集|太田一生 制作デスク|加藤明香 

宣伝アート|遠藤郁美 プロデューサー|牧野望 伊勢真一

公式サイト https://planetafilm.co.jp

新宿 K’s cinema(ケイズシネマ)にて26日(金)まで公開中、以後、全国順次公開予定

写真はすべて提供:Planetafilm

<新宿「K’s cinema」にて、初日舞台挨拶 & 上映後トーク決定!>

4/21(日) 堀口紗与(パスカルズ)

4/22(月) 永畑風人(パスカルズ)

4/23(火) 万里紗(俳優)

4/24(水) 原さとし(パスカルズ)

4/25(木) 松永希(歌手)

4/26(金) 坂本弘道(パスカルズ)

※連日、伊勢朋矢監督も登壇

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

水上賢治の最近の記事