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女性同士の微妙な関係の距離を見つめて。観客の心をとらえた初長編が生まれるまで

水上賢治映画ライター
創作ユニット「点と」の豊島晴香(左)と加藤紗希(右)  筆者撮影

 昨年9月に開催された<ぴあフィルムフェスティバル>(以下PFF)に入選し、見事に観客賞を受賞した「距ててて」。

 その後も同作は、第15回 田辺・弁慶映画祭、第22回TAMA NEW WAVEで入選。

 いわゆる若手映像作家の登竜門とされる国内コンペティションへの出品が決まり、注目を集めている。

 同作を作り上げたのは、ともに俳優としても活動する加藤紗希と豊島晴香。

 映画美学校のアクターズコースの同期である二人は、加藤が監督を務め、豊島が脚本を担当するスタイルの「点と」という創作ユニットを結成。

 「距ててて」はそのユニットによる映画で、加藤にとっては初長編監督作品になる。

 ちなみに前作にあたる短編「泥濘む」もPFF2019に入選。どちらも映画美学校アクターズコースの同期の俳優仲間とともに作り上げている。

 現在劇場公開に向けて動きはじめた二人にユニット結成からここまでの道のりを訊くインタビュー(第一回第二回第三回)の第四回へ。(全五回)

同じメンバーで似通った作品ではなく、まったく違う作品を作りたい

 ここまでは2人が映画作りを始めたきっかけから、ユニットでの創作などについて訊いてきた。

 今回は、初の長編映画「距ててて」の創作過程についての話から。

 まず第一作「泥濘む」を経て、次回作となったとき、なにか描いていたビジョンはあったのだろうか?

加藤「私の中では2つ大きく思い描いていたことがありました。

 まず同じメンバーで似通った作品ではなく、まったく違う作品を作りたい思いがありました。

 演劇であれば劇団の同じメンバーで別の戯曲に挑むというのは珍しくない。

 ただ、映画だと同じ出演者が集まって、まったく別の作品を作るといった話はあまり聞いたことがない。

 そういう意味で、ユニークな試みになると考えました。

 ただ、それ以上に俳優としては、1つの役のイメージでは染まらない、多様な面を見せたい気持ちがある。

 メンバーそれぞれにひとつの役では収まらない表現者としての魅力がある。

 『泥濘む』でわたしたちがやろうとしたのは、彼らの持つ様々な魅力の中の一部分を役に投影しようという試みでした。当然、彼らにはまだまだ演者として多様な魅力があるし、もっとさまざまな役を演じられるのではないか思っています。

 なによりわたし自身が、『泥濘む』に出演した全員が、まったく違う役柄を演じるところをみたかった。

 それで、同じメンバーで、まったく違う作品を作ることは絶対にやりたいと思いました。

 それともうひとつ、『泥濘む』(※25分)よりも長い尺の作品、できれば長編映画に挑戦したいとの気持ちがありました」

オムニバス形式での長編映画になった理由

 その中で、どうやって作品は立ち上がっていったのだろう?

 これは作品をみてもらえればわかるが、『距ててて』は、オムニバス形式での長編映画になっている。

加藤「次回作を作ろうとなって、豊島さんと話し合いをしているときに、知り合いに古民家を貸している人がいるという話が出た」

豊島「茨城のほうにいる知り合いなんですけど」

加藤「で、そこをお借りして、みんなで集まって、今回は都会ではなく、田舎で映画を作ってみようみたいなところからまず始まりました。

 ただ、そうこうしているうちにコロナ禍になってしまって……。

 出演メンバーであるアクターズ・コースの同期で集まることはおろか、映画の撮影自体も難しいような状況になってしまった。

 そういう状況になって、どうやったら企画を成立させることができるのか、根本から考え直さなければいけないことになってしまった。

 そのとき、豊島さんから出たアイデアが『オムニバスにしてはどうだろう』ということだったんです。

 で、わたしと豊島さんは必ず現場にいるということで。

 わたしと豊島さんが演じるキャラクターが物語を通して登場して、各話に出演メンバーに何人か来てもらう、そんな何章かのオムニバス構成にしたらどうかと。

 わたしは『なるほど。それだったら、撮影現場の人数も減らせて感染対策を少しでも強化できる』大人数で一気に集まることを避けつつ、撮影も出来るように考えられるのではないかと。

 それでたまたま同じころ、エリック・ロメール監督の『レネットとミラベル/四つの冒険』を見ていたんです。

 この作品は、二人の女性がメインで、4章の構成。その作品がすごくおもしろかったので、こんな映画があるよと伝えて」

豊島「参考にしたような、しないようななんですけど(笑)」

加藤「そんな感じで、脚本作りが始まりました。

 前回は残念ながら誘うことができなかったんですけど一緒にやりたい同期がもうひとりいて、彼女にも加わってもらって、出演メンバー全員から意見をもらったりして、豊島さんに脚本を書いていってもらいました」

「距ててて」より
「距ててて」より

観客賞をいただけたことで、『またやっていいんだな』みたいな

気持ちになりました

 作品の内容についての詳細は、劇場公開が決まったとき改めて話を聞きたいので、ここでは軽く触れることにとどめるが、作品は、一軒家に同居するアコとサンを中心にした物語。

 遠くなったり、近くなったり……。二人の微妙な関係の距離が、彼女たちに関わるユニークな登場人物とともに描かれ、最後はほんとうに予想もしない世界へと誘われる。

 そして、先で触れたように国内の映画祭で次々と入選。<第43回ぴあフィルムフェスティバル>の<PFFアワード2021>では見事に観客賞に輝いた。

 このPFFでの受賞はどう受けとめているのだろう?

加藤「ほんとうにありがたいのひと言に尽きます。予想していなかったのでびっくりしました。

 といいながら賞は少し意識していました。

 というのも、PFFは『泥濘む』に続いての入選ということもあって、周囲から『今度は賞をとれるんじゃない』とかよく言われて、意識したくなくても意識しちゃう状態になっていたんです(苦笑)。

 途中からは、『こんな応援してくれる人がいらっしゃるのに、何も受賞できなかったら申し訳ない』といったような気持ちが出てきて、勝手にプレッシャーを感じていました。

 ですから、受賞したときはびっくりでしたけど、ちょっと安堵したところもあります。

 そして、なにより『観客賞』ということでオンラインや実際に会場でみてくださった方が『いい』と思ってくれるような作品になっていたんだということが、ほんとうにうれしかったです」

豊島「わたしもびっくりしました。

 基本的にわたしはすごいネガティブ思考なので、受賞を逃してもがっかりしないように自分に防御線を張っていたというか。

 本音では受賞できればと思っていましたけど、逃したら逃したで仕方ないと諦めがつくよう、ある意味、期待しないでいたんです。ですから、よけいに驚きの度合いが高かったです(笑)。

 そして、同時に自信をいただいたというか。観客賞をいただけたことで、『またやっていいんだな』みたいな気持ちになりました。

 観客賞は、まさに映画を見てくださった方の声。

 『泥濘む』のときにも感じたことですけど、自分たちの作品に興味をもってくれたり、『おもしろい』と言ってくれる人が少なからずいる。

 そのことを感じられたことは自信になるし、これからも映画を作る勇気をくれる。

 ほんとうに投票してくださった一人一人に感謝です」

加藤「ほんとうに、ほんとうに大感謝です」

豊島「さっき加藤さんも言いましたけど、ありがたいのひと言に尽きます」

(※第五回に続く)

「距ててて」より
「距ててて」より

「距ててて」

現在開催中の<第43回ぴあフィルムフェスティバル in 京都>で上映!

16日(日)11:00~

加藤紗希、豊島晴香、登壇予定!

<第43回ぴあフィルムフェスティバル in 京都>

会期:1月8日(土)~16日(日) ※11日(火)は休館

会場:京都文化博物館(京都府京都市中京区東片町623−1)

タイムテーブルやチケットなどの詳細は

「第43回ぴあフィルムフェスティバル in 京都」公式サイトへ

→ https://pff.jp/43rd/kyoto/

場面写真はすべて(C)点と

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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