ともに女優としても活躍中！注目の女性創作ユニットが目指す先、そして国内映画祭で話題の初長編が公開へ

水上賢治

映画ライター

2022/4/30(土) 8:01

　先月９月に開催された＜ぴあフィルムフェスティバル＞（以下PFF）に入選し、見事に観客賞を受賞した「距ててて」。

　その後も同作は、第15回田辺・弁慶映画祭、第22回TAMA NEW WAVEで入選。

　いわゆる若手映像作家の登竜門とされる国内コンペティションへの出品が決まり、注目を集めている。

　同作を作り上げたのは、ともに俳優としても活動する加藤紗希と豊島晴香。

　映画美学校のアクターズコースの同期である二人は、加藤が監督を務め、豊島が脚本を担当するスタイルの「点と」という創作ユニットを結成。

　「距ててて」はそのユニットによる映画で、加藤にとっては初長編監督作品になる。

　ちなみに前作にあたる短編「泥濘む」もPFF2019に入選。どちらも映画美学校アクターズコースの同期の俳優仲間とともに作り上げている。

　二人にユニット結成からここまでの道のりを訊くインタビュー（第一回・第二回・第三回・第四回）の最終回となる第五回へ。（全五回）

こんなことになるとは想像していなかった

　ここまでユニット結成の経緯や映画祭の反応などについて話してもらったが最後は、いま、そしてこれからの活動について訊いた。

加藤「映画製作もそうなんですけど、やったことのないことにトライしてみる。チャレンジすることをわたしは人生においてすごく大切にしたいと思っているんです。

　わたし個人は元々、素敵だなと感じた人と一緒に、自分が興味のあることややってみたことのないことに挑戦できたらという思いがあります。

　というのも、誰かと一緒にやってみると、自分の想像を超えたところにいけることがある。

　まさに＜点と＞の活動がそうで、豊島さんの書くものがおもしろいから、一緒に創作したい、そしてそれを誰かに見てほしい、知ってほしいと思ったのがそもそものはじまりで。

　アクターズコースの同期も、それぞれ個性があって素敵で、一緒にお芝居をやりたかった。さらに、せっかく一緒にやるなら、観る人に彼らの魅力をもっと知ってもらえたらと思いました。

　それがわたしの映画作りのベースになっています。

　そして、発表した映画が映画祭で上映され、いま劇場公開を迎えようとしている。

　こんなことになるとは想像していなかった。実は、撮影していたときにはすでに目標に掲げてはいたんですけど。（笑）」

自分が想定した人生じゃ完全になくなっています（笑）

豊島「わたしも自分が想定した人生じゃ完全になくなっていて（笑）。想定外のことが起こっている感じです。

　少なくともここ数年は、『今年１年はこういう過ごし方になるかな』と思っていたところとはまったく違うところに気づいたら立っているような１年になっています（笑）。

　おそらく３～４年前の自分が、いまのわたしをみたらびっくりすると思います。『なにそれ、どういういこと』と。

　それぐらい当時は、自分が映画を作って劇場公開するなんて想像もしていませんでしたから。

　いまは加藤さんと同じで、なにかに挑戦してみるとおもしろいことが起こるものだなと思います。

　わたしたちみたいに俳優の発信で、ゼロからの映画作りをしてみるのも楽しいと思います」

加藤「俳優さんが監督することは珍しくないですけど、わたしたちみたいに俳優同士で監督・脚本をそれぞれ担当し、キャストにも製作チームの一員として現場の準備や運営含め参加してもらうことってあまりないと思うので、一度やってみると映画に対しての思いが変わったりして、おもしろいかもしれないですね。

　でも、ありがたいことに、けっこう俳優の方から連絡をいただいているんです。『一緒に作品を作ってみたいです』と」

豊島「演劇にしろ、映画にしろ、なにか特別なことじゃなくて、日常の延長線上で作ってみてもいいんじゃないかなと」

加藤「そうだね。

　去年とおととしと、二人で福島の復興のプロジェクトに関わって、町の人たちとドラマを作るっていうことをしたんです。

　そこでは、わたしたちは裏方もやるし出演もする、加えて東京から俳優さんも呼んで出演してもらって、っていうやり方だったんですけど、その町に住んでいたり出身だったりする演技をしたことのない方たちも一緒に演じるようなプロジェクトで。そんな風に経験も年齢もバラバラな方たちと一緒に作り上げていったんですけど、すごくおもしろかったし刺激的な時間だった。

　最初は、こういうドラマがやりたいっていうオファーをもらって、それを受けてわたしたちが大まかな脚本を用意して、演出は当日にわたしが付けちゃったりって感じだったんです。

　でも、わたしとしてはそれで終わらずに、町の人たちが自分たちで作ってみるという風になってくれたらいいなと思って。

　市民劇団みたいなの素敵じゃないですか。

　そうしたら、ほんとうに町の人たちだけで、ひとつ作品が生まれたんです。実はその作品、公開はされていないんですけど、皆さんがめちゃめちゃ楽しそうで生き生きしてて。（笑）あーやって良かったーって思いました。

　こういうことに＜点と＞の活動は寄与できていけたらとも思っています」

豊島「そうですね。

　あとやっぱり、どんな人でも丁寧に見つめたら、めちゃめちゃ面白い唯一無二の存在だって言いたい気持ちがあって。

　そのことをわたしもおそらく加藤さんも信じている。

　そういう、人ときちんと向き合ったものづくりを今後もしてきたいと思っています」