ヨーロッパの名作を紹介して32年。セテラ・インターナショナルが届ける胸ときめく映画の数々を

『不機嫌なママにメルシィ!』より

 映画業界において欠かせない存在でありながら、あまり知られていない存在といっていいのが配給会社だ。

 配給会社は、外国映画ならば、作品を買い付け、日本全国の映画館に上映を依頼し、映画が公開されると、そのあとはソフト化からテレビ放送まですべてを手掛ける、いわば映画界の黒子的存在といっていい。

 とりわけ日本の映画界に大きく貢献しているのが、独立系配給会社だ。日本ではヨーロッパはもとよりアジアやそれこそ映画産業がさほど盛んでない国の作品がミニシアターを中心に公開されることが珍しくないが、これは独立系配給会社の存在あってのこと。映画祭をめぐり独自の視点で作品を買い付け、日本公開に結びつける。それは海外の注目の映画作家を日本に紹介する大きな役割も果たしている。独立系配給会社の存在なしに、日本における映画の多様性はないといっていい。それから、世界のトップをゆく映画作家たちの作品が当たり前のように公開されることもないといっていいだろう。

 このコロナ禍でミニシアターの危機が叫ばれるが、それは主にミニシアターに作品を配給している独立系配給会社も変わらない。その中で、コロナ禍を乗り越えようと独立系配給会社が集まり「Help! The 映画配給会社プロジェクト」をスタート13社が配給会社別にベストセレクションといっていい豪華な映画見放題パックの配信を始めている

 今回は、セテラ・インターナショナルの見放題配信パックをピックアップ。山中陽子代表に作品にまつわるあれこれから、実際に会った監督らとのエピソードなどお聞きし、その魅力に迫った。

山中陽子代表 提供:セテラ・インターナショナル
山中陽子代表 提供:セテラ・インターナショナル

独立系配給会社では異色?良質なエンターテインメント作品を届ける

 独立系配給会社の特色のひとつにあげられるのが、作家性の強い監督の作品を継続して配給していること。「この配給会社といえば、この監督」と特定の映画監督と紐づくイメージをもった独立系配給会社は少なくない。また、そうなると、おのずと作品もいわゆるアート系映画が中心になる。

 その中で言うと、セテラ・インターナショナルは異色の存在といっていいかもしれない。作家性のある監督の作品も数多く紹介している。でも、それはセテラの場合、結果論。あくまで作品のクオリティ第一主義のもと、エンターテインメント性と社会性が隣り合っている、多くの人が笑ったり喜んだり感動したりできるような作品を配給している。

「各配給会社は、みんな特色があるんですけど、これだけコメディ映画、しかもヨーロッパの良質のコメディ映画を配給しているのはセテラぐらいかもしれません。今回の各社の配信パックを見回して、改めて思いました(苦笑)」

 現在、全国公開中のセテラ配給作品『最高の花婿 アンコール』『お名前はアドルフ?』(※どちらも別途に山中代表のインタビュー記事あり)もコメディ。配信パックの中にも、いくつかコメディが並ぶ。そのひとつが『不機嫌なママにメルシィ!』だ。この作品は、ギョーム・ガリエンヌが一人二役で主演、監督、脚本も担当。自伝のストーリーで大ヒットした舞台劇を自ら初監督で映画化している。その年のフランスのアカデミー賞にあたるセザール賞で5部門制覇し、フランスで300万人動員する大ヒット作になる。

おぼっちゃまの俳優が半泣き状態に?

 公開時には、ギヨームが来日。その際にこんなことがあったという。

「映画でも描かれているんですけど、彼はものすごい大富豪のおぼっちゃまなんです。それで、当時、日仏学院が取材場所を提供してくださったんですね。当初は院長室か応接室かをお借りして取材を行う予定だったんですけど、そのお部屋の都合が悪くなって、普通の学生たちが使っている教室でやることになってしまった。

 そうしたら、ギヨームがショックを受けてしまって、『きれいなホテルの部屋ではなくて、こんな教室でやるの』と半泣き状態になってしまった(苦笑)。急に場所を変更することもできないので、一生懸命なだめて、なんとか乗り切ったんですけどね。

 ほんとうにおぼっちゃまで、自分で動くことがないといいますか。たぶん、なんでも周りの人がやってくれることになれているので、悪気はなく、あれがほしい、これがほしいとすぐ人に頼む。自分の気に入らないことがあったりすると、時々癇癪を起こすんですけど、駄々っ子と同じでしばらくすると落ち着く。彼のお世話係と化して飛び回っていた記憶があります(笑)」

日時のギヨーム・ガリエンヌ 提供:セテラ・インターナショナル
日時のギヨーム・ガリエンヌ 提供:セテラ・インターナショナル

 こうしたコメディだけではない。もちろん作家性の高い作品も多く配給している。

「作家性の高いものも、好きで多く手がけています。

 ひとりの映画作家の映画を、どんなに興行的に難しくても日本で配給し続けることは重要。たとえばですけど、大ヒットした『パラサイト 半地下の住人』のポン・ジュノ監督の作品をずっと配給し続けたビターズ・エンドさんとか、すごく尊敬しています。

 ただ、わたしの場合は、あくまで作品単体で判断することが第一。もちろん配給した監督の作品は、気にかけて次回作が完成したら必ず見ます。でも、配給した作品と比較して、ちょっとパワーが落ちていたりすると、どうしてもゴーサインを出せない。それでここまでは、1作だけというケースが多くなっちゃっています(笑)。

 もちろん映画監督たちのことは応援しています。でも一方で、映画は観客のものでもあると思うんですね。だから、劇場に足を運んでくださる、観客のみなさんが心から喜んでくださる作品を届けたい。その気持ちがわたしの中に第一にあります」

フランス注目の才能、アルノー・デプレシャンとは知らずに

 とはいえ、セテラにも所縁の深い映画監督はいる。フランスのアルノー・デプレシャンはそのひとりだ。今回の配信パックには『あの頃エッフェル塔の下で』が入っている。

「はじめて配給したアルノー・デプレシャンの作品は1996年の『そして僕は恋をする』。この年のカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出されていて現地で見たんですけど、大好きな(フランソワ・)トリュフォーの再来をどこか感じさせる作品で、しかも何か新しさを感じました。インテリ学生や先生たちが登場するすごくパリらしい物語も素敵で、もう直感で即買い付けることを決めてしまったんです。

 で、実はこの時点ですでにデプレシャンは世界的に注目の映画監督で期待の人でした。日本でもぴあフィルムフェスティバルで2作が上映され、来日もして、映画通の間ですでに名が知れていた。でも、お恥ずかしながら、この時点でわたしはデプレシャンのことをまったく知らなかったんです(苦笑)。デプレシャンとは関係なく作品を買い付けていた。

 ですから、日本に戻ったら驚きました。すでにわたしが「デプレシャンの新作を買ったらしい」というのが映画業界で流れていて、フランス映画好きのシネフィルの方々の界隈で『デプレシャンの新作がついに日本公開される!』と話題になっていた

 数々の映画の字幕翻訳を手掛けられた寺尾次郎さんにも『よく買った』とお褒めの言葉をいただきました。わたしはそんな考えは一切なかったんですけどね(笑)。

 それでデプレシャンをブランドにしようと頑張って、『魂を救え!』と『二十歳の死』とあわせてデプレシャン映画祭まで開催しました。

 デプレシャンの作品は次の『エスター・カーン』も配給して、それからしばらく離れていたんですけど、2015年に配給したのが『あの頃エッフェル塔の下で』です。

 『あの頃エッフェル塔の下で』は、『そして僕は恋をする』の前のストーリー。これもカンヌ国際映画祭で見たのですが、『そして僕は恋をする』を初めて見たときの感動が甦ってきて、こう思いました。『これはセテラが配給しないと』と。

 この映画のプロモーションでデプレシャンが何度目かの来日をしたのですけど、再びセテラが配給したことをとても喜んでくれて、すごく嬉しかったです。振り返ると、彼とは20年以上のお付き合いになります。セテラが唯一長いつながりのある監督です」

『あの頃エッフェル塔の下で』より (C)JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS
『あの頃エッフェル塔の下で』より (C)JEAN-CLAUDE LOTHER - WHY NOT PRODUCTIONS

 ただ、たとえ1作限りであっても、たとえばイタリアの名匠、フェルザン・オズペテク監督の『あしたのパスタはアルデンテ』など、セテラが配給しなければ公開されなかった名監督の良作は少なくない。

 ロシアの巨匠、アレクサンドル・ソクーロフの『ファウスト』もその1本といっていいだろう。

「『ファウスト』は2011年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞しているんですけど、同年のトロント映画祭でこの作品の試写があって、スタッフのひとりにお願いされて見に行ったんです。

 ソクーロフの映画はそれまで2、3本は見たことがあったのですが、正直なことをいうとセテラとは無縁の大監督であり映画だと思ってたんです。しかも、金獅子賞だし、これはハードルが高すぎるだろうと。

 ただ、ゲーテのドイツ文学としての『ファウスト』は好きでしたから、とりあえず見ておこうと思ったんです。

 で、見ましたら、もうびっくりするぐらいすばらしい。トロントで見たほかの映画がすべて記憶からすっ飛ぶぐらい、心を奪われてしまいました。

 ソクーロフの作家性も存分に発揮されているんですけど、この作品はエンターテインメント性もひじょうに高い。役者の演技もすばらしい。それで、『これはやろう』と決めました。

 セテラがこれまで配給してきた作品とは、かなり違う異色作なので、社員もみんなびっくりしてました。『ほんとですか』って」

『ファウスト』より (C)2011 Proline-Film,Stiftung fur Film-und Medienforderung, St.
『ファウスト』より (C)2011 Proline-Film,Stiftung fur Film-und Medienforderung, St.

ヨーロッパのクラシック映画もこの機会に

 また、セテラが力を入れているのが往年のヨーロッパのクラシック映画。山中代表は、フランスの名優、ジェラール・フィリップのエキスパートでもある。今回の配信パックにも当然ラインナップされている。

「ジェラール・フィリップは、わたしが映画の仕事をはじめてすぐに雑誌でみつけて、『こんなスターがいたんだ』と心を奪われて、そのとき見ることができた出演作をまずは全部見たんです。でも、日本でビデオ化されていない作品があったので、それを自分で権利を買って、映画祭をやったら『自分も見られる!』というのが事の始まり。それから権利の買えるものは買い続けて、これまでに5回かな、6回かな、ジェラール・フィリップ映画祭を開催しています(笑)。

 2022年は、ジェラール・フィリップがとうとう生誕100周年になるんです。

 生誕100年まで、よもやわたしがセテラをやっているとは夢にも思っていなかった。だから、生誕90年のときに、『ジェラール・フィリップ 生誕90年 フランスの美しき名優』という立派なブックレットを出したんですよ。おそらく生誕100年まで会社はもたないだろうと思って(笑)。

 それがあともう2年後まで来てしまったので、これはやるしかないなと思っています。

 わたしは、ジェラール・フィリップと1番つながりの深いのはルネ・クレール監督で、ジェラール・フィリップのことを1番理解していた監督はルネ・クレールだと思うんですね。実際、本人たちもお互い生涯の友達と言っている。

『夜ごとの美女』より (C)1952 GAUMONT (France) / RIZZOLI FILMS (Italie)
『夜ごとの美女』より (C)1952 GAUMONT (France) / RIZZOLI FILMS (Italie)

 それでジェラール・フィリップ主演のルネ・クレール監督作品ということで、今回の配信パックでは『夜ごとの美女 デジタル・リマスター版』と『悪魔の美しさ デジタル・リマスター版』を入れました。

 ちなみに今回のパックには入れなかったんですけど、『夜の騎士道』もあって、4Kで来年上映しようと考えています」

『悪魔の美しさ』より  (C)1950 Gaumont - Universalia Produzione
『悪魔の美しさ』より (C)1950 Gaumont - Universalia Produzione

 クラシック映画に力を入れる理由をこう明かす。

「1996年か97年に、最初のジェラール・フィリップ映画祭をやったんですけど、会社に段ボール2箱分ぐらい感謝のお手紙が届いたんですよ。配給会社はふつうは目に留まらない存在。だから、一般のお客様から手紙が届くなんてことはそうないんです。

 でも、ほんとうに全国から手紙が届いた。『自分の青春時代のジェラール・フィリップをまた映画館で見られて、もうこんなにうれしいことはない』とか、『長生きしていてよかった』とか書かれたお手紙が。

 このとき思ったんです。『昔、映画を映画館で見て育った人が、また映画館に来て、その作品に再会できるような機会を作っていきたいな』と

 なので、クラシック映画も届けていきたいし、ジェラール・フィリップ映画祭も続けられるだけ続けようかなと思っています」

 そうした新旧の映画ファンをつなげることにも力を注ぐセテラ。配信パックに入っているドキュメンタリー映画『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』もまた、そういう観点からおすすめしたい1本かもしれない。

「この作品は、映画ファンにはぜひ見ていただきたいです。

 映画の大革命だったヌーヴェルヴァーグの歴史を、最重要人物のトリュフォーとゴダールの歴史を知ることができる。

 2人は友人でありながら袂を分かつわけですけど、どれだけ映画に情熱を注ぎ、命をかけていたかがわかる。あとは2人の監督に愛されたジャン=ピエール・レオーの成長もみてとることができる。

 ヌーヴェルヴァーグの作品は、ザジフィルムズの見放題配信パックで存分に楽しめますので、そのあとに、この作品を見ていただければバッチリです」

『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』より  (C)Films a Trois 2009
『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』より  (C)Films a Trois 2009

 当初、セテラ・インターナショナルの見放題配信パックは15作品でスタート。しかし、うれしいことにそこに6作品が加わり、現在21作品を楽しむことができる。

「ほんとうは最初から21作品と思っていたんですけど、配信用の素材を作るのに時間を要したので6作品を後から追加したんです。

イギリスの巨匠、マイク・リー監督の『ターナー、光に愛を求めて』や、現在、『今宵、212号室で』が日本公開されているクリストフ・オノレ監督が手掛け、カトリーヌ・ドヌーヴとキアラ・マストロヤンニの母娘が共演している『愛のあしあと』などが新たにラインナップに加わりました。ぜひ、多くの方に楽しんでいただいて、わたくしどもセテラ・インターナショナルのことを少し知っていただけたら幸いです」

<セテラ・インターナショナル見放題配信パック(21作品)>

https://www.uplink.co.jp/cloud/features/2411/

『あの頃エッフェル塔の下で』アルノー・デプレシャン/『ファウスト』アレクサンドル・ソクーロフ/『コーヒーをめぐる冒険』ヤン=オーレ・ゲルスター/『ふたりのヌーヴェルヴァーグ ゴダールとトリュフォー』エマニュエル・ローラン/『不機嫌なママにメルシィ!』ギヨーム・ガリエンヌ/『あしたのパスタはアルデンテ』フェルザン・オズペテク/『巴里祭 4Kデジタル・リマスター版』ルネ・クレール/『リラの門 4Kデジタル・リマスター版』ルネ・クレール/『危険な関係 4Kデジタル・リマスター版』ロジェ・ヴァディム/『TOMORROW パーマネントライフを探して』メラニー・ロラン、シリル・ディオン/『ナショナル・ギャラリー 英国の至宝』フレデリック・ワイズマン/『セザンヌと過ごした時間』ダニエル・トンプソン/『マーラー 君に捧げるアダージョ』パーシー・アドロン/『夜ごとの美女 デジタル・リマスター版』ルネ・クレール/『悪魔の美しさ デジタル・リマスター版』ルネ・クレール/『ターナー、光に愛を求めて』マイク・リー/『モン・ロワ 愛を巡るそれぞれの理由』マイウェン/『愛のあしあと』クリストフ・オノレ/『3つの心 あのときもしも』ブノワ・ジャコー/『愛しすぎた男 37年の疑惑』アンドレ・テシネ/『女神よ、銃を撃て』ティエリー・クリファ

▽3カ月見放題 2,480円(税込み)▽6カ月見放題は寄付込み5,000円&10,000円

*8月15日まで販売(購入から3ヶ月/6ヶ月の視聴可能)

<セテラ・インターナショナル劇場公開新作>

『最高の花婿 アンコール』 全国順次公開中

『お名前はアドルフ?』 全国順次公開中

※『不機嫌なママにメルシィ』の場面写真は(C)2013 LGM FILMS, RECTANGLE PRODUCTIONS, DON’T BE SHY PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 3 CINEMA, NEXUS FACTORY AND UFILM