難しい社会問題に笑っているうちに気づかせてくれる。「最高の花婿 アンコール」が人々を笑顔にする理由

映画「最高の花婿 アンコール」より

 緊急事態宣言は解除されたものの、まだ日常を取り戻したとはいえない日々が続く。なんとなく気の晴れない方も多いのではないだろうか? 現在公開中の『最高の花婿 アンコール』は、そんな憂鬱な気分をさっと晴らしてくれるような1本といっていいかもしれない。

 去る3月27日、同作はYEBISU GARDEN CINEMA(恵比寿ガーデンシネマ)の5周年記念作品として公開がスタート。ところが、翌日の外出自粛要請、続く緊急事態宣言によって同館が休館となり、同作も上映中断を余儀なくされた。それから数カ月を経て、ようやく東京での再上映がスタートしている。

 そこで配給を手掛けるセテラ・インターナショナルの山中陽子代表にご登場いただき、この作品のみどころから裏話まであれこれと聞いた。

 ちなみに配給とは、洋画をケースにあげると、まず映画をみつけ、買い付けをすると、日本全国の映画館に上映を依頼。その後、宣伝、劇場での公開を経ると、DVDなどのパッケージ化、VODやテレビでの放送まで手掛ける。セテラ・インターナショナルは、独立系配給会社。日本で世界各国の多種多様な映画が楽しめるのは、この独立系配給会社の存在のおかげといっていい。セテラ・インターナショナルでいえば、ヨーロッパ映画を中心に良質な作品を発掘。『クロワッサンで朝食を』や『ハンナ・アーレント』は同社の配給で日本に紹介している。

 話を戻すと、『最高の花婿 アンコール』の話に入る前に、前作『最高の花婿』を振り返らないといけない。本国フランスでは5人に1人が観たという同作は、フランスでは映画歴代興行成績第6位を記録。フランスのみならず世界各国、ここ日本でも公開されるとヒットを記録した。

山中陽子代表 提供:セテラ・インターナショナル
山中陽子代表 提供:セテラ・インターナショナル

世界中で公開が決まっているのに、日本だけでなぜ公開できない?

 しかし山中代表は当初、買い付ける予定はなかったと舞台裏を明かす。

「『最高の花婿』がフランスで公開されたのは2014年のこと。フランスで国民的大ヒットをしたコメディ映画があると耳に入ってきて、それで観てみることにしました。

 実際に観ての印象は、わたしとしては、日本に是非紹介したかった。敬虔なカトリック教徒で保守的な考えの持ち主であるクロードとマリーという夫婦がいて、2人には4人の娘がいる。ところが、どういうわけか、長女はアラブ人、次女はユダヤ人、三女は中国人、最後の望みをかけていた、四女までコートジボワール人と、手塩にかけて育ててきた娘4人が、親としては予想もしていなかった国際結婚をしてしまう。古風な考え方をする親が、自分たちの理想や固定観念を打ち砕かれ頭を抱えてしまうというお話で、明快でわかりやすい。異文化コミュニケーションも大きなテーマになっていて、ちょうど日本もインバウンドで外国人旅行者が増えてきたころでしたから、わたしとしては紹介してもいいんじゃないかと思ったんですね。

 ただ、スタッフにみせたところ『この笑いはヨーロッパの文化や宗教観に精通していないとわかりづらいのではないか』と。同じように都内の劇場の方に何人かみていただいたのですが、同じような反応で。それでわたしとしては一度諦めたんです。

 ただ、その間にもフランスではヒットが続いて、最終的に1300万人の動員を記録するまでになる。そうしたら、フランス側のセールス会社から再度連絡があったんです。『世界中で売れて公開が決まっているのに、日本だけで売れないで公開できないのはあり得ない』と。

 それで、『フランス映画祭に出すから、そこでの観客の反応をみて、最終判断を出してほしい』と言われたんです。ということで、フランスの公開から1年以上たっていたんですけど、その会社が執念でフランス映画祭2015のラインナップに入れた。そこで、わたしも今度はYEBISU GARDEN CINEMAの当時の番組編成を担当していた方にお願いして、見ていただいたんです。そうしたら、会場は大うけでみんな大笑い。その担当の方も『これやりましょう』と即決で、配給を決めました。だから、実は日本での公開はフランスの公開から数えると2年が経っての公開でした」

 この物語は監督のフィリップ・ドゥ・ショーヴロンの実体験がもとになっている。

「名前から察しがつくと思うのですが、彼はもともとフランスの貴族の出身。それが黒人系の女性と結婚して、弟もまた国際結婚をしたらしいんです。そのあたりの経緯や友人のエピソード、フランスは人種間混合結婚で世界一というある統計調査の資料などを合わせて、この物語ができたそうです」

 公開時には、そのフィリップ・ドゥ・ショーヴロン監督が来日。こんなことがあったと振り返る。

「フランスは人種のるつぼですから、本国では軒並み、純粋なコメディ映画として受け入れられていたんですね。

 ただ、日本では、その前年にシャルリー・エブド襲撃事件があったりしたので、単純なコメディというよりは、人種問題や宗教問題と結びつけて考える新聞記者の方とかがけっこういらっしゃった。

 それで取材のとき、かたい質問がけっこう多く飛んできた。監督が『僕はコメディ映画を撮ったのに、こんなまじめな質問がいっぱいくるとは!』とびっくりしていましたね(苦笑)

映画「最高の花婿 アンコール」より
映画「最高の花婿 アンコール」より

ヨーロッパの良質なコメディ映画を数多く紹介

 アメリカのメジャースタジオのコメディはあるものの、それ以外の国のコメディ映画が日本で公開されることは多くない。実は、こうした日本ではなかなか目にできないヨーロッパの良質なコメディ映画を数多く紹介しているのもセテラ・インターナショナルの特色のひとつ。独立系配給会社でコメディをここまで多く手がけているところはない。

「そうなんですよね。わたくしどものような独立系配給会社で、ヨーロッパのコメディを頻繁に紹介しているところはあまりないかもしれません

 何を隠そう、わたし自身がコメディ映画が好きなんです。単に笑えるのではなく、難しいことや社会問題も笑っているうちに『ああ、そういうことなんだ』と気づかせてくれるようなエンターテイメント性と社会風刺と笑いが同居しているようなコメディ映画が好きなんです」

前作にも増して日本のみなさんが身近な物語と感じるかも

 まさに『最高の花婿』、そして現在再上映の始まった続編『最高の花婿 アンコール』はそういう要素が詰まったコメディといっていい。ただ、この続編もまた検討から始まったそうだ。

「続編ができて、またフランスで大ヒットした情報が入ってきましたけど、まずは検討からです。おかげさまで『最高の花婿』はYEBISU GARDEN CINEMAの1周年記念作品として公開されヒットして、DVDも好評で、地上波でも放送されました。でも、だからといって続編がいい作品かはわからない。それから、続編というのはえてしてクオリティが落ちていたり、興行面からみても難しいところがある。だから、あくまで観てから決めようと。

 それで観たのですが、わたしの中では、前作にも増して日本のみなさんがより身近な物語として受け取ってもらえるのでは?と思いました。

 前作の日本公開から4年が経ちましたが、日本も大きく変わりました。新型コロナウィルスの影響でいま大激減してしまっていますけど、それこそどこにいっても外国人観光客の方がいらっしゃる。ひと昔前に比べると、たとえばブルカをしてる女性を見かけることもいまは珍しくない。ハラルフードを置いている飲食店も増えていたりする。

 そうした状況がある中で、『最高の花婿 アンコール』で描かれる異文化コミュニケーションの難しさ、その一方にある楽しさはきっと日常にもう外国の人々の存在を感じている今の日本のほうがより伝わる。それで、配給することを決めました」

映画「最高の花婿 アンコール」より
映画「最高の花婿 アンコール」より

 今回は、典型的ブルジョアのフランス人夫妻と、その4人の娘と結婚した多国籍な婿たちとの間でまたも異文化バトルが勃発する。

 定年退職を迎えたクロードは妻のマリーと悠々自適な生活。2人にとってもっかの楽しみは四女のロールが無事出産して、孫の顔をみることだった。

 ところが、4人の婿がパリで受ける異文化ハラスメントに耐えられず、それぞれ母国での新生活をスタートすることを宣言。しかも、長女のイザベルをはじめ4姉妹の妻は夫たちにあっけなく同意したことからクロードとマリーは仰天し、またまた家族騒動が起きる。

 ただ、単なるドタバタ喜劇ではない。その背景には、移民問題や異文化の衝突などが盛り込まれている。

「この映画は、誰もがちょっと抱いてしまう他の人種への固定観念をいい意味で笑いにすることで、その見方が必ずしもそうではないことに改めて気づかせてくれる。そして、それは自分の身に置き換えて、考えることができる。それが、この映画が世界でヒットした要因のひとつだと思います。

 今回もほんとうにいろいろな社会問題をちゃんとうまく料理してひとつの物語にしています。

 ここで描かれる異文化に置かれた婿たちの悩みひとつとっても、日本の現在の社会に重なるところがある。たとえば、建築現場やコンビニ、清掃などの仕事をする外国人の方をみることは珍しくないのではないでしょうか。異国で働く彼らの苦悩は、もしかしたら、この映画の婿たちの気持ちに相通じるところがあるかもしれない。そういうふうに思いをはせていくと、実はわたしたちも知らず知らずのうちにこの映画で描かれている社会問題と遭遇しているのではないかと思えてくるのではないでしょうか」

『最高の花婿』は『男はつらいよ』?

 ふだんはなんやかんやと衝突することも少なくないが、いざ婿たちが母国へ戻ろうとすると、クロードとマリーは慌てふためく。

 深読みしすぎと言われればそれまでだが、この状況はどこか今回のコロナ禍で外国人観光客が消え、外国人技能実習生の受け入れもストップして困り果てている日本社会の現状にもどこか重なる。

 また、婿たちに心変わりをさせようとクロードとマリーはあの手この手の引き留め工作を計画。そこでおきる騒動が不思議と相互理解となり、ばらばらになりかけた家族の気持ちをひとつにしていく。

知り合いで、この映画を『男はつらいよ』みたいだという人がいるんですけど、わたしもなんとなくわかります

 寅さんも毎度ドタバタの騒動が起きる。もう家族でいいように言い合うんですけど、でも、最後は互いを理解して認め合う。家族の大切さに気づかせてくれる。

 どちらもいい家族ドラマであり喜劇だなと。ほんとうに若い世代からシニア層まで楽しめる、笑顔になれる映画だと思います

パート3の構想あり!

 監督からはこんなことをいわれているという。

「今回は残念ながら諸事情あって、来日はかなわなかったんですけど、前回来たときはすごく日本を楽しまれて帰国されました。

 なんでも『最高の花婿』は3部作を構想しているそうで、パート3を撮る予定があるみたいなんです。『パート3を撮ったら必ず日本に行くから』とおっしゃってました。

 まあ、わたしたちが配給を手掛けるかは現時点ではわからないんですけどね(笑)。それはこの『最高の花婿 アンコール』の成績次第でヒットしたら、もちろん配給できたら嬉しいですね」

映画「最高の花婿 アンコール」より
映画「最高の花婿 アンコール」より

「最高の花婿 アンコール」

東京/YEBISU GARDEN CINEMA、神奈川/シネマ・ジャック&ベティ、

千葉/キネマ旬報シアター、新潟/高田世界館、三重/伊勢進富座、

京都/京都シネマ、熊本/Denkikan、宮崎/宮崎キネマ館にて公開中。

7月3日(金)より静岡/CINEMAe_ra、

7月4日(土)より福井/福井メトロ劇場、

7月11日(土)より東京/下高井戸シネマ、神奈川/あつぎのえいがかんkiki、

北海道/シネマ・トーラス、石川/シネモンド、

7月14日(火)より神奈川/川崎市アートセンター アルテリオ映像館、

7月25日(土)より広島/シネマ尾道、

8月15日(土)より熊本/本渡第一映劇にて公開。

埼玉/川越スカラ座、広島/夢売劇場 サロンシネマ1・2にて公開予定

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