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2024年、フードライターの食から読み解く「外食」に何が起きているか【3月】牛肉の潮目が変わった

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト

2024.03.20 沖縄タイムス社朝刊
 県議会の経済労働委員会(大浜一郎委員長)は19日、厳しい経営環境にある畜産農家の実情を把握するため、JA沖縄中央会の嵩原義信専務らを参考人招致した。嵩原専務は牛や豚、ヤギ、鶏など家畜の餌となる配合飼料価格が高止まりしていることや、県内の2023年度の食肉処理頭数が30万頭を割る見通しであることなどを説明。「先の見通しが立たず、生産者の経営は逼迫(ひっぱく)している」と窮状を訴えた。

 ウクライナ情勢などによる穀物価格の上昇で、23年の配合飼料の平均価格は17年の1・8倍に値上がりした(以下略)。

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1327805

米国産牛肉、記録的高値も インフレ余波で飼育頭数減

2024.03.25 共同通信

 【ワシントン共同】米国産牛肉の価格が2024年後半から25年にかけて記録的な高値になる-。米国農業会連合(AFBF)は25日までに見通しを明らかにした。近年進んだ物価高の余波で肥育の経費がかさみ、肉用牛の飼育頭数の減少傾向が続いていることが背景にある。日本など米国産牛を使う外食産業や消費者にとっては新たな頭痛の種となりそうだ。

 農務省によると、24年初めの肉用牛の飼育頭数は推定で2822万3千頭。ピークだった1975年から38%減少し、61年以来最低の水準にまで落ち込んだ。(以下略)

飼料高騰による畜産農家の困窮は消費者をも直撃する

3月も後半になって、米国産飼料の高騰による畜産農家への打撃が可視化されるニュースが次々に飛び込んできました。上記の沖縄タイムズの記事は輸入飼料の高騰により国内の畜産農家の経営が逼迫していること。共同通信の記事は米国でも飼料の高騰により、牛肉不足が起きて今年の後半から来年にかけて米国牛も暴騰するのではないか、という予測が立てられています。

米国の飼料が高騰することで米国牛が高騰するのはわかりますが、米国産飼料の高騰が国内の畜産農家にどれほどのダメージになるか懐疑的な方もおられると思いますが、和牛をはじめ、国内の畜産農家はその飼料のほとんどを輸入飼料に頼っています。

飼料を巡る情勢(農林水産省畜産局飼料課2023年11月)

「2022年度の畜産における飼料供給割合は主に国産が占める粗飼料が20%、輸入が占める濃厚飼料が80%(TDNベース)となっている」

「飼料日が畜産経営コストに占める割合は高く、粗飼料の給与が多い牛で3~5割、濃厚飼料中心の豚・鶏で5~6割」

https://www.naro.go.jp/laboratory/nilgs/kenkyukai/2331a66b1c3876a4554d8181b474aab8.pdf

各畜産農家がJAから仕入れる配合飼料も輸入原料がほとんど。つまり輸入牛だけでなく輸入飼料頼みの和牛や国産牛も肥育原価が上がり、食肉の価格も高騰が予想されるというわけです。

今月とある地方で、この問題を解決するヒントとなる取り組みをしている畜産農家に出会いました。

その畜産家は配合飼料をJAに頼らず、自身で配合飼料を作り、牛に給餌しているのです。そもそもは通常の和牛なら26~29か月齢で出荷する和牛を50~60ヶ月も飼っています。通常それだけ長く飼うには飼料代がかかり、その分価格に転嫁しなければならなくなりますが、稲作農家から稲わらや糠などを引き取って独自の配合飼料を作っているのです。

基本的に牛は長く飼ったほうが味が乗ります。しかも長く飼うには健康でなければなりません。この畜産家は多少虚弱気味の牛でも健康に長く育てることで、味を整えるのです。

まだ加工や精肉部門が整備されていないので、市場への流通量は試験販売程度ですが、いずれ新しい潮流のブランド牛となるかと思われます。時期が来たら、もう少し詳細な話ができると思いますが、とにかく肉の味が濃い。サシもさほど入っておらず、現在の格付制度ではA3くらい、和牛としては平均以下の評価になってしまうでしょう。この肉を味わってしまうと「格付」の課題をつきつけられるような思いを新たにします。

赤身の味が上品に濃厚でたいへんおいしい和牛だったのですが
赤身の味が上品に濃厚でたいへんおいしい和牛だったのですが

店内の照明が赤かった。いい肉を仕入れているのだから、肉の色がきちんとわかるような照明の導入を望みます。
店内の照明が赤かった。いい肉を仕入れているのだから、肉の色がきちんとわかるような照明の導入を望みます。


その一方でもともと和牛の生産者だった畜産家が、草食の羊に配合飼料を与えて羊特有の匂いを軽減した「メルティシープ」というブランドを立ち上げたりもしています。こちらの飼料設計も聞いてみたのですが、一切が企業秘密ということでこちらはまた別の機会に聞いてみたいと思います。

おそらくはかなりの穀物多給をしているメルティシープ。羊特有の臭みが穏やか。麻布十番「ジンギスカンyoshihiko」にて
おそらくはかなりの穀物多給をしているメルティシープ。羊特有の臭みが穏やか。麻布十番「ジンギスカンyoshihiko」にて

今月の外食からは「新しい肉へのシフト」が強く伺えました。これまでA5、BMS12といった格付重視の和牛を好んで使っていたシェフが赤身の身質を重視した新店をオープンさせたり、牛肉のエイジングについて新しいアプローチをする店がますます充実の一途を辿っていたり、羊肉でもさらに幅広いメニューを打ち出す店が都心のみならず郊外にも増えてきたり、と肉の潮目の転換を実感する1か月となりました。

(以下に約30店関連の注釈つき画像32点)

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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