Yahoo!ニュース

フランス初心者が、2023年のコロナ明けに訪れたブルゴーニュでワインについて学んだこと。

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト

今年の春、フランスのブルゴーニュに一週間ほど滞在してきました。パリは乗り換えで通過するだけのブルゴーニュ縦断の旅は、見るもの聞くものすべて新鮮。たいへん美味しく、美しく、楽しかった記憶を本日発売の『CREA Traveller』(文藝春秋)のイタリア特集『トスカーナとシチリアで見つけた幸せの法則』(https://www.amazon.co.jp/dp/B0CBPQCNJ9/ )号にまぎれこむように10ページほど書かせてもらっています。

フランス初心者がはじめてのブルゴーニュをどう満喫するかとか、訪問&試飲できるドメーヌの名称などはぜひ本誌のほうでお楽しみいただきつつ、たくさんページをいただいたもののリアル紙幅の都合で誌面のほうでは書きたいことの1割も書ききれませんでした。

7月中旬に無事発売日を迎えたので、盛り込みきれなかった情報などをSNSやYahooの個人アカウントなどでも書き残していきたいと思います(本当はCREA Webで本誌連動で書きたかったのですが、それはまたの機会ということに)。

さて『CREA Traveller』でブルゴーニュ企画の扉を飾ったのは、かの銘ドメーヌ、ロマネ・コンティの畑です。扉の写真は現地に20年以上住まわれるブルゴーニュワイン専門のコーディネーターさんが「こんな決定的瞬間、初めて見た!」と興奮されるほどの奇跡的な瞬間。そちらは『CREA Traveller』本誌をぜひご覧になってみてください。

まず、ブルゴーニュ全体のことについて、ざっくりと。フランスワインにお詳しい方はもちろん拾い読みでいいと思いますが、記しておきます。

今回、僕が訪れたブルゴーニュは南北に長く伸びる大きく4つの地区でした。実は「ブルゴーニュ」という言葉はその場面に応じて微妙に意味が変わります。「東京」だって指し示すものが東京都全体だったり、23区だったり、東京駅だったり文脈によって微妙に意味が変わりますよね。

”Bourgogne”も同じです。広域の地域を指す名称として、数年前まではブルゴーニュ地域圏としてコート・ドール県など4県から成る地域圏の名称でしたが、2016年にフランシュ・コンテ地域圏の3県と統合することになりました。そいうして生まれたのが、7県を統合するブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地域圏。現在、〝Bourgogne〟という呼称はその中西部を指しています。

現在のブルゴーニュ・フランシュ・コンテ地域圏。

https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=42900888

3県が加わる前の4県時代のブルゴーニュ地方。ちなみにBIVB(ブルゴーニュワイン委員会)の公式ページはブルゴーニュの説明にいまもこの地図を採用しています。

一方、レストランやビストロで「ブルゴーニュ」と言えば、当然のようにワインの産地を指しますが、ブルゴーニュ地方すべてのワインが「ブルゴーニュワイン」と呼ばれるわけではありません。ざっくり言うと、ブルゴーニュ地方で一定の基準を満たした地域のワインが「ブルゴーニュワイン」と称されるのです。

フランスにはAOC(原産地統制呼称制度)という法律があり、ブルゴーニュワインのAOCとして認められている地区は、今回訪れた4地区(北から順にコート・ド・ニュイ地区、コート・ド・ボーヌ地区、コート・シャロネーズ地区、マコネ地区)にシャブリ地区を加えた全5地区です。

ブルゴーニュ地方の南端にあるボージョレーはブルゴーニュワインのAOCではなく、エリアとしてはブルゴーニュ地方の一部でありながら、ワインには「ブルゴーニュ」の名は冠されません。あくまで「ボージョレー」のワインなのです。

そしてよく耳にするブルゴーニュワインの〝格付け〟についても、整理させてください。AOCで認定されたワインの産地を「アペラシオン」と呼び、ブルゴーニュでもグラン・クリュ(特級畑。全体の1.4%)、プルミエ(1er)・クリュ(1級畑。全体の10%)、村名(全体の38%)、地域名・広域(全体の50%超。ブルゴーニュ、マコン・ヴィラージュなど)4段階のアペラシオン(AOC≒原産地統制呼称)があります。

アペラシオンはピラミッド状にすそ野が広がっていて、グラン・クリュは全体の1.4%しかなく、幅数十~100メートル程度の「クリマ(区画)」単位で30数というごく少数の畑しかありません。

格付けは土壌はもちろん、斜面の畑の向きや角度などさまざまな条件が勘案された上で決定されるもので、現地では「小路一本隔てれば味が変わる」と言われたりもします。門外漢からすると「本当に?」と思ってしまうかもしれませんが、日本でも稲作の盛んな地方では同じようなことが言われます。

地方や畑を大切にした単一品種をベースとした産品という意味では、ブルゴーニュワインは日本における米と似たような傾向があるのかもしれません。洋の東西を問わず、美食の国で愛されてきた産品の機微なのでしょう。

ブルゴーニュにおける畑の格付けは毎年見直されてはいますが、特級畑についてはほとんど増減はありません。その下のプルミエ・クリュの畑もブルゴーニュ全体で700に満たない狭き門で、3段目の村名ワインのエリアに「これは!」という畑があっても、プルミエ・クリュを取得するまでに「準備を始めてから10年はかかる」と現地の生産者は言っていました。

しかも気候変動の大きな昨今、10年前に格付け取得の準備を始めた頃と現在とでは、いいブドウの穫れる畑は変わっている。それがブルゴーニュの実情だと言うのです。

この記事は有料です。
食とグルメ、本当のナイショ話 -生産現場から飲食店まで-のバックナンバーをお申し込みください。

食とグルメ、本当のナイショ話 -生産現場から飲食店まで-のバックナンバー 2023年7月

税込550(記事1本)

※すでに購入済みの方はログインしてください。

購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。
編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

松浦達也の最近の記事