僕らは「新しい牛肉体験」を手に入れることができるのか(中編)/体重と月齢。肉食分断の象徴としての牛肉

牛舎で飼われている黒毛和牛

前回「僕らは『新しい牛肉体験』を手に入れることができるのか/前編」という有料記事を公開しました。

有料記事部分には僕が体験した「新しい牛肉体験」と、なぜその肉に新しい牛肉体験が備わったのか、論文を引用しつつ「新しい牛肉体験」のひとつの説を盛り込んでいます。そこに示した仮説だけが、新しい牛肉体験を実現するためのカギではありませんが、僕が触れた新しい牛肉体験は、その論文に示された論拠が要因のひとつにはなっているはずです。

さて前回の記事にもあれこれ重要なことは詰まっているのですが、ざっくり説明すると、

1. 牛肉の味わいは血統、飼料、体重、月齢、保存で決まる(個人の意見です)。

2. 血統データが蓄積されている黒毛和牛は、血統である程度味が決まる。

3. 短角やあか牛に(も血統由来の味はあるはずだが)、共通認識になるほど整理されていない。一方、多頭肥育の黒毛向けの(テンプレ的な)濃厚飼料を短角牛やあか牛に給餌する生産者もいる。

4. 濃厚飼料を与えた短角牛やあか牛は、肉質が本来の味わいと明らかに変わる。

5. 牧草で長く(通常の肉牛の2~5倍ほどの期間)飼った乳牛を食べる機会に恵まれた。

というあたりが、前回の記事の無料部分です。そして結論から言うと、5.の乳牛が劇的においしくて、その詳細と背景にあるものが有料部分に伏せてあったのです(この部分は有料読者への仁義としてこの程度でお許しください)。

牛の体重は味にどう関わるのか

さてこのように、前回は血統と飼料がいかに味に影響するというお話をしました。そして今回は体重です。レストランのシェフや精肉店の客にとって牛の体重は重いほうがいいのか、軽いほうがいいのか。

ちなみに生産者にとっては、もちろん重い方が喜ばしいと言われます。牛枝肉の取引は単価×重量で計算されるので、単純に重いほうが枝肉が高く売れるからです。

しかし、それは売り先であるレストランや客にとっては関係ありません。枝肉がいくらで売れようが、最終的にはkgいくらでどういう味の肉かが重要なのです。そして「肉にならいくらでも出す!」という店や客は体重の重い肉を好まない傾向があります。

神戸ビーフは体重に上限を設定している

例えば、黒毛和牛の最高峰、神戸ビーフは、血統に兵庫県産(但馬牛)の縛りがあり、枝肉重量にも未経産のメスで270~499.9kg、去勢のオスで300~499.9kgと体重の縛りもあります(もちろん、肉質等級や歩留まり等級の縛りもあります)。

世界でもっとも知られた和牛である神戸ビーフが血統だけでなく、体重に上限を設定しているのは大きすぎるとブランドの価値を毀損しかねないから。牛を大きく育てて高く売りたいのが生産者の常ですが、過剰に大きい牛には、サシが過剰に入りがちです。サシが多いということは正肉の比率は当然下がります。比率が下がれば相対的に肉の味は薄くなり、脂っぽさが口の中に残ってしまいます。

霜降り(A5/BMS12)の肉。見た目にもサシのほうが多い(筆者撮影)
霜降り(A5/BMS12)の肉。見た目にもサシのほうが多い(筆者撮影)

しかも重量の重い牛にはもうひとつ悩ましい問題がつきまといます。

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食のブランド化と多様化が進むなか、「安全」で「おいしい」食とは何か。生産地からレストランの最前線まで、食にまつわるすべての現場を巡り、膨大な学術論文をひもとき、延々と料理の試作を繰り返すフードアクティビストが食とグルメにまつわる奥深い世界の情報を発信します。客単価が二極化する飲食店で起きていること、現行のA5至上主義の食肉格付制度はどこに行くのかなどなど、大きな声では言えない話をここだけで話します。

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東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども行い、食にまつわるコンサルティングも。著書に『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストの書籍やWeb企画など多様なコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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