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超しっとり「30分茹で鶏」(「30分チキン」を勝手にオマージュ)の作り方

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
茹で鶏を茹でたスープで炊いた鶏飯(筆者撮影)

先月、Twitterで話題になったエリックサウス、イナダシュンスケさんの「30分チキン」。詳細は以下ツイートをご覧いただきたいのですが、イナダさんのレシピの整理の仕方と発信が本当にお見事でありました。

イナダシュンスケさんの「30分チキン」

https://twitter.com/inadashunsuke/status/1297138386281435136

「弱火のフライパンに鶏肉を皮目からフタをせずにグリル。ひっくり返して火を止める」というフライパンローストの基本的な部分は、ご本人も触れていらしたようにフレンチのシェフなどにはおなじみかもしれませんが、極限まで削ぎ落としたシンプルな調理法でTwitter民の心を鷲づかみにしていました。

タイトルで「30分」と言い切って強く届ける。5分・15分・25分・30分経過時の焼き加減&焼き上がりの目安にキャプションを添えてリスクをコントロールする。そして一般的にはモモ肉を使いたくなるところ、仕上がりの絶対値ではなく「調理法の良さを最大限に生かせるのはむしろムネ」と割り切って、レシピの価値の最大化を目指す。

最高です! 「昔ながらの手法を踏襲している」ことを明言して誠実な姿勢を示しつつ、「パサつきがちなムネ肉をジューシーに仕上げる方法はいろいろありますが、皮のパリパリを同時に叶える方法はほかにあまり無いと思います」とレシピのストロングポイントを明示するバランス感覚、本当に学びの多いレシピツイートでした。

さて素晴らしいレシピに触れると、料理したくなる欲がむくむくと湧き上がるのは、先のイナダさんのツイートが4.7万リツイート、18.9万いいねというバズり方をしたことからもよくわかります。

というわけでイナダさんに触発されて、ずっとアップデートしようと思いながら放置していた「茹で鶏」の調理法をアップデートしてみました。題して「30分茹で鶏」(勝手にイナダさんオマージュ)です。

もともと僕の茹で鶏の作り方は以下のような手法でした(『大人の肉ドリル』P52を参照)

<材料>

鶏むね肉1枚 水50ml 塩小さじ1

1.塩を分量の水で溶き、鶏むね肉にもみ込む

2.鍋に鶏むね肉全体がかぶる程度の水(分量外)を入れる。皮を下にして肉を入れ、フタをせず弱火にかける。

3.鍋の底に細かい気泡がたくさんつき始めたら、フタをして火を止めて10分待つ。その後、フタを取って再度弱火にかけ、5分加熱したら火を止める。そのまま自然に冷ます。

いま読み返すと、なんともレシピが若い! 6年前に出した本にしては狙いは、まあまあハッキリしてはいますが、手順がちょっと面倒……。しかも調理全体にかかる時間の目安が書かれていません。確かに気温や火力などでかかる時間はブレますし、水量も「鶏むね肉にかぶる程度」が目安になっているので、トータルの時間が算出しにくいのは理解できますが、ちょっと不親切な印象があります。これはいけません。

というわけで、アップデートしてみました。アップデートのポイントは3点です。

・低温で加熱するなら必要以上に加水はしない。

※ゆっくり加熱においては離水させないことを重視する。

・火力の調整をしないで済むよう、加熱カーブは内容量でコントロールする。

※水量はじめ、鍋内の内容量が少ないと、温度の上昇が早い。

・慣れるまで、仕上がりは水温で管理する。

※「茹で」はブレ幅が大きいので、温度計で茹で時間を調整する。

超しっとり、「30分茹で鶏」の作り方

<材料>

鶏むね肉 2枚(600g)

塩 小さじ1(6g ※鶏むね肉の1%の量)

水 900ml(鶏むね肉の1.5倍の重量)

水温計(タニタなどの芯温計でも)

<作り方>

1.鶏むね肉に分量の塩をしっかりもみ込む(塩の粒子を感じなくなるまで)

2.鶏むね肉2枚がぎりぎり広げられる程度の小鍋に分量の水を入れ、鶏むね肉を皮を下にして置く。

3.鍋を弱火にかけて鶏肉の上あたりの水温が測れるよう、温度計を置く。そのままフタをせず30~40分かけて水温を最低65℃になるよう加熱する。その後、火を止めて自然に冷ます。

加熱不足の鶏肉には食中毒リスクがありますが、東京都の実験環境では65℃30秒、60℃1分でカンピロバクターは死滅するという結果もあります。このあたりの芯温を目指して、ゆっくり時間をかけて加熱していきましょう。弱火で茹で汁を含めて加熱するということは、肉の芯温もそれに近いラインで上昇していきます。。

大切なのは「短時間で仕上げよう」と気ぜわしくならないこと。時間をかけて加熱することはおいしさにもつながります。その仕組みについて書かれた論文は最後に紹介しておきます。

さてここからは有料読者のみなさま向け。条件を変えて試作したときの温度変化の記録と、参考資料を残しておきます。

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編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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