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客はいま、飲食店との付き合いをどう考えるべきか~リスクコントロールとは自分をコントロールすること

松浦達也編集者、ライター、フードアクティビスト
(写真:森田直樹/アフロ)

「症状がなくても誰かにうつす可能性を排除できない」。というだけで、この件は本当に難しい案件です。

本日書くのは、僕自身の個人的な行動指針です。置かれた環境はそれぞれ違いますし、ひとつひとつの行動について誰もがこうすべきという細かな基準を作ることはできません。本稿はあくまでひとつの考え方、ひとつの事例としてお読みいただければ幸いです。

先週2月27日(木)付けの本稿で、「COVID-19に対して店ができる対策」について書きました。26日(水)の晩、東京ドームでPerfume、京セラドームでEXILEがそれぞれ2DAYの2日めのライブを公演当日に中止するなど、ただならぬ雰囲気が漂い出したからです。

次は飲食店に正念場がやってくる。その日の通常業務を終えた深夜、徹夜で前回の原稿を書いて27日の朝、1時間ほど仮眠を取った後に内容をチェックしてUP。そのまま3件の打ち合わせと2件の会食を終えて、23時過ぎに帰途についたときのことです。

「あれ? 熱っぽい……」

焦りました。どうも微熱っぽい感じがあり、手にじんわり汗もかいています。もともと風邪なんて年に1度ひくかひかないか。偉そうにあんな原稿を書いて自分が罹患したらシャレになりません。

帰宅後即、しょうが湯と葛根湯とビタミンC剤(VC)を1000mg飲み、発汗系の入浴剤を入れた風呂に浸かって、1Lの水のペットボトルを飲みながら1時間以上かけて、みっちり汗を流し、風呂上がりにさらに水を飲み、VCを追加しました。

この時点で体温を測ったら36.6℃と平熱でしたが、枕元にもう2本ほどVCドリンクを置き、マスクで喉を保湿しつつ部屋を暖かくして、布団にぐるぐる巻き状態で爆睡しました。「風邪をひいたかな?」というとき、強引に一晩で治すときの極私的な民間療法です。

幸い28日(金)に起きたら熱っぽさは解消されていました。体温を計測したら36.3℃。以降、2時間おきに体温を測りましたが、午後の早い時間で36.6℃、夕方には36.8℃まであがりました(この後、一日数回の検温習慣が身につき、この数字の動きが僕の体温の通常の動きだということを知りました)。

実はその日、都内のショーレストランで友人の誕生会が行われる予定で、仕事を終えたら駆けつけるつもりでした。しかし前日晩の自分の微熱的な体感が気になります。前日晩の入浴前に測りそびれたのが痛恨でした。普段だったら多少の微熱など気にも止めませんが、時勢が時勢です。

ビルの上階にある店だけど、店の構造や換気システムもわからない。一度も熱発は確認されていないし、前日の微熱的体感も思い過ごしの可能性もある。でも、症状にかかわらず感染させたりしたりする可能性がゼロじゃないとなると悩みます。人の多いところで2時間程度ご一緒すると、どのくらいリスクがあるのかわからず、一日平熱でしたが、慎重を期して遠慮させていただくことにしました(言うまでもありませんが、キャンセル料は満額支払っています)。

歯噛みをしながら誕生会を欠席したその裏で、先行事例である中国の現状を調べていたら、同日行われていた中国の国務院の記者会見のサマリーが入ってきました。

气溶■伝播?科技部:需要満足三个条件才有伝播可能

※■は「月」ヘンに「交」

(エアロゾル感染? 科学技術省:感染には3条件を満たす必要がある)

出典:Chutian Traffic Radio

記事をGoogle翻訳にかけたところ、「『閉鎖空間』『長時間』『高濃度』という3条件を同時に満たしてエアロゾル感染が起きうる」、「換気のいい日常生活では、伝播の可能性は非常に小さく、エアロゾル感染のリスクはほとんどない」というような日本語に翻訳されました。配信元はChutian Traffic Radio。湖北省人民放送局の公式アカウントと翻訳されています。

「エアロゾル感染の可能性は小さい」「でもリスクはゼロじゃない」。先行事例の中国でも同じような扱いです。まったくもって悩ましい。

さらにその後、3月2日には、日本でも専門家会議による感染拡大事例が発表されました。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議

「新型コロナウイルス感染症対策の見解」

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00011.html

一人の感染者が複数人に感染させた事例として「ライブハウス、スポーツジム、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テント」が挙げられています。

名指しされた業態には気の毒としか申し上げようもありませんが、感染拡大は防止しなければなりません。挙げられたのは確かに「閉鎖空間」「長時間」「高濃度」になりうる特徴があり、感染リスクの高い「接触感染」「飛沫感染」などの要素が加わりうる業態です。

実はこの原稿の下書きを始めた3月3日にも、別の友人の誕生日祝いの会がありました。まさかこんなことになると思わずに1次会はビュッフェのあるレストラン、2次会は盛り場にあるビルの地下フロアのショーパブが予定されていました。

なかなかのコンボです。先週、一瞬でも体調を崩しそうになった身としては「うむむむ」と唸らざるを得ません。店の構造や当日の予約状況などを散々調べた結果、3月1日(日)の深夜に「ごめんなさい。今回、2次会は遠慮させてください」「でも1次会は出席します」と伝えました。

ビュッフェとショーパブ、なぜ出欠の判断が割れたか。実は単に業態だけで判断したわけではありません。僕は以下の基準で判断しました。

いま、訪れる店をどう決めるのか。

1次会のビュッフェつきレストランの食事会に出席を決めた理由

・(おそらく)空いていて、人口密度は低いこと。

・(空いているから)ビュッフェの料理は客による飛沫感染リスクは低いであろうこと。

・料理にも力を入れている店なので、一定の衛生管理は期待できる。

・名指しされたばかりの飲食業態だけに、衛生管理は徹底されているはず。

・店舗は1Fにあって、開放できる窓がある。

・ビュッフェのトングに接触感染のリスクはあるものの、手洗いやアルコール除菌シートなどで自衛できる。

・換気機能にも期待できる肉焼き業態。

対して2次会のショーパブを遠慮しようと考えた理由

・予約状況を見ると数十名程度(約50%以上)の客入りが見込まれている。

・通常より空いているのに、「席を離す」などの踏み込んだ対策を取ったというアナウンスがない。

・出演者も客も比較的若く、不特定多数が集まる。ウイルス保有者でも発症していない可能性が(年配者よりは)高い。

・料理は注文できるが、どの程度力を入れているのかわからない。

・つまり飲食専門店よりも衛生管理がゆるい可能性がある。

・マイクを使ったショーもあり、ステージと客の間でのコール&レスポンスもある。

・店舗があるのは地下フロア。通気や換気の能力がわからない。

・店の公式SNSに記載された対策は、3月1日深夜時点でも出入口のアルコール消毒のみ。

あくまで、僕個人の偏った見方です。一通りネットや動画をチェックしただけで、問い合わせもしていません。衛生管理の見込みなどは外れているかもしれませんし、各項目のリスクの高低などは人によって判断が分かれるところでしょう。実際、同行するはずのメンバーからは「キャンセルするならビュッフェでは?」との声もありました。

結局、この誕生日会は翌日になって主役である誕生日を迎える本人が「延期しよう」と決断。「祝いたい」という人が集まって、都内の大衆中華料理店でこぢんまりとお祝いの会をやりました。はからずも貸切状態でした。

リスクゼロはありえない。それでも暮らしのなかでリスクを下げる努力は必要

はっきり申し上げると、そもそも(衛生的に素人である)自分たちの手を介する以上、「リスクゼロ」の食事はほぼありえないと考えています。

リモートワークが推進されたとはいえ、朝夕の電車は混雑しています。手洗いを励行しても、手になにかのウイルスが付着した状態で食事をすることだってあるでしょう。でも「つり革や手すりなんて気にしてたらきりがないから、手洗いしない」とか「ゼロじゃないから、洗わなくても同じ」では絶対にありません。少しでも確率を下げるべく行動を積み重ねれば、リスクは確実に下げられるはずです。

「風邪みたいなもの」「運次第だよ」と言う方もいらっしゃいます。ただし確率は低くとも、ただの風邪より重篤化する可能性もある。だからなるべくかかりたくはない。ならば「運」に頼ることなく、確率を上げて「勝つべくして勝つ」勝負をしていくべきです。

「食」を仕事の現場とする人々は僕を含め、こんなときだからこそ食の現場に通い続けています。一方で外食を続けている者が罹患してしまったら、「それ見たことか」と言われかねません。すべてを運任せにせず、現場を踏みながら自分なりの基準を持ってリスクをコントロールしていくことが重要です。

前述の件で僕が、1次会のビュッフェにのみ参加して、2次会のショーパブを失礼しようと思った決め手は「感染リスクを自分が主体的にコントロールできるかどうか」に尽きます。

極論すれば、接触感染については手洗いや消毒など、自分自身でコントロールできる範囲が大きい。しかし、飛沫感染やエアロゾル感染は他の客や店のスタッフやキャスト、店のしつらえなどの環境に依存するため、主体的にコントロールできません。

特にショーパブの「客が若い」「マイクやコール」「地下フロアの換気不安」「店員の衛生管理意識」などは、リスクをこちらでコントロールするのが非常に難しい要素になります。

でも、ビュッフェの店は違いました。店は1Fにあり、開け放せる窓があります。「少しの間、窓を開けてもらえますか」とお願いすることができるし、不安がぬぐいきれなければビュッフェのトングは交換を頼むこともできる。万一、店が超満員でビュッフェの周りで口角泡を飛ばしながらしゃべる若者が多いようなら、悲しみに暮れつつ食べないという選択肢だってあるわけです。

リスクをコントロールする=自分をコントロールすること

結局「熱かな?」と思った日以降、熱は一度も37℃を超えていません。体感的なピーク時に体温を測りそびれたのが痛恨でしたが、27日の夜に熱が出た(ように感じた)のは前日ほぼ徹夜同然で、あちこち顔を出していた疲れが出たからということのようです。

以降、必ず1日6時間以上の睡眠を取り、朝、昼、夕、晩と1日4回の検温(腋窩)をしています。時間ごとの平熱もわかってきたので、夕方に36.9℃まで熱が上がっても焦らなくなりました。

この1週間の間にたまたま2回あった友人の誕生会。片方は顔を出すことができず、もう片方は形を変えての開催になったわけですが、それぞれタイミングに応じた判断としては間違っていなかったと思います。

ちなみに欠席した誕生会の翌日に出席した人と食事をしたときに「あ、コロセンだ!」(※ふだん一部の友人から「パイセン」と呼ばれているので)という新たなニックネームをいただきましたが、こういう軽口は偏見や差別の端緒になりかねませんし、そもそも特に面白くもないのでやめましょう。明日は我が身です。

最後に、いま現在、僕が気をつけていることを挙げておきます。あくまで個人的な行動指針ですが、なにかのご参考になれば幸いです。

食事をする店選びについて

・換気の導線がしっかりしている店(焼肉、焼鳥業態はもちろん、フレンチやイタリアン、和食でも換気レベルの高い店。定期的に窓や入口を開けるなどして空気を入れ替える店)。

・衛生管理の行き届いた店(入口や手洗いのアルコールスプレーや手指洗浄剤を切らしていない。掃除が行き届いている。スタッフは動作のたびに手洗いほか、手袋+アルコール消毒などを欠かさない)。

・混み合いすぎていない(密度低め)、ひどく騒がしくない(飛沫少なめ)、選べるならカウンター席(対面よりは横並び)、もしくは入口や換気扇の近く(新鮮な空気に触れやすい位置)。

・取り皿、取り箸が遠慮なくお願いできる店(直箸を避けられる店)。

・提供される料理は加熱されたものが中心の店。ただしナマモノを出す店でも、鮨店や和食店などで信頼のおける店はもちろん別。

生活習慣について

・1日6時間睡眠の確保。

・朝、昼、夕、晩の検温(ベースとなる体温の変化を知るため)。

・手で目・鼻・口を触らない。

・食事時以外、マスクとメガネ着用(そもそもは花粉症対策。現在は接触感染防止の意図もある)。

・喉の乾燥を防ぐため、睡眠時にもマスク着用。

・ことあるごとに手洗いとうがい。

・手が荒れそうなので、手洗い後に保湿ローション。

・ドアノブや家電の取っ手やスイッチ、スマホやリモコン類など日常で触れた場所、しらずしらずのうちに触れる可能性のある場所は気づいたときにアルコール等で消毒。

・ビタミン剤の服用(特にVC多め)。

・自室ではオーバースペック気味の空気清浄機と加湿器を24時間フル回転。

・皿洗いは高温で洗える食洗機を使用。洗濯も乾燥機までかける。

外出時について

・できる限り空いた車両に乗り、つり革や手すりに頼らない(ただし、揺れに備えていつでもつかめるよう心の準備はしておく)。

・手指消毒ジェルや次亜塩素酸水(※ハイターを希釈した「次亜塩素酸ナトリウム液」とは別物)、アルコールタイプのウェッティッシュなどを携行。

・トイレに流せるタイプのティッシュも携行(昨今のペーパー事情に鑑み、万一に備えて)。

・外出先から帰宅したら上着は玄関でぬぐ。

・外出時に使った使い捨てマスクは、玄関に設置した専用ゴミ箱(フタ付き)に捨てる。

・帰宅後は最短の動線で風呂場へ直行。

いまも毎日外食に出かける身としては、かなり細かくやっているつもりです。それでも「大ざっぱだなあ」と思われる方もいるかもしれませんし、「細かすぎる」と思う方もいらっしゃるでしょう。

大切なのは、信頼に足る情報をかき集め、事実(と思われる情報)を見極めること。その事実をベースに、自分の生活のなかでできる対策(ルール)と運用方針を決めてそれを遵守する。新しい事実が明らかになったら、過去に設定したルールをためらわずに上書きすることも大切です。

もうひとつ大切なのは、どんなに大切な用件でも熱があるなら休む勇気です。むしろ重要な案件ほど自分の体調が「怪しい」と思ったらお休みを申し出てください。遠慮や忖度なしに、自分の意思をきっぱりと伝える。今回の騒動は、多くの日本人が苦手だと言われる「明確な意志の伝達」ができるようになる機会かもしれません。

ミーティングや会合などを主催する側は、「お休み」を切り出しやすい雰囲気を作ってください。考えなしに強行突破して何事もなければいいという結果論や運に頼ることなく、確率を下げるような習慣を身につける。そういう人が増えるほど、COVID-19の母数も減っていくはずです。ウイルスという敵の全貌と今後の展開がまだ不透明ないまは、さまざまな局面で勇気と覚悟が必要な時期でもあります。あと、万一キャンセルするときには、キャンセル料も支払うよう申し出ましょう。

みなさま、くれぐれもご自愛ください。ふだんの生活をできるだけ維持しつつ、考えながら自分を守ることが、身近な人やお目にかかる人を守ることにつながります。

編集者、ライター、フードアクティビスト

東京都武蔵野市生まれ。食専門誌から新聞、雑誌、Webなどで「調理の仕組みと科学」「大衆食文化」「食から見た地方論/メディア論」などをテーマに広く執筆・編集業務に携わる。テレビ、ラジオで食トレンドやニュースの解説なども。新刊は『教養としての「焼肉」大全』(扶桑社)。他『大人の肉ドリル』『新しい卵ドリル』(マガジンハウス)ほか。共著のレストラン年鑑『東京最高のレストラン』(ぴあ)審査員、『マンガ大賞』の選考員もつとめる。経営者や政治家、アーティストなど多様な分野のコンテンツを手がけ、近年は「生産者と消費者の分断」、「高齢者の食事情」などにも関心を向ける。日本BBQ協会公認BBQ上級インストラクター

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