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将棋界のニュースターが棋王戦五番勝負に登場決定! 本田奎四段(22)史上2位の最速記録でタイトル挑戦

松本博文将棋ライター
(記事中の画像作成:筆者)

 12月27日。東京・将棋会館において棋王戦挑戦者決定戦二番勝負第2局▲佐々木大地五段(24歳)-△本田奎四段(22歳)戦がおこなわれました。棋譜はこちらの公式ページをご覧ください。

 10時に始まった対局は17時39分に終局。結果は106手で本田四段の勝ちとなりました。

 本田四段はこれで渡辺明棋王(35歳)への挑戦を決めました。規定により五段にも昇段します。

 棋王戦五番勝負は来年2月1日に開幕します。四段昇段後1年4か月でのタイトル戦登場は、屋敷伸之五段(現九段)が記録した1年2か月に次ぐスピード記録となります。

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 四段の立場で挑戦者決定戦を制したのは、屋敷四段(1989年後期棋聖戦)、郷田真隆四段(1992年前期棋聖戦、王位戦)以来史上3人目。棋戦初参加でのタイトル挑戦は、史上初となります。

【前記事】

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 第1局は12月16日におこなわれました。振り駒の結果、先手は本田四段。そして戦形は互いに飛車先の歩を伸ばして交換し合う、相掛かりとなりました。

 本田四段が横歩を取る実利を得たのに対して、佐々木五段は右玉に構え、バランスを取ります。

 中盤、角交換の後で佐々木五段は自陣に角を打ち据えました。これが盤面の左右をにらむ名角で、リードを奪ったようです。以下、佐々木五段が着実に差を広げて、80手での快勝となりました。

 第2局は改めて振り駒がおこなわれ、今度は佐々木五段が先手となりました。

 先後が替わって、戦形は再び相掛かり。両者ともに腰掛銀に構える、古くて新しいスタイルとなりました。そして後手番の本田四段は勢いよく銀をぶつけていきます。昭和の昔には「ガッチャン銀」と呼ばれた手法です。

 銀交換、角交換の後、佐々木五段は飛車を中段に浮きました。本田四段は佐々木陣にスキができたのを見て、角を打ち込みます。このあたりから次第に、本田四段がペースを握ったようです。

本田「中盤ぐらいまではうまくさせたかなという気がします」

佐々木「序盤からポイントを奪われてしまって、先手としてはかなり不満で、バランスを保つのが難しい将棋になってしまったかなと」

 佐々木五段は局面の複雑化をはかります。しかし本田四段は決断よく応じ、差も縮めません。時間も形勢も、本田四段が優位に立ちました。

本田「少しよくなってから、ちょっとよくわかんないですけど、ミスがあったような気がする局面があるので、そこがどうかという感じですけれど、そうですね、全体的には上手く指せたんじゃないかなという気がします」

本田「(90手目、銀取りに)△6五歩と突き出したところがあるんですけど、そこは一手勝ちができそうな局面。自玉が堅くて速度計算がしやすいので、そこははっきり一手勝ってるじゃないかなという気がします」

 106手目、佐々木五段は攻防ともに見込みなしと判断したところで、投了しました。

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本田「最初は予選を抜けるというのもたぶん厳しい実力でしたし。予選を抜けて本戦に出れてラッキーぐらいの感じだったんですけれど、本戦でも勝ちが重なって。挑戦というところが目に見えるようになってきて、ここまで来てもまさか挑戦できるとは思わなかったです。最後まで挑戦できるとは思ってなかったのでうれしいです」

佐々木「初めての舞台で、あと一つで挑戦というところだったんで、結果がともなわなかったのはとても残念ですし。うーん、今日の内容だと、挑戦するには値しない内容だったかなと思いますね」

 五番勝負で本田新五段を待ち受けるのは、棋聖、王将も併せ持ち、棋界最強の声もある、渡辺明棋王です。本田五段は次のように抱負を語りました。

本田「勝負になれば、という感じな気もしますので、いい将棋が指せれば。ボロボロになって終わるのではちょっと情けないので、いい勝負ができれば。注目される舞台ですし、情けない将棋を指さないように、という感じですか。いい将棋が指せればと」

 

本田新五段の新記録

 新人のタイトル挑戦に関しては、2016年10月に史上最年少で四段昇段を果たした藤井聡太七段(17歳)がずっと注目されていました。その後に四段になった棋士が先にタイトル挑戦を果たすとは、ほとんどの人が予想していなかったことでしょう。

 本田新五段は1997年7月5日生まれで、川崎市出身。宮田利男八段門下で奨励会に入会し、2018年10月1月に四段昇段しました。

 棋王戦に参加するのは今期が初めて。そして予選を勝ち上がって、参加1期目にして、挑戦権を獲得しました。これは史上初めてのことです。

本田「記録として残るならうれしいですね。ここまでやれるとは思わなかったので、結果が残せてうれしいです」

 棋王戦五番勝負が開幕するのは2020年2月。本田五段は1年4か月でのタイトル戦登場を決めています。

 これは1989年、17歳の史上最年少でタイトル戦(棋聖戦五番勝負)に登場した屋敷伸之四段(現九段)の1年2か月に次ぐ記録です。

本田「あまり意識はしてなかったですけど、結果として挑戦できたのはうれしいですね」

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 四段デビュー以来史上最速のタイトル獲得は、1990年、史上最年少の18歳でタイトル(棋聖位)を得た屋敷五段の1年10か月です。もし本田五段が3月に棋王奪取となれば、1年5か月。これは屋敷五段の記録を抜くものです。

 屋敷五段が挑んだのは、中原誠棋聖でした。この時、中原棋聖は名人、王座を併せ持つ三冠王でした。その中原棋聖からタイトルを奪ったわけですから、当時の棋界の衝撃は大変なものでした。

 渡辺棋王(三冠)に本田五段が挑むという構図は、30年前の中原棋聖(三冠)に屋敷五段が挑んだ時に似ているかもしれません。ちょっとやそっとでは倒せそうもない歴戦の強者が相手です。新鋭の健闘が期待されます。

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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